ロシアによる軍事攻撃に対し、ゼレンスキー大統領のリーダーシップの下、各地で粘り強く抵抗するウクライナの様子が報じられている。ウクライナ国内ではロシア軍と戦うために自ら銃を手に取る市民が後を絶たず、その動きは世界に広まっている。
【映像】なぜウクライナ義勇兵に志願? 志願した元自衛官とウクライナ人に聞く
その「義勇兵」の波は日本にも。在日ウクライナ大使館がTwitterで志願者を募ったところ、元自衛官を中心に約50人の男女が呼応したという。ただ、外務省がウクライナ全土に退避勧告を発していることから、政府は渡航をやめるよう繰り返し呼びかけており、在日ウクライナ大使館も2日、義勇兵募集の投稿を削除。今後、募集は行わないとしている。
2日の『ABEMA Prime』に出演した元陸上自衛官で、現在は漁師をしているというタナカさん(33)も、志願した一人だ。ニュース映像で見た子どもの涙に突き動かされたのだという。
「自分にも子どもがいるし、やっぱり子どもの涙は良くないと思う。これが世界、そして日本に飛び火しないでほしいというのが一番だ。軍事力的にはロシアが圧倒的だと思うので、元自衛官として少しでも役に立てればと思った。迷いは一切なかった」。
参加の意思について親には伝えたものの、自身の子どもにはまだ伝えていないという。番組には、「自衛隊経験者だとしても、お子さんがいらっしゃる立場でロシアの若者を殺すことは躊躇われるのではないか。相手にも子どもや家族がいる」との質問も寄せられた。
「もちろん戦わないのが一番だ。しかし志願した以上、相対したときは戦わないといけないと考えているし、そういう状況になった時に自分がどういう行動が取れるかはわからないが、今は一つでもアクションを起こすことだと思う。それが他の勇気ある人たちに繋がっていけばと思うし、日本の法律に触れたとしても気にしない」。
一方、戦闘経験がないことを理由に大使館に参加を断られてしまったという在日ウクライナ人の会社員、ナザレンコ・アンドリーさんは、タナカさんの話を聞いて次のように話した。
「今回の危機が始まるまで、ウクライナについては“国名は聞いたがことがあるが…”という程度で、詳しい日本人は多くはなかったと思う。そういう中でもタナカさんたちが助けに行こうとしてくださることには感謝を申し上げる。私が戦場に行ったとしても役には立たないかもしれない。しかし日本語が話せるので、日本人義勇兵との通訳、翻訳の任務であればと思った。だからこそ大使館を通さず一人で行くようなことはしないのが賢い選択だと思う」。
■「抵抗をやめてしまえば、待っているのは虐殺のみという経験がある」
こうした状況について、EXITのりんたろー。は「日本では“国を守る”とか、“国のために戦う”といった感覚がすごく薄い気がするが、世界的に見ればそういう国は珍しいと思う。戦争が起きることはないという感覚もあったと思うが、そんなことはないということがわかった。今回のことを機会に考えておかないと、何かあってから慌てて対策では遅いと思う」とコメント。
兼近大樹も「日本にいると“心配だ”と言っておけばいいとか、寄付をしておけばいい、という雰囲気があると思う。そして、相手を傷つけ、命を奪うくらいだったら自分が死んだ方がましだ、というのが美徳だと教えられてきたような記憶もある」と応じた。
タナカさんは「僕の年代も含めて、若い子にとって第二次世界大戦は過去のこと。イラクやシリアのこともそうだ。現実感が無いというか、戦争というものが自分の国とは関係ないという思いがあるんだろう。そもそも日本人は他国に関心を持っていない人が多く、今回の紛争で初めて意識したという人もいると思う。世界の情勢というのは見ようと思えば見られたわけで、見ないようにしていたというか、臭いものには蓋、という感覚があったのではないか」とコメント。
アンドリーさんは「私が生まれ、19歳まで育った故郷のハリコフ市に対して無差別攻撃が行われた。ロシアは軍事施設しか攻撃していないと言っているが、学校と住宅街しかないところにも爆弾が落ち、私の出身校も完全に破壊されてしまった。住み慣れた街が破壊されていく様子を目の当たりにして、許せないという気持ちがあった」と説明。その上で、次のように語った。
「“自分の命が最も大切だ”という教育に対しては異論がないし、アメリカの占領しか受けたことがなく“降伏すれば犠牲者は出ない”と考えている日本人には分かりにくいことかもしれないが、歴史を振り返れば決してそうではない。ウクライナの場合、ソ連の一部だった時代には『ホロドモール』という大虐殺によって数百万人〜1千万人以上(※諸説あり)の国民が餓死させられた。抵抗をやめてしまえば、待っているのは虐殺のみという時には、死ぬために戦うんじゃなくて、生きるために戦わざるを得ないということだと思う。
そして、ロシアとウクライナというと遠いところの話のように思うかもしれないが、日本のすぐそばでも中国という国によってウイグル人やチベット人が酷い目にあっている。もしウクライナが武力による脅しによって降伏してしまえば、そういうことがまかり通るような世界になってしまうかもしれないし、日本にとっても中国が脅威になるだろう。“憲法改正するなら軍隊を送る”と圧力をかけられたらどうするか。世界秩序を守るためには、自国主権と国際法をしっかりと守り抜かないといけない。
ソ連が崩壊して冷戦が終わって以降、ウクライナでは“もうヨーロッパで戦争が起こることはない”と楽観視していたし、ハリコフも10日前までは平和な街だった。それが昨日になると、通いなれた道が血だらけになっていた。当たり前だと思っていた世界は一瞬で壊れてしまう。現状をいかに守るのか常に考えておかなければならないし、それは戦争が起きた後では遅い」と述べた。
■「日本は“たまたま平和だっただけ”という見方もできる」
リディラバ代表の安部敏樹氏も「今の日本の国の形というのは、アメリカに占領された結果できた部分があるので、あの経験もそこまで悪いものではなかったのではないか、という認識があると思う。しかし多くの国では他国に支配されるということがいかに酷いことかを経験的に学んでいる。日本だってアメリカによる統治の間に過激なことがあまり起こらなかったのは、米ソの対立構造、そしてその代理戦争としての朝鮮戦争があったからだ、その意味では、たまたま平和だっただけという見方もできる。今も尖閣諸島では日本と中国のぶつかり合いが起きているわけで、実は平和じゃない部分が日本の中にも存在していることは知ったほうがいい」と指摘。
慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「“朝日新聞こそが新聞だ”というバリバリの戦後左翼の学校教員の下に育った僕は、命より大事なものはない。命のために投げ打ってもいいものはないと教え込まれてきた。その背景には、国のためなら命を投げ打っても構わないという教えによって太平洋戦争で多くの命が失われてしまったということがあったからだし、普通に考えれば自分の命が一番大事と考えるのは当たり前だ。
ところが今回、命より大切なものがあると考える人も多いということを突きつけられた。不利な状況にあって、場合によっては自分の命が失われるかもしれない、それでも家族や子ども、次の世代、そして母国が失われるくらいなら、それも厭わない、仕方ないと。そういう世界があることは知っておかないといけないし、僕たちが“なんでそこまでして…”と思うようなことが今まさに起きているんだということだ。
日本人が感じてきた平和というのは、正確にいえば“部分平和”だったということだろう。世界では小さな戦争がずっと起きてきたし、それによってなんとか均衡が保たれていたこと、そして武力、戦争という部分については肩代わりしてもらってきた事実がある。しかしよく見ると、どこかで誰かにしわ寄せが行っていたり、誰かが無理をしていることで全体が保たれてきたということ。そこを真剣に考えないといけない」と応じた。
兼近は「日本にいればルールが最も大切だと考える。しかし世界に目を向ければ、それが守られないこともある。しかし、例えば僕が義勇兵に志願としたら、誰かを扇動することになってしまうんじゃないか、多くの人の意見を変えてしまうんじゃないかということも考えた。日本に何かが起きた時、自分はどうするだろうかと、改めて考えさせられる機会になった」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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