「軍事作戦は当初から計画されていた目的が達成されるまで続くだろう」。ウクライナへの軍事侵攻が始まって2カ月近くになる中、作戦の継続を明言したプーチン大統領。
【映像】ロシア軍 マリウポリで“化学兵器”使用疑惑…「3回意識なくなる」「呼吸しづらい」
ただ、ロシア軍に関しては首都キーウ近郊での民間人虐殺やマリウポリでの有毒物質の使用の可能性など、残虐さを伺わせる情報に加え、部隊配置や規模、損害などが報じられる一方、ウクライナ軍に関しては“ロシア軍部隊の撃退”や“占領地の奪回”といった戦果が伝えられるだけで、損耗については定かではない状況が続いている。
こうした“非対称性”について、13日の『ABEMA Prime』に出演した防衛省防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室は「現代の戦争でほぼ共通している傾向だ」と説明する。
■アメリカ軍が関与した戦争との共通項も
「例えばリアルタイムに報じられていた米軍の作戦は、後から見ると正確なものではなかったということがある。最も分かりやすい例が湾岸戦争(1990〜91)だ。イラクに侵略されたクウェートを奪い返すという戦いだったが、アメリカ軍は海兵隊をペルシャ湾に浮かべ、海から奪回する作戦だということを意図的にリーク、CNNなどが報道したことで、イラク側も海側に部隊を集結させた。しかし実際は内陸部から戦車部隊を大きく迂回させてイラク軍の背後に回って包囲、撃滅した。つまり、この内陸部の部隊の情報は完全にシャットダウンしていたわけだ。
同じようなことはコソボ空爆(1999年)やイラク戦争(2003〜11)でも行われてきたので、やはり今回も出てくる情報は全てが操作されているので注意する必要があると私も訴えてきた。特にウクライナ側についてそれは顕著で、ウクライナが黙っているだけではなく、アメリカやイギリスもロシア軍についてはペラペラ喋るが、ウクライナ軍については黙っているし、衛星の情報も出てこない。これも、明らかにウクライナ支援のためだ。
死者数についても、ウクライナ側はロシア軍の数字を発表しているが、おそらく水増しがされているだろうし、逆にロシア側は少なく発表しているだろう。こうした情報は素直に出すことで有利になることはないので、やはり最後まで隠す。しかし、街で何が起こっているかは流す。このように、流すべき情報と流さない情報をうまく選択して出せているウクライナが情報戦においては優位に立っていると言っていいと思う」(高橋氏)。
■ゼレンスキー演説の大きな役割
ギャルユニット「BlackDiamond」リーダーのあおちゃんぺは「私の体験に置き換えてみると、女同士がケンカする時に、周りに“あいつ、こういうことやった”と言って味方を多く付けた者が勝ち、みたいなところがあった。ウクライナはそういうのが上手なのかなと感じた。逆に、ロシア側はプーチンが怖すぎて、上手くいっていないのに“上手くいっている体”で報告しているから自国の中でも正しいことが伝わってないのではないか」と投げかけると、高橋氏は「そのご指摘は正しい」と応じた。
「ウクライナとロシアとでは情報戦のターゲットが違う。ウクライナはまさに国際社会の支持を得て、仲間を1人でも増やそうとしている。そして仲間から資金や武器の支援を受けるというのがポイントだ。その意味では、侵攻を受けて以後、ロシアによる残虐行為が行われているという、その事実をメディアに報道してもらえさえすれば支持が得られる。また、そこでゼレンスキー大統領の演説が果たしている役割は大きい。ウクライナ語はもちろん、若干拙いながらも英語でも、自分の言葉、表情を通して“我々”が危険に晒されている、助けが必要だと訴えている。
一方で、ロシアは自国民がターゲットだ。インターネットの接続を制限して外部からの情報が入らないようにし、政府からの情報で独占する。ウクライナで残虐行為を続けるネオナチのゼレンスキー政権から人々を助け出している正義の戦争だというプロパガンダを流し続ける。僕たちから見ると、どうしてすぐバレる嘘をと思うが、ロシア国民がプーチンを支持してくれれば良いわけで、そこは国内で信じられるような形で情報を流しているということだ」(高橋氏)。
■ロシアの弱体化を望まない中国が…
国内向けの情報発信に腐心するロシアに代わり、中国が対外的な情報発信を担っている側面もあるようだ。
「ロシアも中国も、西側に対してどのように情報を流せば信じてもらえるか、例えばFacebookやYouTubeに投稿した後のコメントの付け方まで研究している。特にロシア国営メディアがYouTubeやTwitter、Facebookへのアクセスを禁じる中、中国のメディアを通じてロシアのプロパガンダが広がり、それを信じてしまっている人も出てきている。あるいは中国製で全く規制がかかっていないTikTokにはロシア側の発信もそのまま入っているだろう。
中国としても、ロシアの弱体化は望まないし、仮に今回の戦争でプーチン政権が倒れ、民主的なロシア政府が生まれるような極端な“ドリームシナリオ”が実現すれば、同盟国を失うことになる。それはおそらく台湾海峡の状況にも影響を与えることになるだろう。やはりプーチンに勝ってもらう必要がある、しかしさすがに軍事援助はできないということで、情報戦ではロシアの側に立つという姿勢を明確にしているのだろう。我々は日米欧といったものを“国際社会”と簡単に言ってしまうが、そうではない戦争観を持つ国や地域、人々がいて、そこに中国が力を貸しているという点では、動向を注視する必要がある」(高橋氏)。
■人々が“飽きる”時、ジャーナリズムの力が問われる
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「この状況に世界が慣れてきていることが恐ろしいなと感じている。ロシアはどんどん引っ込みがつかなくなっていくと思うし、国際社会からの制裁も止まらず、チェチェンやジョージアでの問題も蒸し返されることになると思う。核や化学兵器の脅威も残っているし、もしかしたら世界は開戦前よりも不安定な状況に進んでいくんじゃないか」、作家の乙武洋匡氏は「ウクライナの情報が表に出ない方がかえって戦局が優位になるとしたら、現地で取材活動を続けるジャーナリストの役割をどう考えればいいのか」とコメント。
高橋氏は「人々が普通の生活を失い、命を失っているわけだ。それをとにかく伝えていくことだろう。戦争が膠着化すれば世間が飽きてくる。しかし実際には戦闘は続いていて、亡くなる人も出てくる。今はブチャでの虐殺や化学兵器の話があるので、まだ世間は飽きてない。しかしいずれはそういうタイミングがやってくる。その時にこそ、ジャーナリズムの本当の力が問われると思っている」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側