大阪・北新地のビルに入る、心療内科のクリニックで起きた放火殺人事件。これまでに24人の死亡が確認されている。火を放ったとされるのは、このクリニックに通院歴がある谷本盛雄容疑者(61)。火災の直後に心肺停止で搬送され、現在も重篤な状態が続いている。
クリニック内の防犯カメラには、谷本容疑者が2つの紙袋を床に置いて蹴り倒し、ガソリンとみられる液体に火をつける姿が記録されていた。目撃者によれば、火は一瞬で燃え広がったという。
現場となったクリニックに通院歴のあった谷本容疑者。心療内科と患者の関係性について、実際に患者の診療にあたる臨床心理士・藤井靖氏はこう話す。
「精神科や心療内科は心の治療になりますから、(患者にとって)自分の心の内を話せる相手は誰でもいいわけではなくて。当然、治療者と患者さんも人と人ですから、相性が合わないことはどんなにいい治療者やクリニック、病院でも起こりうることなんですよね。あとは治療に対する考え方のギャップが出る場合があって、患者さんとしては自分の病気を治したいということで病院に来ますけれども、『自分としては頑張って(クリニックに)通って、処方された薬を飲んだり、カウンセリングを受けたり、プログラム受けたりしているのに治らないじゃないか』というような思いを持つ場合があります。これは治療者と患者の間のコミュニケーションに齟齬がある状態ともいえます」
また谷本容疑者の犯行動機について、藤井氏は「状況から、強い怒りや恨みみたいなものはどこかにあって、ただそれが単純にクリニックだけにあったかというと、それは分かりませんよね。容疑者の人生や生活には背景がさまざまあって、出しやすいところに出した可能性もあります」と推察している。また「事件の被害にあって亡くなられた方々はもとより、簡単に替えが効かない、頼れる治療者を亡くした患者さんや他の医療機関に通院している方々にとっても心に及ぼされる影響は大きく、その意味でも容疑者の罪は深い」と語った。
今回の火災で延焼したのは、床面積の約3分の1にあたるわずか25平方メートルあまりで、死因が判明している人の多くは一酸化炭素中毒だった。なぜ、ここまで被害が拡大してしまったのか……その背景には、心療内科特有の事情があるのではないかと藤井氏は指摘する。
「現場となったクリニックの待合室には非常に多くの方が待たれていたようですが、これは心療内科や精神科のクリニックでは日常的にあることなんですよね。一人あたりの診察時間が他の科に比べて長いですし、特に都市部では、患者さんの数に対して心療内科や精神科の数が全国的に足りていないんです。もう1つは治療の内容。プライバシーに関わる内容というのが身体疾患以上に多く出てきますからね。仕切られたり密閉されたりしている空間で、患者さんが安心感をもってお話をするということが環境として必要。そうすると、他の部屋や場所でいざ何か起こったときに、危機的な状況が起こっていることに気づきにくいところがあるので、特に雑居ビルに入っているような病院では同じような日常があると思います」
できるだけ人に知られず、見られることなくクリニックに通いたいという患者の思い――。心理的にも物理的にも、心の治療をもう少しオープンにするためには、どうしたら良いのだろうか。藤井氏は、社会的な理解が必要だと訴える。
「精神科や心療内科に通っている患者さんに対するスティグマですよね。事件直後から、ネット上でSNSを中心に差別や偏見にあたるような投稿がいくつか見られました。事件が起きたことで、“そういうところに通ってる患者さんは事件を起こす人なんだ”って思われてしまうことは、当事者にとって非常に不利益ですし、大きな負担です。うまくいくはずの治療がうまく進まないということも起こりうる。今回のようなことが起こらなくても、精神科や心療内科に通院してるって言うと、そういう見方、ラベリングのされ方があって、患者さんは普段から苦しんでいる。ですから、今回も問題があるとしたらそれは加害者本人であって、患者さんが問題だということではないので、そこの社会的理解は改めてすべきでしょうね」
(『ABEMAヒルズ』より)
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