成田悠輔氏「自己目的化・神格化しては意味がない」 日本で根付かぬ“飛び入学”、経験者とともに考える
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 特定の分野で優れた資質があることにより高校卒業を待たずに大学に進学する“飛び入学”。海外ではごく普通の制度だが、日本では新入生およそ約61万人のうち、たった3人しかいない(2021年度)。

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 1998年、全国に先駆けて導入した千葉大学の石井久生教授は「研究者の卵を早い段階で見つけて育て、活躍してくれる人になって欲しい。そのために必要なことをサポートするためのシステムだ」と説明するが、それから20年以上が経つものの、同様の制度を導入している大学は全国で8大学、利用した学生数も合計141人にとどまるのが現状だ。

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 背景の一つとして石井教授は「学生さんにとっては、“中卒”で来ることが重石になっていたと思う」と推測する。つまり日本では“高校中退”という形でしか入学することができないため、仮に大学を中退することになった場合、最終学歴が“中卒”になってしまうというのだ。文科省は省令を改正、今月から飛び入学者を高卒認定することにしているが、果たして“飛び入学“は根付いていくのだろうか。

■経験者「刺激を受けたし、いい思い出しかない」

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 現在、東京大学と国立情報学研究所で量子アルゴリズムの研究を行う添田彬仁さん(37)は高校3年生にならず、千葉大学に飛び入学した。

 「もともと物理学が好きで、ある時、千葉大に物理で評価してくれるプログラムがあると知った。受験問題を解くということ自体が避けられるなら避けたいと思っていたし、失敗しても、また普通に物理学科を受験すればいいわけで、試しても全く損はないと思った。第一段階として志望動機のようなものと学校長の推薦を提出した。応募者は私だけだったので、問題はなかった」と振り返る。

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 入学後は、飛び入学者だけのカリキュラムも受講した。「基本的には物理学科のカリキュラムに沿って学んでいったが、飛び入学した人だけのセミナーでは、プロの研究者と一緒に教科書を読みながら突き詰めて考えていくことをやった。もちろん飛び級しなかった時のことは分からないので仮定の話になってしまうが、刺激を受けたし、いい思い出しかない」。

 その後は東京大学大学院に進むことになるが、高校時代には東大受験を目指すことも考えたという。「友達に言われて考えたこともあるが、漢文、それから現代文に恨みがあって…(笑)」。

■教育評論家・石田勝紀氏「年齢主義の文化があまりに強すぎる」

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 教育評論家で教育デザインラボ代表理事の石田勝紀氏は「高校は課程主義で単位を取れば進めると言われるが、やはり実質的には年齢主義なのが日本の教育だ。その文化があまりにも強すぎるために、大学側が調査や入学後のフォローなどにかけるコストと需要が見合わない部分があり、広まっていかない」との見方を示す。

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 「OECDのPISA試験による学力の国際比較を見ると、日本は上位だ。つまり突出した学生を育てるというよりは、とにかく平均値を上げていこうという、平等主義的な考え方に、甘んじているところもあると思う」。

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 実際、15歳時点での在籍学年を比較すると、海外では各自の学力に応じた学年に属していることがわかる。元経産官僚の宇佐美典也氏は「年齢主義の今の日本では飛び級・飛び入学が無いことで、私立中学受験の競争が激しくなり、学習塾が発展してきたんだと思う」と指摘した。

■イェール大・成田悠輔氏「自己目的化・神格化していては意味がない」

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 米イェール大学助教授で半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏は「1~2年ぐらい早めたりするだけであれば、"他の学生と年齢差で溶け込めない"ということもないと思うし、早く進める仕組みは自然なことだと思う。そして添田さんの話で面白いと思ったのは、飛び入学を選ぶかどうかということ以上に、入学のための様々なパスを用意することが大事なのではないか、ということだ」と話す。

 「今の時代、中高生であっても研究者にコンタクトを取ることはできるわけで、時代遅れになっている側面がある学校制度そのものから逸脱することを許し、個性や能力、興味に応じた10代を送れる仕組みを色々な場面に埋め込み、羽ばたかせていくことが大事だと思う。つまり世の中から見れば“異端”な人たちをどう伸ばしてあげるかという問題で、飛び級・飛び入学も、そのための仕組みの一つだと思う。

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 そこで気になるのは、希望者の審査や教育のための仕組みづくりにかかるコストの問題だ。また、飛び級・飛び入学みたいなものが普及していくと、人よりも早く入学したり卒業したりすることを自己目的化してしまう人、実現した人を神格化しちゃう傾向が出てくると思う。人生100年時代と考えれば、1、2年早く学校に入った・入らなかったはどうでもいいんじゃない?とならなければあまり意味がない」。

 コロナ禍によりリモート教育が広がるなど、「新たな学び」「多様な学び」が議論される一方、「教育格差」の問題も指摘される日本の学校教育。今後、飛び入学がどれだけの普及を見せるのだろうか。(『ABEMA Prime』より)

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