このぐったりとした疲れも、戦いの世界に身を置くということを実感させるのだろう。塚田恵梨花女流初段（23）は2021年度、プロ入りしてから初めて対局数が年間30局を超えた。11月中旬からは10連勝も記録、大きな自信につながったシーズンになった。「なぜ連勝できたかわからないんですけど。対局数が多くなったのが一番のモチベーションでした」と、勝つことでもっと将棋が指せたことを喜んだ。「ようやく本業がちゃんとできている」と感じられたことが、タイトル挑戦にも近づいている期待の若手女流棋士には何よりの収穫だった。
将棋の普及活動も大切な仕事ではあるが、やはり女流棋士になった以上は、たくさん戦いたい。強い相手と戦いたい。それがこの2021年度は叶った年だった。
塚田女流初段 悔しい負けもありましたけど、全体的に少しずつ成長できた年でした。以前だと対局が1カ月とか2カ月とか、丸々ないこともあって、ひどい時には3カ月くらい空いてしまうことがあると、どうしてもモチベーションが下がってしまいますし、日々の過ごし方がわからなくなってしまうんです。日々の生活にもメリハリがなくなってしまうので、何時に寝ても、起きてもよくなっちゃうんです。どう過ごしてもいいというか。そうなると自分の意志が強くないと勉強にも打ち込めない。昔から日々の過ごし方が課題だったと思うんですが、女流順位戦もできたことで、勝っても負けても必ず対局があるというのは、すごくありがたいです。週1回ぐらい対局があると、休んでもいられない。気を張っている状態になりますし、ようやく本業がちゃんとできている気がしますね。
勝ち負け以前に、戦えないことは寂しい。その悩みが解消されてきたことが、メンタルには大きかった。また、女流順位戦によって、女流棋士たちの格付けが入ったことが、また気持ちを引き締めるきっかけにもなった。
塚田女流初段 1期目は、自分が勝った分だけ順位を決めることができて、すごく恵まれていました。本来なら最初は下のクラスから入って、そこから上がっていかなければいけないところですから。戦いは厳しかったし、本当はA級に入りたかったですけど、なんとかB級に入れたことで、上が見えているのはよかったです。B級のメンバーも実力者ばかりなので、そこで勝てれば自分自身も向上していける気がします。
初の女流順位戦も、ここまで3勝2敗と勝ち越し、昇級争いに加わっている。これまで棋士たちが必死に戦ってきた順位戦に身を置き、1勝が昇級に、1敗が降級につながるプレッシャーを感じることもできた。
塚田女流初段 順位付けされていることで、やる側としては大変なこともありますが、それでも楽しいですね。順位戦はずっとやりたいなと思っていたものなので、すごくうれしいです。対局の翌日には、体力を消耗してしまっていることが多いですね。ちょっと使い物にならないです（苦笑）。だから最近は前日、翌日は予定を入れないようにもしています。
トップ女流と戦う機会も増えた。二冠保持者である西山朋佳白玲・女王（26）とは女流王位戦の予選、さらに女流名人リーグ入りをかけた予選で当たった。結果はどちらも敗れたが、内容が違ったことが、また自信につながった。
塚田女流初段 リーグ入りをかけた予選で2回も当たると思っていなくて。予選でタイトルホルダーと当たるのはレアですから、ある意味くじ運がいいですよね（笑）。女流王位戦の方では、一気に持っていかれてそのまま負けたんですが、女流名人戦の方は、ずっと互角の将棋ができていました。中盤あたりは、こちらがいい局面もあって、自分でも1局目とは別人というか、実力が出せたかなと思います。
来年度は、さらなる飛躍を誓う。持ち時間の使い方についても、かつては終盤のためにと残しすぎた結果、早々に形勢を損ねて、時間を余して負けてしまうこともあった。反省し、今度は序中盤に時間を費やしたところ、終盤に足りなくなって間違えた。
塚田女流初段 いろいろなバランスをよくして、細かいところを調整できたら、もしかしたら勝っているのかなという対局もありました。相手の方々も強いので、その中で自分が何をできるか、ですよね。
将棋がたくさん指せる喜びと、勉強の成果をぶつけられる充実感。たとえ翌日、身動きが取れないほど疲れてしまったとしても、きっと頭の中では、手応えのあった対局を何度も思い出すことだろう。
（ABEMA／将棋チャンネルより）
