元日のABEMA『NewsBAR橋下』に古舘伊知郎氏、辛坊治郎氏、安藤優子氏、東国原英夫氏がゲスト出演。政治報道、実名報道など、テレビの報道が抱える問題について本音トークを繰り広げた。
本記事では、その中から橋下徹氏が「日本の政治がダメな責任は、メディアにもあるんじゃないかということ。民主国家では政治とメディアが両輪だと思う。もちろん、第一義的な責任は政治にあるが、メディアのありかたも変えていかないと、政治が良くなっていかないんじゃないか」として問題提起した、選挙報道の現実や公平性などの問題についてお届けする。
【映像】史上最大の大激論! 橋下×古舘×辛坊×安藤×東国原(1時間40分ごろ〜)
■東国原「電波オークションを提案したら叩かれた」
橋下氏の問題意識を受け、東国原氏は2016年に高市早苗総務大臣(当時)が、政治的な公平性に欠ける放送を繰り返した場合、放送局に電波停止を命じる可能性があると言及したことについて問題提起した。
東国原:政治とメディアの距離感も、どうなのかな。“密着はしても癒着はしない”と言うけれど、すると思いません?だって、総務省が許認可権持っているんだもん。根本的には、放送事業というのは国が持っているんだよ。だから高市さんの一言でみんなが震え上がった。
橋下:番組をやられるときに、局の上の方から司会者に“ちょっとそこの発言は抑えてくれ”とかっていうのはあるんですか?
古舘:なんとなく空気で察することはあっても、具体的なものは来ない。
安藤:具体的に言われたことはない。
東国原:田中角栄さんが1957年に郵政大臣になられて、そこからの電波利権だから。
古舘:そういうことを言われちゃうとメディアは弱い。報ステをやっていてびっくりしたのは、総理大臣よりも総務大臣が来たときの方が大騒ぎだった。気を遣うよ。
東国原:まさに橋下さんが言い出しっぺだったと思うけど、そこで日本維新の会では、「電波オークション」を2012年にマニフェストに入れた。メディアの抵抗はものすごかったね。
辛坊:昔から放送局には実質的にタダに近い価格で電波が貸し与えられているけども、そこを公正な価格にするために、“いくらで買いますか?”“うちだったら、いくらで買います”ってやるのが電波オークション。電波は限りある資源だから、放送局だけでなく、携帯電話会社など、他の産業も使いたい。アメリカが典型的だけど、そこで“じゃあ、この周波数帯をいくらで買いますか”と。
橋下:いま周波数帯には空きがある。テレビ局同士が接触しないように持っているような、その周波数帯がちょっと無駄なんじゃないの?じゃあ空いているところをかき集めて、有効再利用したらいいんじゃない?と。そこを民放の上層部の人たちは勘違いしていて、すでに持っている電波を取り上げられるんじゃないのか?と思っている。
東国原:携帯電話会社は3キャリアで500億円以上の電波利用料を払っているけれど、テレビ局は5億円ずつくらいだから。デジタル化が進めば、ものすごい電波の取り合いになる。それを踏まえての電波オークションということだったんだけど。
■辛坊「政党を厳選して討論をした方が、よほど実りがある」
ここで議論は“政治的公平”など、放送局に義務付けられているとされる「放送法第4条」の問題に。
辛坊:旧郵政省、今の総務省が仕組んだうまい仕組みだが、今のテレビ局は、既存の大きな新聞社の傘下にぶら下がっている。新聞社は政府のコントロールを受けないが、その下のテレビ局は放送法や電波法によって政府のコントロールを受けるので、放送局を通じて上の新聞社にも影響を及ぼせる。そして放送局の社員は、政府よりも自分たちの人事を司る、新聞社からの天下りの人を見て仕事しているし、そういうところに忖度する。日本だけだよ、こんなことをしているの。
東国原:政治家っていうのは“電波利権”を行使すると同時に、放送法4条で“言論統制”をしてんだると僕は思っている。
橋下:でも、それは政府与党に気を遣えっていう意味じゃなくて、純粋に政党同士を公平に扱えって意味じゃないんですか?
東国原:“不偏不党”っていうけど、100%は絶対にないから。
安藤:自民党総裁選の報道にあまりにも時間を割くから、野党が埋没してしまうのも当然。“公平に扱ってほしい”という野党側からの申し入れもあって、ある時からガラっと変わった。自民党総裁選のニュースの後に、野党のニュースがくっついてくるようになった。でもこれって、ある意味で“逆言論統制”みたいな話にならないか。与党のリーダー=国のリーダーだから、それを選ぶ選挙にある程度の時間を割いて報道するのは、ある意味で当然のことだと思う。そこに対して野党が“総選挙を前にして、それはおかしいじゃないか”と言うのは、“んー、やっぱりそういうものなのかなぁ”と思った。
古舘:総選挙が近い、参院選が近い、となれば汲々としてくるけれど、その点、総裁選には縛りがないから。“電波ジャック”された体で自民党の“お祭り”に加担しておけば問題ないということだと思う。
辛坊:ぶっちゃけて言うよ。ゴミみたいな政党ほどうるさいの。選挙の前になると放送局に“とにかく公平に扱え”という文書を送りつけてくる。でも、1時間番組だと、CMを抜くと実質45分。政党助成金をもらっている政党が仮に9党だとすると、公平に時間を割り振ったら、1党あたり何分になるんだよと。それが果たして公平かって。
ある党が、“うちは国民全員に1億円ずつバラ撒きます”、って言ったとする。政党の公約なんだし、言うのは勝手だけれど、実現できないんだから、聴く価値はゼロなんだよ。それなら、実際に政権を担当する可能性のある政党、政策に影響力のある政党を厳選して討論をした方が、よほど実りがある。
俺は読売テレビに入社したとき、放送法を全条、暗記させられた。それくらい徹底的に教育された。でも放送法第4条の「政治的に公平であること」って、何が公平かわからないから。だから物理的な公平にいく。誰からも突っ込まれないために、全党に同じだけの時間を差し上げています、っていう建前を作っているんだよ。
■安藤「やっぱり昔は“イケイケ”だった。今は行儀が良すぎる」
一方、辛坊氏らは、テレビ報道も変わってきていると指摘する。
辛坊:高市総務大臣に恫喝されてメディアが怯えて…みたいな話があったけれど、1990年代には「椿事件」というのがあった。テレビ朝日の報道局長が、「今度の選挙放送は自民党政権を潰すためにやるんだ」というようなことを宣言していたという話が表に出ちゃって、自民党を中心に大騒ぎになった。つまり放送局が政府・与党に忖度して、すり寄って…みたいな話とは逆方向の話だ。そういう時代もあった。
古舘:放送法第4条の話になるが、変わっていかないといけない。番組ごとの自律性みたいなものに委ねるというニュアンスも含まれているはずなのに、解釈の仕方としては、あくまでも政治的な中立公正。でも、それを強く意識すぎると、働いている人たちが首をすくめてしまうというところが出てくる。
だからそこは局全体でバランスを取るといった考え方も大事だと思う。一つの政党に肩入れしすぎるのは良くないけれど、人間が作って、人間が喋っているものがツルンツルンの中立公正、真ん中にいられるはずがない。それなのに、あまりにも神経質になって、お行儀よく、きちんとやりすぎる。それが今の問題につながっていると思う。選挙報道にしても、終わった後にワーッとやったって意味がないっていうことも痛感している。
橋下:党首討論なんかでも、秒数管理しているんでしょう?
古舘:VTRはそう。クレームもあるんで、そこは時間を公平に。その分、討論になったら司会者の裁量に任される。そこが勝負だ。自らガンガン意見を言ったら、これもまた問題になるので、例えば橋下さんが消費税について喋っているときに共産党の志位(和夫)さんがピキッと来ているのを見つけたら、橋下さんの発言を遮って、“志位さん、何が言いたいんですか?”と。そうやって、“この人とこの人の意見の対比を見せたい”ということを、ものすごく神経を使いながら、仕切りで一生懸命やった。だから最近、やたらとフリップを使うのが情けない。自民党の総裁選のときもそうだし、党首討論のときもそうだった。
安藤:マルバツね(笑)。
古舘氏:あれに頼っちゃったら、ちっとも面白くない。時間管理しやすいし、粛々と進められるけど、つまらない。政治家も勝負だけど、司会者としても勝負だからね。頑張らないといけない。
橋下:そういうところは、プロデューサーが腹を括ればできることではないんですか?
古舘:正力(松太郎)さんがアメリカからプロレスとプロ野球とテレビメディアなるものを連れてきた草創期のテレビ局は、チンピラの集まりみたいなものだった。辛坊さんが言ったような組織の話で言えば、それこそ新聞社から爪弾きに遭って流れてきたような人たちの巣窟みたいなものだから、悪さでもあるが「やっちゃえ、やっちゃえ」みたいな良さもあった。それが花形産業になってくると、一流大学をご卒業した人たちが集結して、きちっとなっていった。安藤さんはご存知だと思うけど(笑)、フジテレビの編成だって、昔は“吹き溜り”だったのが、エリートになっている。
安藤:やっぱり昔は“イケイケ”だった(笑)。ちょっとどうかと思うが、どこにでもカメラを持って、ズカズカと入ってく横暴さもあった。それが今は本当に行儀が良すぎる。こんなに行儀が良くて、“正義の味方ヅラ”をしがちな感じとは、ちょっと違っていた。
■古舘「加点主義から、失点を恐れる時代になっている」
古舘:「BPO(放送倫理・番組向上機構)がヤバいから」と自主規制を入れてしまうところがあるが、そんなに怖がらず、むしろ対峙する部分があってもいいと思う。これは辛坊さんに聞きたいことなんだけど、BPOは放送業界の内側スレスレに作られたものだと思うし、根も葉もない、元も子もない言い方をすれば、こっち側の味方でもあると思うのに、放送業界の外側からドンと沙汰を降す“お白洲”みたいになっているのが解せない。
辛坊:おっしゃる通りだ(笑)。BPOの実働部隊に先輩が何人か行っていたが、なぜか、みんなすごくいい人たちだったし、放送局がヤバそうなことになると、できるだけ庇うように動いてくれた。もちろん、「ごめん、今回はちょっと庇いきれないわ」みたいなこともあった。でも、現場の若い人たちはそんなことを知らないから、BPOに対して“テレビ界の検察官”みたいなイメージを持って怖がっている人も多いのかもしれない。
古舘氏:僕はテレ朝の局アナからスタートしているから、テレ朝に足向けて寝られないのは事実。だから酔っ払いながらも気を遣って喋ってるんだけど(笑)、本当にそうだと思う。やっぱり、働いている側が加点主義から、失点を恐れる時代になっているんだと思う。
橋下:東さんが最初に言われた高市さんの停波の話だって、「著しい法令違反をした場合には電波を止める場合もある」ということを言っただけであって、番組内容について言ったわけではないし、実際にはできないんじゃないですか。
辛坊:まさにそうだ。ほとんどの人はテレビや新聞の報道を通じて、東さんのような印象を持っているのだろうが、あの時の高市さんの発言を詳細に見ると、誰が発言したってこれ以外の発言はない、というものだった。つまり、放送法には罰則がないが、放送法に違反すれば自動的に電波法違反になる。そして電波法に違反すれば停波になるということは条文に書いてある。
だから記者が「放送法違反で停波があり得るのか」と聞かれたら、総務大臣としては、「法律上、それはあり得る」としか答えようがない。それなのに、回答のところだけ取り上げて、“高市大臣が放送局に圧力を…”と新聞が大騒ぎしただけの話。恫喝させるために言ったのではなく、実は当たり前のことしか実は言ってなかった。あれで影響されてしまう現場は、よほど頭が悪い。
橋下:それが現場に影響したということであれば、放送局の腰が定まっていないということだと思う。
古舘:でも、やっぱり一部は動揺したし、怖がった。だから騒ぐし、撤回してほしいなと思いが働く。いい悪いじゃなくて、高市早苗さんがそういうことを言ったと聞けば、許認可事業者としてはビビってしまう部分がある。
安藤:“放送法違反とはなんぞや”が語られなかったから、みんなが動揺した。まさにさっきの4条の“政治的には中立であるべし”という話もそうだけれど、何をしたら放送法に抵触するのか。テレビというのは、この人は本当にそう思っているのか?ということが一瞬にして分かってしまうメディアだ。生身の人間のフィルターを通して話をするのであれば、どんなに中立な言葉を使っても、言葉の端々に出てくるわけだ。100%中立であるというのはまやかしで、あり得ない。
古舘:発言を巡って一人一人が解釈するから、100通り、1000通りになる。はたと立ち止まって、ちゃんと斟酌すべきだ。
■橋下氏「地上波メディアはインターネットを抱え込まないと」
橋下:いざと言うとき、政治権力が真っ先に押さえにかかるのはメディアだ。どこの国でも、権力チェックを嫌がってメディアを潰しにかかるのが独裁政治の第一歩。電波を本気で止めようと思えば、政治権力は止められるんですよ。それに対抗するためにも、今の地上波メディアはインターネットというメディアを抱え込んだ形で持っておかないといけないと思う。だけど今のテレビ局というのは、インターネットメディアをなんとなくちょっと下に見ているというか、併せ持つ、一緒に政治権力に対抗していくという意気込みが見られない。
東国原:“放送と通信の融合”というが、むしろ通信の比重は大きくなっていくと思う。地上波が放送法でできない部分を、インターネットで補完して、ガンガン本音を言う。日本維新の会が2012年に放送法の改正や撤廃を訴えたのも、アメリカみたいにそれぞれの放送局が政治色を持って放送していいと面白くなるんじゃないか、という議論だった。それはもう却下されてしまったが、今後はアメリカみたいになっていくのではないかと思うし、電波を返上するテレビ局も出てくるだろう。
古舘:地上波のテレビには、ネットを本当に見下していた時期があった。でも、そんなこと言っていられないのがようやく分かってきて、これからそういうふうになっていかざるを得ないと思う。
番組では、さらに少年犯罪の加害者・被害者の実名報道をめぐる議論について、辛坊氏と橋下氏が大声で論争するなど、白熱のバトルが繰り広げられていた。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)
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