若いエネルギーが炸裂。10年で急成長したカナダがスペイン下して3代目王者に/ATPカップ
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 世界一の称号を手にしたチームは、11年前まで世界のトップ40に男子の誰一人到達したことがなかったカナダだった。男子プロテニスの国別対抗戦『ATPカップ』。21歳のフェリックス・オジェ アリアシムと22歳のデニス・シャポバロフを主力とした若いチームが、デビスカップで6度の優勝を誇るテニス王国スペインを2-0で破り、第3代チャンピオンに輝いたのだ。

【映像】先勝して吠えるシャポバロフ

 スペインには2年前のデビスカップの決勝で敗れていた。エースのラファエルナダルは今回欠場したが、精密さを誇る33歳のロベルト・バウティスタ アグートと粘り強さが持ち味の30歳パブロ・カレーニョブスタは、それぞれ19位、20位と層は厚い。

 まずナンバー2対決で、シャポバロフがこれまで1勝4敗と負け越していたカレーニョブスタに6-4 6-3で快勝。躍動感ある多彩なショットメークの才能が、見事に発揮された一戦だった。

 続いてオジェ アリアシムが過去2勝1敗のバウティスタ アグートに対し、要所を締める冷静な試合運びで7-6(3) 6-3。エース兼チームキャプテンが自らの手で歴史的勝利をたぐり寄せた。

「長い道のりだったけど、信じることをあきらめず、全てを出しきって戦った結果だと思う」

 セレモニーのスピーチでは、チームメイトたちに感謝と労いの言葉を贈った。シャポバロフのコロナ陽性、準備不足、そして初戦0-3の完敗。そんな低調なスタートからの快挙を可能にしたものは、驚異的な回復スピードを見せたシャポバロフの若さや身体レベル、崖っぷちで踏みとどまって望みをつないだオジェ アリアシムの戦いぶりだろう。親友の二人の間では、それが単に足し算ではなく相乗効果を生んだ。

 オジェ アリアシムは記者会見で語った。

「振り返れば、2015年のジュニア・デビスカップが国別のチーム戦で初めて経験した優勝だった。個人的なキャリアの中でも最初の大きな出来事だったよ。あれから長い間、こういうときが来ると信じて、夢見ていた。お互いに切磋琢磨して高め合ってきたんだ」

 オジェ アリアシムが言う『ジュニア・デビスカップ』とは、16歳以下の国別対抗戦のこと。歴代優勝チームのメンバーの中には、ナダルやエフゲニー・カフェルニコフ(ロシア)など、のちの王者の名が見られるもののプロツアーのトップレベルにまで到達する選手は少ないのが現実だ。ましてやの同じチームで戦ったふたりが揃ってトップ10入りしたり、プロでもいっしょに世界一を獲るなど他に例がない。

 類い稀な二つの才能が巡り合った運命のほかに、その理由を挙げるとしたら、カナダのテニス協会が取り組んできた育成・強化の下地があるだろう。コーチやトレーナーなど優秀な人材を外国からも登用し、多彩なテクニックや忍耐力がより身につくといわれるクレーコートをナショナルテニスセンターに複数作るなどし、選手とそのスタッフへの経済的サポートも積極的に行ったという。

 その中で、まずミロシュ・ラオニッチという成功例が生まれた。かつては一歳違いの錦織圭とのライバル関係でも注目された彼は、ATPにコンピュータランキングが導入された1973年以降、男子で初めてトップ40を切ったカナダ人だ。2016年のウィンブルドンで準優勝し、その年、世界ランク3位にも到達した。ラオニッチは度重なるケガの影響もあり、31歳になった今は70位までランキングを落としているが、その存在は “オジェ&シャポ世代” にも大きな影響を与えた。

「同じ国にお手本となる選手がいることはとても大きなモチベーションになる。自分もできると信じることができる。僕自身がそうだった」と以前、オジェ アリアシムは語ったことがある。

 グランドスラムの決勝、世界ランキング3位という域にまだ二人は達していない。それでも新しい時代を担い、次の世代へと影響力を発しているという実感がある。シャポバロフはその自負をこのように話した。

「僕たちの国はサマースポーツで知られた国じゃなかったけど、この5年くらいは夏のオリンピックでも注目されるようになってきて、たくさんのアスリートが結果を残している。特にテニス。今またこれが次の大きな一歩になると思う。多くの子供たちが僕たちのプレーを見てラケットを手にとり、テニスを始めてくれればうれしい」

 2022年、カナダにいっそう大きなテニスブームが到来するのだろうか。『ビッグ3』のあとの覇権争いの中で新たな主役が生まれそうな、センセーショナルなシーズンの幕開けとなった。

文/山口奈緒

【映像】先勝して吠えるシャポバロフ
【映像】先勝して吠えるシャポバロフ
世界テニス国別対抗戦 ATPカップ2022 - 決勝 - 【スペインvsカナダ 第2試合ハイライト】
世界テニス国別対抗戦 ATPカップ2022 - 決勝 - 【スペインvsカナダ 第2試合ハイライト】