「核兵器が抑止力ではなく、戦争の道具になっている。今こそ持つための議論ではなく、無くすための議論だ」ICAN川崎哲氏
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 先週末に行われたANNの世論調査で、ロシアのウクライナ侵攻により日本の安全が脅かされる可能性が高まった」と答えた人がおよそ8割に上った。また、自民党などで議論されているアメリカの核兵器を日本国内に受け入れて共同で運用する「核共有」について、「議論する必要がある」と答えた人が5割を超えたのに対し、「必要はない」は37%という結果になった。

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 こうした結果について、29日の『ABEMA Prime』に出演した「ICAN」(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営委員で、ピースボート共同代表も務める川崎哲氏は「この結果の数字だけで何も言えないし、逆に誤解を与えがちだ」と指摘する。

「核兵器が抑止力ではなく、戦争の道具になっている。今こそ持つための議論ではなく、無くすための議論だ」ICAN川崎哲氏
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 「要するに核共有というのは、アメリカの核兵器を日本に配備するということで、それをすべきか否かと聞いてみると、数多くの世論調査で圧倒的多数の方が“しない方がいい”と答えている。もちろん、今の状況を見て、みんな焦っていると思う。私だって怖い。だからこそ強い軍事力が欲しいとか、核も必要だという議論が出てくる。

 しかし、“ロシアが国際法を破って核で脅しているからこちらも核で脅そう”ということをやっていったら、どんどん世界は危険になってくる。私は防衛のための兵器を一概に否定するわけではないが、何十万、何百万人もの人を殺し、そこの環境を本当に汚染し何世代にもわたって修復不可能な被害をもたらすような兵器が自衛の範疇に入るという考え方は全く理解できない。

 実際、世界190カ国のうち、核兵器を持っている国、あるいは核の同盟に加わっている国は40カ国くらいしかない。世界の国の過半数は非核兵器地帯に入っていて、自分たちでは核兵器を持たない代わりに安全を保障してほしいという国々だ。現に停戦交渉の中でも、ロシアにとってウクライナを脅威にならない形にして、その代わりにウクライナの安全を保障するといったことが話し合われている。つまり武装ではなく、外交努力で安全を保障する道を選んでいる国の方が多いということだ」。

 その上で川崎氏は、「むしろ今こそ核兵器禁止条約が重要だ」と主張する。

「核兵器が抑止力ではなく、戦争の道具になっている。今こそ持つための議論ではなく、無くすための議論だ」ICAN川崎哲氏
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 「核兵器の存在理由について、多くの人は“第3次世界大戦を防いでいるから”、あるいは“戦略的安定性をもたらすから”と説明してきた。しかしロシアは今回、NATOがアメリカも含む大きな核軍事同盟であると分かっていながら(NATO加盟を目指すウクライナに対し)戦争を始めた。つまり、その説明が壊れていることを示しているし、それどころか核兵器が戦争の道具になってしまっている。

 また、1990年代にウクライナがロシアに核兵器を返却したことと、2014年のクリミア併合、そして今回の侵攻との因果関係も何ら立証できないし、“ウクライナに核兵器があったら”という仮定にもあまり意味はない。核兵器は突然できるものではないし、北朝鮮のように時間をかけて核兵器を持っていく過程があることによって周りの国との緊張が高まるからだ。今回ロシアが攻め入ったのはウクライナのNATO加盟は脅威になると考えたからだし、核兵器を保有しようとしたなら、やはり早い段階で侵攻していたと思う。

 やはりここは踏みとどまって、“だけど私たちはそういう方向にはいかない”という規範を作らなければならない。去年発効した核兵器禁止条約は、今年6月に第1回締約国会議が開かれる。その意味は、非常に大きくなってくると思う」。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「冷戦時代のアメリカ大統領には理性があったし、ソ連もスターリン以後は集団指導体制だったからこそ、戦争を仕掛ければお互いが全滅してしまう、だから仕掛けないという、“相互確証破壊”のロジックが成立していた。ところが冷戦後は北朝鮮、あるいはトランプ大統領のように、もしかしたら核を使ってしまうんじゃないかと周囲に思わせてしまう政治指導者が出てきた。今回のウクライナ侵攻が悩ましいのも、あまり使いたくない言葉だが、まさにプーチン大統領の“マッドマン・セオリー”(狂人理論)によって、相手が退かざるを得ない状況になっているということだ。

 21世紀に入って、“我々はようやく核を抑えこんできた”というイメージが出てきた。しかしプーチン大統領によって、再び欧米列強が睨み合う19世紀的な帝国主義の時代、次は世界大戦が始まってしまうのではないかという時代に引き戻されてしまっていると思う。第二次大戦が始まる前の1930年代には、イギリスのチェンバレン首相がドイツのヒトラーの宥和政策を取ってしまったために、結果としてその台頭を許してしまった。核廃絶の理念は素晴らしいし、僕も反対ではない。ただ、現実的な対抗策が無いのだとすると、“ひょっとしたら俺たちも死ぬかもしれない”と相手が思うような抑止力を持つしかないのではないか、という諦めに近い気持ちも出てくるだろうし、理想論ではない、もう少し現実的な対抗策を考えなきゃいけないんじゃないか」とコメント。

「核兵器が抑止力ではなく、戦争の道具になっている。今こそ持つための議論ではなく、無くすための議論だ」ICAN川崎哲氏
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 川崎氏は「マッドマン・セオリーは非常に重要なポイントだと思う。まさに抑止論というのは、こちらに力があることに加えて、相手の思考回路が読めることで成立するものだ。ところが核のボタンを持つ人の思考が読めない怖さに対して、こちらも力による抑止に賭けていくのか、それとも、そうした力そのものを取り締まる方向に行くのか。私は後者が重要だろうと思う。あらゆる軍縮とか軍備管理というのは、兵器を扱う人間が信用ならないから兵器自体を取り締まろうという考え方だ。

 その意味では、一部の国々は持っていていいけれども、他の国はダメだという核兵器不拡散条約(NPT)には、やはり無理がある。持っていい国が立派な国々ならいいかもしれないが、まさに今のロシアを見ていると、やはり全ての国々が持ってはダメなんだという方向にもっていかなきゃいけない。だからこそ、NPTだけの世界から、核兵器禁止条約を加えた世界にしていく転換期だと思う。私も、1年や2年でロシアやアメリカが核兵器をやめる気になるとは思わないが、私たちは今こそ“核兵器についても議論しようぜ”じゃなくて“核兵器をなくす方向で議論しようぜ”とならなければならない」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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