沖縄県や山口県などの在日米軍基地での感染拡大。沖縄県の玉城知事は「十分な感染予防対策に関する情報提供も共有もままならないなどの状況を作り出している日米地位協定がもたらす構造的な問題であるという強い危機意識を持っていただきたいと思う」と指摘。中国外務省の汪文斌副報道局長は5日、「米軍は繰り返しスーパースプレッダーになっている」と批判している。
一方、ブリンケン米国務長官との外相電話会談を終えた林芳正外務大臣は6日、「地元の不安解消に向けて外出制限の導入を含め、感染症防止拡大の措置の強化と徹底を強く求めた」とし、ブリンケン長官からは「米国にとっては在日米軍だけでなく地域住民の健康と安全が非常に重要であり、日本側の申し入れについては直ちに国防省に伝え、日本政府としっかり連携し、感染のさらなる拡大を防ぐため、できる限りのことをしたい」との返答があったとした。
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5日の『ABEMA Prime』に出演した、元航空自衛官で防衛大臣を務めた森本敏氏は「基地内ではマスクを着けていないという指摘があるが、パイロットがマスクを着けて戦闘機に乗るというのがなかなか難しいように、陸上部隊も含め、戦闘員というのは与えられた任務、オペレーションの実行時にはマスクを着けない。やはりウイルスに感染することよりも、相手に対して実力をいかに発揮するかがメインになるからだ。もちろん家庭人としている時には切り替えているし、その点は理解しないといけない。
それから、沖縄のキャンプ・ハンセン、キャンプ・フォスター、それから山口の岩国基地で感染者が多いが、これらは海兵隊の基地で、兵員が本土からやってきて一定期間の訓練を終えると本土に戻るという“ローテーション”が行われている。これについてアメリカ国防省は去年9月、非常に細かなルールを作っていた。ワクチン接種済みであればアメリカを出国するときのPCR検査は受けなくてもよい、日本に入国の際も、その場では受けなくてもよい。ただ、5日後には受け直す、というルールだ。はっきり言うと、このことをアメリカ側も日本側も、その改定の意味を正しく理解していなかった可能性があると思う。
心配なのは、地域の方々への感染拡大の防止だ。基地内の売店などで働いている日本人は2万3000人くらいいるので、全く接しない、ということは難しいし、その方々が家庭に帰るということも考えれば、やはりアメリカにルールを守ってもらわなければならない。アメリカ人というのは、世界中どこに行ったってアメリカ人だ。しかし今、アメリカ社会のルールを日本社会に持ち込まれると困るわけだ。そこは米軍の兵士として、本土にいようが船内にいようが海外にいようが、同じく軍のルールをきちんと守らせなければならない。
それがここ1カ月ぐらいで徐々に分かってきたという状態なので、日米双方が慌てて事実関係を調査し改善しようしているのだろう。日本社会を守ってもらっている米軍と我々日本人の身の安全を守るのは政府の責任だ。言うべきことはきちんと言う、ということで、林外務大臣も4日、在日米軍司令官に対して、全員がワクチン接種を受けること。次にアメリカを出国し、日本に入ってくる時にPCR検査を受け、5日後にも受けるという3点を申し入れている。加えて、日本に入国してからの14日間は我々と同様に、自屋の外に出てクラブに飲みに行くといったことはダメだというルール、これを見直してほしいと、非常に厳しく申し入れている。
感染者が増え、日本側からの申し入れがあり、“これは普通ではない”ということになっているが、アメリカ側としては当初、“国防省が決めたルール通りにやればいい”と思っていたのだろう。ただ、このままでは日本に安定的に駐留することが不可能になってしまう事態にもなることから、非常に厳格になっている。ここからの推移を見ないといけないと思う」。
■「岸田総理は2022年の末までに、国家安全保障戦略を見直そうとしている」
在日米軍での感染拡大を受け、「合衆国軍隊の構成員は旅券および査証に関する日本国法令の適用から除外される」との一節もある「日米地位協定」を見直すべきだとの声も上がっている。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「東日本大震災の時に米軍の『トモダチ作戦』が話題になったが、やっぱり“友達”にはなれていないんだな、と感じた。長年付き合ってはいるけれど、圧倒的な力の差があって、“お前はパンを買ってこい”というような、“使い走り”の関係ではないか。現場のレベルでは今までも納得の行かないことがあったんだろうなと思うし、それが観光産業で食べている沖縄県を中心に、ウイルスを通じて数字として表れてきたということだ。戦後70年以上も続いてきたこの関係が、これから100年、150年と経てば対等になるのか不安だ」と指摘する。
一方、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「日本の1日の新規感染者数が2000人を超えてきたが、アメリカでは100万人を超えている。 日本人は感染が増えてくると大人しく過ごそうと自粛するが、“それでもやっぱり自由が大事なんだ”というのが欧米の考え方でもある。だからといって、世界で動いて感染を撒き散らしている米軍は出ていけというわけにはいかない。フィリピンから米軍が移転した途端に中国が南シナ海に進出したことから見ても、特に“台湾有事”が目の前のリスクとして語られるようになっている今、どうやって米軍と付き合うのか、非常に微妙でややこしい問題だ。
それから、日本がドイツやイタリアと違うのは、米軍に対して非常時以外でも国内法が適用されないということだ。しかも2国間ではなく、NATO(北大西洋条約機構)の枠組みでもある。それでも日本だけが地位協定で酷い目に遭わされているというのは言い過ぎだし、容易に解決がしにくい。ただし、アメリカとしても感染者が増えれば、それこそ在日米軍としての存在意義自体が失われてしまう。対策を強化することは日米双方にとって損ではないということで、国防省を動かすぐらいのことをやった方がいいのではないか」とした。
外交官の経験も持つ森本氏は「NATOの場合、30カ国による地位協定という大きな傘があり、その下に2国間の具体的な協定、ドイツで言えばボン協定といったものがある。つまり日本が地位協定を改定しようとすれば、途端に全世界の地位協定の改定の問題に跳ね返ってくるので、議会の承認も必要になってくるアメリカとしては厳しい。だからこそ日本も経費分担の特別協定や、合同委員会での合意などの“運用”によって問題を処理してきたし、それで結構うまくいってきた」とコメント。
「外務省と防衛省で30年にわたって地位協定を扱ってきた私からしても、日米地位協定の1行、1字を変えるだけでひっくり返るくらい大変な仕事になるだろうと思う。そんなことをするならば、今目の前にある問題をどうやって解決するかを率直に話せるきちんとした枠組みをどうやって運営していくかということの方が重要だ。
何かあるとすぐ“日米地位協定を変えればいい”という意見が出てくるが、アメリカが40カ国以上と結んでいる地位協定を見ても、いずれも新型コロナウイルスの感染のようなことについては定めてはおらず、各国のルールに基づいて検疫をするということになっていて、その詳細は合同委員会の同意によって決めている。その意味では、もう少し運営の方法があるのだろうと思う。
その点では、まさにオースティン国防長官が感染者になったばかりだが、その国防省が決めたルールを現地の部隊が勝手に変えることはできないし、そのルールも日本政府が物を言うことで初めて変わっていく。沖縄は観光で成り立っているし、知事は県民の安全を守るという非常に重大な責任を負っている。そして今年は県知事選挙もあるので、玉城知事の危機感、問題意識はよく分かる。そうであれば、もう少し早い段階で政府に申し入れたらよかったのではないかとも思う。
そして、これは文化という以上に国家間の大きな問題だが、岸田総理は2022年の末までに、国家安全保障戦略を見直そうとしている。それは一言で言えば“対中戦略”だ。NATOであれば30カ国がアメリカを支えてくれる。しかしアジアを見ると、韓国は朝鮮半島にしか関心がないし、ASEAN諸国は自分のことしか考えられない。そしてオーストラリアは遠すぎる。つまり、地域全体のことを理解し、犠牲を払うということになるかもしれないが、それでも地域の安定のためにアメリカを支えられるのは日本以外にない。アメリカもそこに期待をしている。私もどっぷり中に入っているが、この1年間、非常に大きな国家の在り方の変換が行われると思うし、そのために議論がどう進むか、非常に大きな関心を持っている。国家そのものの存在が成り立つかどうかくらい、重要な戦略の見直しになると思う」。
さらに佐々木氏は「では、もし台湾有事が起きたらアメリカは日本に何を求めてくると思うか」と質問。すると森本氏は「アメリカの作戦の半分以上を助ける」と回答した。
「我々は戦争をする気はないし、相手にもないと思う。だから作戦目的のためにアメリカが役割を果たす部分と、日本が役割を果たせる部分を相互補完しながら、とにかく抑止を効かせていく。それでも彼らが手を出すと言うのなら、確実にそれを排除できる能力がなければダメだ。その役割分担と能力を、僕は“RMC(ロール・アンド・ミッション・アンド・ケイパビリティ)と呼んでいて、役割分担(ロール・アンド・ミッション)については議論をしてきたが、能力(ケイパビリティ)が足りない。それでも本当は足りないが、日本は財政が厳しい中、防衛費を6%以上増やそうとしている。そのくらいの防衛力がなければ、この地域でアメリカが自由に活動できないぐらい、兵力は少なくなっているからだ。
この、アメリカだけでは絶対にやっていけないということを国民の皆さんに理解してもらわないといけないし、だから台湾有事でも、“作戦の大部分を直接助けろと”言ってくるだろう。中国はアメリカ海軍が周辺にいない時に行動を起こすだろうし、その場合は日本の海上自衛隊が助けないといけない。この地域にはアメリカの戦闘機は100機ぐらいしかない。本土から空軍力を持ってこようとすれば1週間以上かかるだろう。結局は日本の海空戦力をかなり使って、アメリカの作戦の半分以上を助けることになるはずだ」。(『ABEMA Prime』より)
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