父が母と祖父を殺した…「家族間殺人」によって“被害者遺族”であると同時に“加害者家族”になってしまった中学生
栗原心愛ちゃんの叔母と祖母が心境
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 2019年に起きた殺人事件は874件。実はその約半数が、家族間で発生したということをご存知だろうか。遺された家族は、被害者の家族であると同時に、加害者の家族だという状況に置かれてしまうことになる。

【映像】日本の殺人事件 約半分が「家族間」で発生

 「僕自身は常に会いたいと思っているが、その機会が多ければ多いほど、父は執行前に僕に会いたいという思いが強くなってしまうだろうし、僕も死に目に会いたいと思ってしまうと思うだろう。執行されれば心に残る傷も大きくなってしまう。だから今はお互いのことを考えて、面会の回数を徐々に減らしていこうという話をしている」

 大山寛人さんは小学4年生の時、交通事故で祖父を亡くした。2年後、両親と夜釣りに行った際に母親が海中に転落して亡くなった。それからは父と2人暮らしをしていた大山さんだが、2002年に、その父が詐欺容疑で逮捕されてしまう。

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 そして大山さんがテレビを見ていて知ったのが、父が祖父(父の養父)と母の殺害容疑で再逮捕されたというニュースだった。祖父は鉄アレイで殴打され、乗せられた車が壁に突っ込み、母は風呂場で溺死させられ、港から海中に遺棄されていたのだ。しかも釣りに行く際、父に「母は酔って寝ている」と聞かされていた大山さんは、“アリバイ工作”に利用されていたことも後に判明した。

 「誰よりも信用していた家族だったので、本当に頭が真っ白になって、何も考えられなかった。表現しがたいが、落ち着きを取り戻すと、葬儀の時に見せた父親の涙は全て偽りであり、父親が幸せな生活を奪ったのだという事実に怒りがこみ上げ、とても耐えられなかった。自分がアリバイ工作に使われていたという事実についても非常にショックを受けたし、憤りを覚えた。一方で、僕がそのことを知ってしまったとしたら、命を奪われていたのだろうかと、非常な恐怖も感じた」。

■「父親に裏切られたことでの心の大きな傷もあって、誰かに相談することもできなかった」

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 父親が逮捕された時点で、大山さんはまだ中学2年生。親戚の家に身を寄せるも非行に走ってしまい、高校に入ると児童養護施設に入所。ところが3日で退学してしまったため、施設にも居られなくなってしまう。公園や友人の家を転々とする生活が始まった。

 「やはり父親が人を殺めていたという事実を周りに知られてしまうのが怖かったし、知ってしまった方々からは偏見や差別もあった。転校したばかりの中学校だったので、いじめられてしまうのではないかという恐れから、身を守る手段として強がって、そして非行に。とにかく荒れた生活だった。友人に話をしたところで慰めの言葉が返ってくるだろうかという年齢だったし、最も信用していた大人である父親に裏切られたことでの心の大きな傷もあって、誰かに相談することもできなかった」。

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 父に死刑判決が下ると、大山さんは「死刑になってほしくない」という内容の手紙も送った。しかしそれは面会拒否を避けるためだったのだという。

 「父親が捕まって3年半が経つか経たないかくらいの頃、鑑別所に入っている僕に手紙が届いた。謝罪の言葉がずらっと書いてあって、最後に“頑張れよ、寛人”と。何が頑張れだ、全てを奪ったのはお前だろうと、本当に怒りを覚えて、父親を責め立てるような、殴り書きの手紙を書いてしまった。それ以後、手紙を出すことはなかったが、一審で死刑判決が下された時、本当に保険金目的で殺害したのかな、葬儀で見せた涙や、家族で過ごしてきた幸せな日々も、全て偽りのものだったのか、という気持ちが出てきた。ただ、死刑執行の前に父の口から犯行の理由を知りたい、そのためには面会に行きたい。許すという感情は一切なかったので、まずは面会をしてもらえるよう、安心させるために手紙を書いたというところが本当のところだ」。

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 そんな大山さんだったが、バイク事故を起こして怪我を負った際、父の意外な様子を目にしたことを契機に立ち直った。

 「本当に、“親の愛情”という一言になってしまうと思う。母親が亡くなり、父親が逮捕されてからは、親の愛情というものを受けずに育っていた。それでも面会を重ねるうちに“家族の絆”を少しずつ取り戻しているという感覚があったし、暴走族をやっていてバイク事故を起こした時の父親は、僕のことを心配して涙を流していた。父親の優しさに再び触れた気がして、これ以上、心配をかけるようなことはできないなと考えるようになった。バイクを盗んでしまった方には、働いたお金でバイクを購入し、弁済させていただいたりした。

 一方で、生きている父親のことだけを考えてしまうと、亡くなった母親を置き去りにしてしまっているのではないかという感覚に飲み込まれてしまう。周りの方々は“お母さんは、ひろ君の幸せを一番に願っているから、父親を死刑にしたくないと思っている気持ちも分かってくれるよ”と言ってくれるが、“お母さんを殺したお父さんを助けようとしてごめんね”という罪悪感は今も変わらずに抱き続けている」。

■「勇気を出して逃げてほしい、逃げていいんだよと言ってあげたい」

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 父の公判に出廷した際にはマスコミに追いかけられたり、拘置所で“出待ち”されたりする経験もした。それでも過去を隠すことなく、自身の半生を『僕の父は母を殺した』という著書にまとめた。

 「しがらみの中から逃げ切るのは難しいのかなという思いもあったし、自分が経験したことをもとに、同じような悩みを抱えている人たちに、何か勇気のようなものを与えることができるのではないかと思った。被害者の遺族であると同時に加害者の家族でもあるという2つの目線から、死刑を望まない被害者の遺族もいるんだという事実を伝えていけたらな、とも考えた。

 本に書いたことだが、もちろん全ての遺族の意見を僕が代弁しているわけではない、僕の場合も、母方の親戚は父親の死刑を望んだし、僕が証人尋問で“父親を死刑にしないでほしい”と訴えた時には、後ろで傍聴している親戚が涙を流しながら“なんでなん、寛人”と言っているのが聞こえた。僕自身も、母親が父親に殺されたという事実を知った時には、言葉は悪いけれど、“自分の手で殺してやりたい”という憎しみがあった。今も身を二つに割かれるような思いを感じている」。

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 大山さんのような、残された家族の相談にも応じているNPO法人「ワールド・オープン・ハート」理事長の阿部恭子さんは「加害者家族というのは、被害者遺族としては見てくれない。日本社会は連帯責任という意識が非常に強く、子どもにまでその責任を負わせてしまう傾向がある」と話す。

父が母と祖父を殺した…「家族間殺人」によって“被害者遺族”であると同時に“加害者家族”になってしまった中学生
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 「自己責任という言葉があるが、他人に迷惑をかけてはいけないという感覚が、誰かに頼ってはいけないという感覚に結びついてしまう。また、家庭が上手くいっているが当然だと思いすぎだが、誰だって家族のことで悩んでいるんだ、という風潮にしていかないといけない。事件が起きると、必ず“なんで相談しなかったのか”と加害者、被害者の双方が責められるが、他人に相談し、問題があることを公にすることに抵抗がなくなる教育がなされていくべきだと思う。

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 例えば学校内で事件が起きた場合、被害者側のケアは進んでも、同じ地域に住む加害者のきょうだいなどは無視されがちな現状がある。また、事件を目撃してしまったり、報道によって迷惑を被ったりした人たちも包括的にケアしようという意識があまりない。私たちの団体のようなネットワークを広げていくことで、加害者側、被害者側の双方が住み続けられるような環境を取り戻すことも可能だと思う」。

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 最後に大山さんは「当時はスマートフォンでネットにアクセスできるような環境があったわけではないし、相談できるような機関があることも知らなかった。もし同じ境遇の子どもがいたら、勇気を出して逃げてほしい、逃げていいんだよと言ってあげたい。今はLINEやチャットの相談窓口もあると思う。そういうことをテレビ番組でも取り上げていただいて、相談しやすい風潮を作っていただけたら」と訴えていた。(『ABEMA Prime』より)

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