“沖縄と本土”の構図は、“日本と海外”という構図でもある…貧困問題と“なんくるないさー”の背後にあるもの
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 本土復帰から50年目を迎えた沖縄県に、今も基地問題と並んで横たわっているのが経済問題だ。県民所得は1人当たり239万円と、全国で最低の状況が続いており、非正規雇用や失業率も全国と比べて高い水準にある。

 また、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する県民も増加、那覇市の「就職・生活支援パーソナルサポートセンター」では、2020年の相談件数が前年の8倍に達したという。

【映像】日本復帰から50年 基地だけじゃない沖縄の課題

■「性格的に“どうにかなるさ”という部分があって」

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 実家がホテルなどに食料品を卸す会社を営んでいる男性は「注文が前年の半分を下回る月が続き、今もだいぶ減っている状況だ。取引自体がなくなったホテルもあって、未来が見えない感じだ」と嘆息する。一方、「ずっと、“なんくるないさー”。どうにかなるさって」と、前向きな姿勢も見せた。

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 正社員として福祉関係の仕事をしながら4人の娘を育てるシングルマザーの山田さん(仮名、40代)の場合、月収は手取りで約20万円。児童扶養手当を受給しても生活は苦しく、NPOから定期的に食品やお弁当の配給を受け、ようやく暮らせていける状況だと話す。

 「今の給料に満足はしていないが、入社した6年前に比べれば改善していっているし、ダブルワークをするにしても、その間の子どもの預け先に困る。そして、一緒に過ごす時間が取れなくなってしまうので…」。

 折しも長女は高校受験のシーズン。将来は大学にも行かせたいが、気になるのはやはり教育費用の問題だ。それでもやはり「もちろん、もっと収入があれば生活は安定するし、安心して暮らせるかなと感じている。どちらかというと上に行きたいタイプなので、どうにか頑張って給料を上げてもらうようにしていきたいと思っている。それでも、なんくるないさ、の気持ちもあって、明るく、のびのびとやっている」と話す。

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 「近所に仲良くしている人たちもいるし、母子家庭・父子家庭という世帯も多いので、物々交換をしてみたり。あっちの子、今日ちょっと困っていたよとかって聞いたら、何か物を届けてみたり。私もガスや電気を切られたりしたこともある。でも沖縄特有の考え方というか、私は県民性かなと思っているが、性格的に“どうにかなるさ”という部分があって。

 この環境で今までやってきたので、それが普通なのかなという感じがあるので。やっぱり、気持ちまで暗くなってしまったら前に進めない。電気が切れれば、“電気ってありがたかったんだな、必要だったんだな”と学べる。子どもたちにはちょっと貧しい思いをさせてしまってはいるが、それをバネにして資格をとったりしようと、学んでいると思う」。

■「目に見える問題は“氷山の一角”に過ぎない」

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 『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』の著書もある沖縄大学の樋口耕太郎准教授(観光学)は、「社会の構造からすれば、こうした問題は“氷山の一角”に過ぎない」と指摘する。

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 「いま伺ったようなお話も、胸がかきむしられるような、本当に辛い話だが、僕たちが目で見たり、手で触れたりすることができるからこそ、すぐにでも対処してあげたいと思う。それが人間としての当たり前の感覚だ。しかし氷山というのは海中に沈む大きな構造の上の部分であって、僕たちがその全体を理解しているのだろうかということも考えるべきだと思う。

 ただし、氷山の下に何があるのかを見に行こうとしても、メディアにしろ学術的な研究にしろ、資料が少ない。沖縄という地域は、誰に会って話を聞くかによって全く違った印象になるという特性がある。にも関わらず、そうした様々な“真実”が言語化されていない。良くも悪くも、昔から心に響くような、それこそ多様性のないストーリーが語られるばかりだった。それらは本当のことではあるが、沖縄はそんなに単純なものじゃない。他の社会と同じく、もっと複雑で、様々な切り口があって然るべきだ。

 また、そもそも沖縄の貧困問題は今に始まったことではなく、本土に復帰してからの50年間、政府も沖縄県も、さんざん努力を続けてきたわけだ。結果、国内でも相当な経済援助を受けている地域になったわけだが、理屈からすれば貧困が最も解消している地域でなければならないはずだ。にも関わらず貧困が深まっているというのは、最初の問いかけが間違っているのではないか、ということだ。お医者さんで言えば、診断が間違っていているのに、そのことに気づかずに薬を投与し、症状が悪化している。それが私の仮説だ」。

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 さらに樋口氏は続ける。「僕は沖縄に住んでいるということもあり、かなりドキドキしているが、それでも勇気を持って言うと、個人差はあれど、本土にいらっしゃる皆さんにとっては、ウチナーンチュ(沖縄人)、つまり保守的で、ある意味での同調圧力を受けている環境から飛び出す決断をした方々が前にいることが多いと思う。彼らはまさに創造的だったり、いわゆる本土的な感覚とは異なるのびのびとした感性を持って活躍されている。一方、人は誰しも現状を維持したいという気持ちがあると思う。それが人間の本性でもあるが、沖縄では文化的な特質として経済にも影響を及ぼしているのではないかと思う。

 例えば私は250人ぐらいの従業員がいるホテルを経営していたことがあるが、非正規雇用者に“正社員にならないか”というオファーをかなりしたが、断られるケースが多かった。あるいは参議院の審議にも参加した時、本土の方々は本当に親身になって沖縄の将来のことを考えていると感じた。しかし各界を代表する沖縄人たちが、やはり気づかぬうちに現状を維持したいという動機に基づいて必要なこと、望むことを語ってしまう。そして本土の人たちがそれらを前提に“なるほど、沖縄にはこういう問題があるのか”と対処する。結果、沖縄の社会構造に絡めとられ、声が現状維持に使われてしまうという図式になっているのではないか」。

■「本土から見れば沖縄が保守的に見えるが、海外から見れば日本が保守的に見える」

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 沖縄県で事業を営んでいるという慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「業者の方が清掃した後、毎回ほこりが残っていたので話を聞いて見ると、“うちだけが綺麗にしたら周りの人たちに、なんでお前らのところだけ、となるから、ずっとこのクオリティでやってきた”と言われたことがある。つまり給料は上がらないかもしれないが、今までの仕事のクオリティや頑張りをみんなで保っていれば、自分だけが置いていかれることがない、ということだと思う」と明かすと、樋口氏は「頑張れば頑張るほど孤独になるというか、それを乗り越えてまで沖縄のことを変えていくよりも、この方がいいや、なんくるないさー、という感覚が存在するのではないか」と分析。

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 また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「いわゆる独占的な企業の内部留保や役員報酬として留まってしまい、お金が分配されないという典型的な問題があるが、そうした県内における“縦の分断”がメディアなどでは語られず、“本土対沖縄”という対立軸の中、“本土に比べて給料が低い”といった議論ばかりされてしまっていると思う」と指摘すると、樋口氏は「やはり“我々の中に問題がある”という図式が語られない限り、現状維持が温存されてしまうと思う。さらに言えば、頑張ると孤立してしまって居場所がなくなり、ひいては目の前の経済からもこぼれ落ちてしまうということで、むしろ現状維持の方が経済合理性があるということになってしまう」と話した。

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 その上で樋口氏は「私がニューヨークに住んでいる時、コメディ映画を観に行くと、みんな腹を抱えて笑っていた。その時、初めて日本は映画を見ても笑わない、笑えない国だと知った。つまり、沖縄と本土の問題は日本と海外の図式に似ているという“入れ子構造”があると思う。むしろその本質を理解するうえで、沖縄が問題点を抽出しやすいということだと思う。本土から見れば沖縄が保守的に見えるが、海外から見れば日本が保守的に見える。あるいは海外に出て活躍した人が日本に戻ってくると居場所がない。“出る杭”ではないが、目立つと圧力がかかってしまう。そういうことだと思う」。(『ABEMA Prime』より)

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