米大リーグ、ヤンキース傘下のマイナー球団で初の女性監督が誕生することが話題となっている。
「タンパ・ターポンズ」の指揮を執ることになったのは、レイチェル・バルコベック氏(34)。運動生理学やマネジメントの学位を取得後、2012年にカージナルス傘下のチームでコンディショニングコーチを務め、野球指導者としてのキャリアをスタート。
その後、オランダ代表コーチなどを経て、2019年からは、女性で初めてフルタイムの打撃コーチを務めていた。一方、学生時代にソフトボールの捕手をしていたものの、野球選手としての経験はないという。今回の抜擢が、野球界、そして世界のスポーツ界にどのような影響を及ぼすのだろうか。
スペインの男子サッカーリーグ3部で初の女性監督を務めた経験を持つ佐伯夕利子・Jリーグ常勤理事は「喜ばしいニュースだと思う一方で、あのアメリカでもこうやってニュースになるんだな、我々の社会というのは、その程度の進捗状況なのかな、という気持ちもある。私がスペインで監督に就任したのは20年も前のことだが、中南米のメディアにたくさん取材していただいた。スペイン国内におけるジェンダー平等が達成されていない証なのではないか、という内容のことを話した記憶があるが、やはりスピード感の遅さを証明しているのではないか」と話す。
一昨年、日本アメフト界初の女性監督となった澤木由衣・関西外国語大学アメフト部監督も「確かにスピード感の遅さはあると思うが、マイナーリーグとはいえ、現代アメリカの象徴といえるスポーツだ。純粋に素敵で、価値のあることだと思うし、ロールモデルになっていくのではないか」と期待を込める。
では、女性の指導者が男性選手を指導する際、女性選手を指導する場合との違いはあるのだろうか。
佐伯氏は「一般化して語ってしまうのは乱暴だが」と前置きした上で、「指導者への“期待の幅”が異なる印象がある。男子チームの場合、ロッカールームに到着し、トレーニングやゲームを終えてシャワーを浴びて帰るまで、要は“ドア・トゥ・ドア”の部分での期待をされていたような気がするが、女子チームは、プライベートや学校・職場で起こっていることも含めたトータルマネジメントをした上で、ピッチ上で自分を理解してほしい、つまり“ドアの外”についても期待をされているように感じていた。実際、1on1でそういったことを要望するアスリートもいた」と明かす。
「自分も女性として“女性って難しいな、ややこしいな”という部分はあるが(笑)、チームとしての活動の上においては、そもそも全く違う人間の集まりなので、それ自体に性別はあまり関係ないと思う。やはり私が圧倒的に信じているのは“組織力”だし、それをいかに最大化、最適化するかに挑戦していきたいと思いながら、指導者としてのキャリアアップを目指してきた」。
また、バルコベック氏にプロレベルでの競技経験がないということについては、「私自身も“競技を楽しんだ”というレベルで、当然のことながら日本代表になれるほどのアスリートではなかった。しかし、指導者は選手として優秀で、成果を残した人でなければいけないのか、選手としての経験が、優秀な指導者であることとどれだけ結びつくのか、そういう先入観、ラベリングは見直す必要があると思うし、そのための議論が、さらに豊かなスポーツ界に繋がっていくのではないか」とした。
澤木氏も、アメフト選手としてプレーした経験はないといい、次のように語った。
「私が皆様から期待されるような仕事ができているかといえば、そうではない。それでも、自分ができないことができるようになるにはどうすればいいのか、その過程、苦しみ、もがきというところに寄り添っていくことはできると思っている。だから私自身の“こんなチームを作りたい”というものに付いて来てもらうのではなく、学生スポーツとして、選手たちがどう自己実現したいのかを引き出した上で、それらをチームビルディングによってどう実現させるのか、方向性を決めて伴走していく、そういうイメージで考えている。
もちろん、知識やスキルを教えるのはすごく大切だし、そのための環境を整備することが監督の役割の一つだと思っている。ただ、私はそれ以上に、学生といかにコミュニケーションが取れるか、信頼関係を築けるかというところを重視し、主体的に学んでいけるきっかけを作ることを大切にしたい。戦略やスキルの部分に関しても、恥ずかしながら知識が多い方ではない。だからこそ、コーチ陣の中で役割分担をしっかりと決めている」。
澤木氏の意見に、佐伯氏も「人間関係の構築が基盤にあるというのは私の中にもある。もちろん、“元選手”であれば、そのバックグラウンドやキャリアが他者の説得に少なからず影響するということは感じている。実際、私が言っても伝わらないことが、“誰がそれを言っているのか”によって聞く耳を持ってもらえた、ということも残念ながらある」と賛同。
「それだけに、自分一人で全員を説得納得させようというよりは、コーチングスタッフに色々な役割を持っている人材が揃っているので、そこを上手く認識しながら、伝わりやすい人に伝えてもらうようにしている。それもまた、指導者としてのマネジメント能力だと思う」。
今後、両氏のような女性指導者を増やす上で、必要なことは何なのだろうか。
澤木氏は「私は今年で32歳になるが、一番年上だ。コーチには去年の卒業生もいて、中には女性もいる。他大でも女性のオフェンスコーディネーターが活躍しているということが、ここ1、2年で出てきた。うちの大学ではアナライジングの組織を作って3、4年になるが、やはり女性たちが活躍できる場を作っていく必要があると思う。そういう経験を経ることで、選手経験はないけれど、私なんかよりも100倍も200倍も詳しいような女性たちが前に出ていくことになるのではないか。
佐伯氏は「私の場合、指導者をしていたのはスペインなので、少なからず西洋文化というか、意識の進み具合は日本のそれとは多少違っていたかもしれない。その意味では、運が良かったかなと感じている。こういう議論をすることの目的というのは、よりよい社会を作り、より幸せになろうということだと思う。やはり理想は人々のマインドに変容が起き、自然とそういう状態になっていくことだと思うが、残念ながら、なかなか前に進んでこなかった歴史の現実がある。そのためには、まさにクオータ制の採用のように、組織の仕組みや制度を変えるという方法がある。少しずつ女性が増えることで人々の意識やマインドが変わってくるだろうし、それによってよりよい社会になっていけるかもしれない希望をいつも持っている」。(『ABEMA Prime』より)










