「皆さん、答えを持ってらっしゃいますか?」「いい町が、大変な町になる」“核のごみ”をめぐって袂を分かった町長と元“ブレーン”
核のごみ〜訣別の町長選〜
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 「こんなにもめるとは思わんかった…。日本全体でなんとかせんきゃならない話だから。みんなそれに対しては理解してくれるんじゃないかなって気がしていた…」 2020年11月、北海道寿都町の片岡春雄町長(当時71)はこんな本音を漏らしていた。

 片岡町長が持ち出したのが、“核のごみ“の文献調査だ。「NOと言わなければ誰が言うんですか?!」「なぜそんなに文献、文献ってこだわるんですか!?」住民から激しい反発の声が上がった。

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 そして「5期20年の置き土産が核のゴミではダメだ」と、ともに歩んできた「盟友」が訣別。「キレイごとで通るんなら、世の中、誰も苦労しません」と譲らない片岡町長。翌年、20年ぶりの選挙戦で再び町は揺れた。核のごみに翻弄される過疎の町の行く末とは。(2021年11月20日放送、北海道テレビ放送制作・テレメンタリー核のごみ 訣別の町長選~過疎のマチ 分断の先には~』より)

■「地域をどうやって元気付けていくか、という金」

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 日本海の豊かな漁場が広がる寿都町。かつて1万人を超えた人口は、いまや約2800人。その4割以上が高齢者だ。

 去年10月、町長選を3週間後に控えた片岡町長は、野球の試合に打ち込む子どもたちを前に、穏やかな表情を見せていた。「どれだけの子どもたちに町に残って、支えていただけるか。そして支えられるような仕事の場を、私たち大人が作っていかないといけない」。

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 その片岡町長が2020年10月に正式表明したのが、全国初となる「文献調査」への応募だ。国内のどこで処分するのかいまだ決まっていない、原発の使用済み燃料から出る“核のごみ”について、最終処分場に適しているかどうか、地質などの資料を調べるものだ。調査が決まれば、国からは2年間で最大20億円の交付金が渡されることになる。片岡町長は、それを過疎地の対策や地域振興に活用したいと考えている。

 「皆さん、金、金って言いたがっている。メディアも“金が欲しいんだろう”って。金欲しくないやつ、世の中にどれだけいる?みんな金欲しいですよ。ただ、これは個人的な金ではないですよ。地域をどうやって元気付けていくかという金なんです。これを求めて何が悪いんですか?」「今回私が仮に落ちたとしたら、相当私はショックですよ。自分では相当頑張ったつもりではいますし」。

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 2001年前に初当選、風力発電で年間3億円以上を稼ぐなど、独自のアイデアで政策を実現してきた片岡町長。4回連続で無投票当選を重ねてきたが、今回は前町議会議員の越前谷由樹さん(70)が立候補することになった。片岡町長の下で助役を務めたこともある越前谷候補に、反対派の町民たちが出馬を要請したのだ。

 「寿都を核のごみの町にしてはならない。町民を守らなければならないと決断しました」。そう演説した越前谷候補を支えるのが、後援会の沢村国昭さんだ。

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 「政党とか議員が中心ではないから。本当に手作りだからね。でも、よちよち歩きもいいんじゃないかな?かえって新鮮で」。かつては労働組合の幹部として国政選挙にも携わってきた沢村さん。選挙経験が乏しい後援会の中で、当選の戦略をアドバイスする。

■「“やめれ、そんなもの”と言った。何を間違ったか…」

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 それまで町議会議員として片岡町長を支持してきた沢村さん。“ブレーン”として、風力発電などの政策をともに実現してきた。「懐かしいなあ、本当に。何を進めるにしても一歩先を行ったり、提案して議論したり、手腕としては最高でないかな。一番のスローガンが“住んでいてよかったと言えるまちづくり”で、俺も共感していたからね」。

 しかし、“核のごみ”の問題をきっかけに関係は一変。2020年8月には「でも核のゴミ入れたら、町が死んじゃうでしょ。そして寿都町を20億円で売るなんて、そんな馬鹿なことできないでしょ」と、強い口調で片岡町長を批判した。

 2020年9月に開かれた文献調査についての住民説明会でも、「町民を分断しないでください」「町民を無視している何物でもないと思います」などの厳しい意見に対し、片岡町長が「処分場が来るんだ、ということを頭から除いていただきたい…」と呼びかけるも、「除けない!」とのヤジが飛んだ。
 

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 じつは片岡町長はその3年前、沢村さんに構想を打ち明けていたという。「夫婦で来て。“やめれ、そんなもの”と言ったから、本人もやめるんだと思ったんだけどね。何を間違ったか…」。

 一方の片岡町長は「私の思いを説明して、ある程度は理解していただいたつもりでいました。その後いろんな報道が出て、ある時点で180度変わりました。それ以上、私は沢村さんのことは語りたくないです」と厳しい表情を見せた。

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 2021年7月、町が開いた住民説明会。将来の厳しい財政状況が示された後に説明に立ったのは、核のごみの地層処分を担うNUMO(原子力発電環境整備機構)の職員。

 沢村さんが「NUMOが進めることに賛成している人が多くない中で、なぜ地層処分が説明会の課題に上がるのか。私は上げてはならないと思う」と異議を唱える。片岡町長が「まずはNUMOの説明を聞いていただきたい。これが今日の一番の目的ですので、宜しくお願いします」と説明するも、沢村さんは「地層処分の説明は議題ではないので、私は退席をさせていただきます」と席を立ってしまった。

 「明るみに出てから、ただの一回も会話をしたことない。ただの一回も。俺ら二人が分裂対立して、いがみ合いをしている中で、町民がこれを引き継がない訳にはいかないよね。町民の中にも、そうなっていると思うよ」と危惧する沢村さん。

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 実際、町民からは「もう分断しているでしょ。直接言ったらもう、角が立つでしょ」「みんなこう(口を覆う仕草)ですよ。やっぱり狭いから、町が。当然、割れちゃうよね」。また、ある漁師は「(漁協)組合の会議に行ったら、組合長が“片岡派”で、その話になると声も昂ぶってきて。興奮してくれば、そしたらケンカになるべ」。

■「私の思いが選挙で伝わっていないという現実も」

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 片岡町長にとって、20年ぶり、2度目となる選挙戦が幕を開けた。必勝の鉢巻をした越前谷候補が「片岡町長が招いた核のごみ処分法に基づく文献調査を撤回するしかありません!」と呼びかけると、片岡町長は「(原子力発電所の)使用済み燃料、どうなるんですか?みんなで議論しましょうよ、というのが、私の一石を投じた一番の思いであります」と訴えた。

 20年前、片岡町長は初めて挑んだ選挙で「“みんなでつくろう寿の都”を合言葉に、私、片岡春雄は若さで頑張ります」と、若さを全面に押し出し、地元出身の相手候補を下した。今回は、核のごみの調査をさらに進めるかどうか、2022年以降に住民投票で民意を問うとして理解を求めた。

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 しかし、やはり町にはかつてない“溝”が生まれていた。寿都町の職員から2021年4月に漁師に転身した大串伸吾さん(38)は「役場には、声を上げられないような環境があった。役場に入って3年目だったけど、住民説明会であれほど町民の方が(反対の)声をあげるというのは見たこともなかったし、全く想像もしなかった」。

 研究者だった大串さんは、寿都町で漁獲調査をしたことがきっかけで町に移住。文献調査への応募に反対し、役場を去った。「交付金・補助金っていうのは正しく使えば薬になるけども、使いすぎると麻薬みたいに中毒になってしまう。核のごみの交付金は、極めて中毒性の高い劇薬だと思うんです」。

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 越前谷候補の後援会では、およそ2400人の有権者の投票先を1人ずつ分析する「票読み」が行われていた。支持者の一人は「俺達が当たって、越前谷さんに入れるっていう人が二重丸。三角は、はっきり意見を表明できない人。これがすごく多い」。わずか5日間の短い選挙戦は、予想以上の接戦のまま投票日にもつれこんだ。

 2021年10月26日。投票に訪れた町民たちは、文献調査に様々な思いを抱えていた。越前谷候補に投票したという町民は「調査を受けた時点で、もう(処分場受け入れ)了承の中に入っていると思うので。やっぱりすべきではないと思います」、片岡町長に投票したという町民は「ウエルカムというわけではないですけど、調査はしてもいいかなとは思っています」。

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 同じ頃、札幌では岸田総理が「皆さんの暮らしや仕事を守るために経済対策、これを私の内閣において用意させていただきます」と演説していた。翌週には衆議院選挙の投開票日が控えていたが、地元の選挙区ですら、核のごみの問題は争点にならなかった。

 開票作業が進む中、結果を待ち続けていた越前谷候補の支援者たち。「2回目の開票速報が出ないな…。もう出てもいいころだ」と落ち着かない様子の沢村さん。目と鼻の先にある相手営の選挙事務所のことも気になる。「向こう、バンザイってやってんのかな?」。

 そのうちに、片岡町長の事務所が賑やかになり始めた。祝い酒が次々と運び込まれていく。その時、沢村さんの携帯電話が鳴った。「越前谷?本当…?はいはい、うん、うん…」。支援者に「もう結果出たんですか?いくらだった?」と尋ねられた沢村さん。「片岡が1130くらいで、越前谷が900くらい…」。

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 「私の力が本当に及ばなかったので、本当に申し訳ございません」と敗戦の弁を述べ、頭を下げた越前谷候補。一方、支援者たちと万歳三唱とした片岡町長だったが、取材に対しては「相当、厳しい票差だと思います。想定した以上に差は縮まったのかなと思っています。私の思いが選挙で伝わっていないという現実も目の当たりにしましたので、落ち着いて、皆さんに勉強会・説明会をさせていただきたいと思う」と神妙な面持ちで語った。

■「皆さん、答えを持ってらっしゃいますか?

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 越前谷候補に投票したという町役場の元職員、大串さんは「次の知事の判断が出てくる概要調査があるので、そこでの判断というのは北海道全体、願わくは全国日本での議論になってほしい」。

 他方、片岡町長に一票を投じた漁師の木村拓夢さん(22)は、生まれたばかりの我が子を前に「お金だけもらって調査だけして、というのが一番の理想なんですよね。やっぱり自然が一番の取り柄だと思うんで、自然を大事にした寿都町を残してほしいと思いますね。海がキレイな町なんだって自慢してくれたら、親として、すごく嬉しいです」と話した。

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 片岡町長に「もし処分場に適しているという結果が出たら、作ってもいいと思うか?」と尋ねた。「まだまだ先ですよ。精密調査に入ったからって、それですべてがOKという話ではないと思う。最後の段階なんて、今論じる話ではないじゃないですか」「じゃあどうするんですか?この核のごみ。皆さん、答えを持ってらっしゃいますか?」と投げかけた片岡町長。

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 核のごみの受け入れを望まない声が目立つ中、文献調査が進む過疎の町。その先には一体何が残るのだろうか?沢村さんは「この分断、分裂だけは当分続くよ。寂しい町になるよな。人間的に大変な町になるな、こんないい町が」と話していた。(2021年11月20日放送、北海道テレビ放送制作・テレメンタリー『核のごみ 訣別の町長選~過疎のマチ 分断の先には~』より)

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