ラストシーンはこのチームにふさわしく華麗で、このカードにふさわしく劇的だった。
ダブルスのマッチタイブレークまでもつれたロシアとカナダの準決勝。9-7でカナダ2度目のマッチポイント、ダニール・メドベージェフの長い腕からフォアのクロスへ放たれたリターンに、デニス・シャポバロフが飛びついた。リーチの短いバック側で、かろうじて捌いた気迫のボレー。勢いでくるりと回転し、次の瞬間、メドベージェフの前方に落ちたボレーがウィニングショットになった。後ろを振り向き、駆け寄ってくるフェリックス・オジェ アリアシムアリアシムと歓喜のチェストバンプ。ネットの向こうではメドベージェフとロマン・サフィウリンが静かに握手をかわし、2人ですべての単複を戦い続けたロシアの長い旅は終わった。
どこでどう転んで逆の結果になっていてもおかしくなかった。サフィウリンが167位というデータはもうほとんど無意味で、14位と圧倒的優位のシャポバロフも最終セットに持ち込まれた。第4ゲームで7回のブレークポイントをしのいだ場面が、シャポバロフの勝利のカギとなっただろう。その後、積極的にストレートへの展開を仕掛けた第7ゲームでブレークに成功した。
続くナンバー1対決ではメドベージェフがオジェ アリアシムを6-4 6-0と突き放した。
そしてダブルス。メドベージェフ/ロマン・サフィウリンがまず第1セットを奪った。第2セットは両者譲らずシーソーゲームのまま、ロシアサーブの第12ゲームへ。0-40とトリプル・セットポイントのピンチからデュースに追いついたロシアだったが、ノーアド方式のディサイディング・ポイントをものにできず、カナダが第2セットをもぎ取って迎えたマッチタイブレークだった。
シャポバロフは親友のオジェアリアシムと互いに力を与え合ってきた結果に胸を張る。
「僕たちはいっしょに成長してきた。小さな大会から戦ってきて、今こんなすばらしい大会の決勝までくることができた。こうやってフェリックスとここに並んでいることが最高にうれしいよ。チームみんなの相性も最高で、そこが他のチームよりも一番まさっているところだと思う」
今から約6年前、シャポバロフが16歳でオジェ アリアシムが15歳のときに全米オープン・ジュニアのダブルスで優勝した。同じ年にはジュニア・デビスカップも制した。翌年のウィンブルドン・ジュニアのダブルスは準優勝だったが、この大会でシャポバロフはシングルス制覇を果たし、2ヶ月後の全米オープンで今度はオジェ アリアシムが優勝。カナダテニスの未来を煌々と照らしていたものだ。
しかし、プロではまだ「2人で」てっぺんを獲っていない。ダブルスを組むことはほとんどなくなったし、ATPカップは初開催の年がベスト8、昨年はグループラウンド敗退を喫した。デビスカップで2019年に決勝に進出したが、初優勝には届かなかった。このとき準決勝で破った相手はロシアで、決勝で敗れた相手はスペインだ。オジェ アリアシムがロベルト・バウティスタ アグートに、シャポバロフがラファエル・ナダルにいずれもストレートセットで敗れ、ダブルスを待たずに決着がついた。
準決勝でロシアを破って決勝でスペインと対戦するという今回のシナリオは、奇しくもあのときと同じ。そして、オジェ アリアシムが戦う相手はやはりバウティスタ アグートだ。現在世界ランク19位の33歳は、自己最高の9位だったときに勝るとも劣らないテニスで勝ち上がってきている。しかし、あのデビスカップ決勝以降2連勝しているオジェ アリアシムは、自信を口にした。
「フィジカル的にもメンタル的にもタフな試合になると思う。しっかりリセットして明日の戦いに備えたい。2連勝していることで強い気持ちで臨めるのは確かだよ。明日も勝ってみせる」
シャポバロフの相手は20位のパブロ・カレーニョブスタ。ここまで全勝の30歳が今大会で戦った相手にトップ40の選手はいないが、シャポバロフには過去4勝1敗と勝ち越している。
両チームのシングルス2人の平均年齢がちょうど10歳差という世代対決。スペインが2年前に届かなかったカップを手にするか、カナダがデ杯のリベンジと同時にチーム戦初優勝を遂げるのか。熱戦必至のファイナルが幕を開ける。
文/山口奈緒美