大規模な噴火と津波に見舞われたトンガ、ロシアによる侵攻の可能性が高まるウクライナ。あるいはUAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビへのドローン攻撃とイエメンへの報復。そして忘れてならないのが、今年に入って4度目のミサイル発射を行った北朝鮮。
こうした国際情勢や、海外で起きた自然災害、事件・事故の報道は、さらに時間を割いて報じるべきなのか。それよりも、国内のニュースにより重きを置くべきなのか。
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■「視聴数が伸びるのはネコとか、Twitterのマンガとか、あおり運転だ」
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「ABEMAでお昼のニュース番組を担当しているが、正直言って、視聴者の方は海外ニュースは本当に興味ないんだなと感じている。韓国や北朝鮮、中国のような近い国ならまだしも、例えばウクライナ情勢について専門家を呼んで伝えてみても、手応えがない。聞けば視聴数が伸びるのはネコとか、Twitterのマンガとか、あおり運転だそうだ」と明かす。
「ABEMAもそうだが、災害が起きると視聴数が跳ね上がる。それはネガティブなニュースであっても、自分の命にも関わる情報だからだと思う。それでも、人によって感受性も異なるので、見たくないと言っている人に対して見ろというのは良くない。見たくない人は見なくていいし、私は“頑張って見てね”という気持ちはない。どちらかと言えば、“見たい”という人に向けて、ちゃんとした情報が届けられればいいなと思っている」。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーも「私自身も、仕事だから見ているという部分はあって、言いにくいことだけれど、ウクライナやイエメンの件よりも報じなければいけないことが多いという場合もある。多くの人がじっくりニュースを見るだけの時間が取れないという中、今のような接し方にならざるを得ないところもあると思う」との見方を示す。
「そして、悪いニュースだからこそ取り上げて、どこに問題があるのかを探る、というところにメディアは行きがちだし、見ている側も明るいニュースよりも暗いニュースに関心を持ってしま。その結果、強い映像ばかりが並べられることになるので、見ているだけで心が痛むという人もいるのが難しい」。
一方、EXITの兼近大樹は「例えばテレビでは全国の天気が流れる。でも都内に住んでいる僕にとっては、東京と、それから家族が住んでいる北海道札幌市の天気だけ分かればいいし、どこかで電車が止まったとか、飛行機が飛ばないとか、どうでもいいとも思ってしまう。でも、全国の天気に興味がある人も絶対にいるし、共通の話題にはなる。海外ニュースもそれと同じで、必要な人には必要、得意な人は得意。俺は漫画のニュースに関しては人より詳しいし、もっと見たい。そういうことだと思う」とした上で、次のように話した。
「深くは知れなかったとしても、想像力を膨らませるためにも、ただ見る、ということが大事なのかなと思う。逆に、あまり見たことがないからこそ、映像に強い衝撃を受けてしまうこともあると思うし、世界の現実を見ず、国内の、しかも楽しいことだけを考えて幸せに生きられる人ばかりじゃない」。これに相方のりんたろー。も「しゃべることがない時、天気の話はいいよね。そして人によって欲しいと思う情報が違うのは仕方ない。でも、東日本大震災の時に他の国から助けてもらえたことは、報道の力も大きかったと思う」と応じた。
■「本当に関心を持ってもらいたいなら、煽った方が良い」
こうした議論に対し、イェール大学助教授で「半熟仮想」代表の成田悠輔氏は「見たほうがいいかどうか、扱ったほうがいいかどうかという“べき論”には意味がない」と問題提起する。
「一見すると、何か客観的な情報があって、それをちゃんと報道し、視聴者も摂取しているような雰囲気があるが、現実はどういうメディアが流しているのか、あるいは誰が言っているのかによって、内容が全く違っていると思う。そして“ニュース”の意味が人によっても違っているので、海外ニュースも“いちコンテンツ”に過ぎず、漫画や衝撃映像、ネコと大差ないものになってしまっていると思う。議論の出発点として、そこが重要だ。
だから海外ニュースを見ること、報じることに意味があるか、という議論にはあまり意味がなくて、海外ニュースを知りたいと思っている人に対して何をどう伝えるかの具体論、逆に興味がない人にアプローチしないといけない時には何をする必要があるのか、という戦略論を話すべきだ。その点、僕は海外ニュースについては煽った方がいいと思っている。もちろん見て傷ついた、という話もあるだろう。しかし、多くの人がそもそも傷つくところまでにもいっていないうことも現実だ。
他のコンテンツの場合、アテンションを引くために必死で“釣り広告”を作ったり、よく分からない見出しを付けたり、サムネイル画像を工夫したりしているわけだ。海外ニュースは重要なんだと認識してもらいたい、本当に届けたいのであれば、やはり同じように釣らざるを得ないのではないかと思う。衝撃映像で注目を集めるのがいいのかという意見もあるが、世界が変わってしまった以上、それらを使うのも仕方がない、というのが現実だ。
ただし、国内のニュース、特に芸能スキャンダルみたいなものは、客観的な情報であっても出しただけで過剰に反応し、大盛り上がりしてしまう。芸能人の不倫とか、どうでもいいニュースについては絶対に煽らない方がいい。その使い分けが重要なのではないか。遠くのものを見る時には倍率を上げ、ズームインしていく。それと同じではないか」。
■「特定の人々への敵意を煽ったりするような報道は怖い」
メディア研究が専門の川端美樹・目白大学大学院教授は「海外ニュースは必要派、不要派の両方ともに、なるほどと思わせる意見があるし、どちらかが正しいということもないと思う。ただ、私たちは世界と何らかの関わりがあるわけで、みんなが無知な状態でいれば、世論が思わぬ方向に動いてしまう可能性がある。ニュース番組の場合、多くの人が知らなくてはいけないと考えていることを伝えようとする。ただ、どこまで知る必要があるか、ということについて、送り手の側がなんとなく決めている部分があると思うし、どういう基準があるのか、ということが気になる。
また、人間には刺激的な情報につい引きつけられてしまう性質がある一方、ネガティブなニュースを見ることで不安になったり、悲観的になったりする影響があると言われている。テレビはそういうものを映し出すことで視聴率を取っているということかもしれないが、方法一つで変わっていく部分もあるのではないか。その意味では、成田さんがおっしゃったように、違った形で情報を伝えていくことが関心を持ってもらうきっかけにはなると思が、一番怖いのは、特定の人々への敵意を煽ったりするような報道だ。見る側も、そういう報道に惑わされないよう、知識を身につけていくことが重要だと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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