「貴族」と呼ばれる男がもがいた末に、なんとか勝利にたどり着いた。「第1回ABEMA師弟トーナメント」予選Bリーグ1回戦・第1試合、チーム森下とチーム中田の対戦が1月15日に放送され、チーム中田がフルセットの激戦を制し、スコア3-2で勝利を収めた。チーム中田の佐藤天彦九段(33)は名人3期の実績もある順位戦A級棋士だが、この試合では第1局、第3局に登場し、チーム森下・増田康宏六段(24)に連敗。スコア2-2で迎えた最終局でも増田六段と対戦すると、三度目の正直とばかりに勝利。「3局やっているので、1局勝たせてもらったくらいの感じ」と、個人3連敗を免れ、同時にチームの勝利を決めたことに胸を撫で下ろした。
自分の不出来か、相手の強さか。優雅さを漂わせる佐藤九段が、何度も顔をゆがめた。師匠・中田八段に「頼みます」と強く背中を押されて登場した第1局。相手の増田六段とは、過去にもABEMAトーナメントで数多くフィッシャールールで指してきた。お互い手の内もよく知るようになったところで熱戦が予想されていたが、先手番から矢倉を選択したものの、急戦調の仕掛けにうまく対応できず、序盤からリードを許した。中盤以降、なんとかたたき合いには持ち込んだものの、はっきりと優勢を自覚できるほどの挽回には届かず、初戦を落とす結果となった。
続く自身2戦目、第3局はさらにつらい黒星となった。同じ相手、同じ先手番、同じ矢倉で挑んだが、今度はがっちりと駒組みを整えてからの戦いになったものの、中盤に強く出てきた相手への対応で「ひどいミスをしてしまって、かなりまずい内容になってしまった」と猛省するほど。自分とは異なる感覚、経験を武器に攻めてくる増田六段に対して、完全にリズムを乱してしまった。
勝利を強く期待された自分が連敗しては、チームの敗戦もやむなしと覚悟はしていたが、ここで師匠・中田功八段(54)が踏ん張り、最終第5局にラストチャンスが回ってきた。「まだチャンスがあるというのは本当にありがたい。師匠に助けられた。個人成績、3連敗というわけにもいかない」と、穏やかな口調の中にも決意を込めると、後手番となった一局では、得意戦型の一つである横歩取りに誘導。ここでようやく“らしさ”を感じさせる指し回しを見せると、序盤・中盤でリードを奪った。終盤こそ「ごちゃごちゃしてしまった」と反省はしつつ、最後はきっちりと即詰みに討ち取り、今大会初勝利を挙げた。
将来、タイトル戦線にも顔を出そうという若手のホープ、増田六段に1勝2敗となった佐藤九段。試合後には「増田さんの指し回しに対応できていない。自分が手が見えている見えていないという部分もあるが、感覚や経験値で持っていかれる部分もあった」と、負け越した理由について説明すると、「最後は3局やっているので、1回勝たせてもらったくらい」と、ようやく笑みが出た。
持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算というフィッシャールール。この超早指しで佐藤九段は、数々の熱戦を生む「名局メーカー」にもなっている。出だしこそ悩みがつきない3局になったが、勝ちは最高の良薬。予選通過をかけた1位決定戦では、その手付きにも自信が戻る。
◆第1回ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)