「降伏=幸福、犠牲者が少なくて済む、というのは歴史を軽視した意見だ」ウクライナの人々の“徹底抗戦”を否定し、降伏を促すべきなのか?
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 陥落寸前とされるウクライナ南東部の都市マリウポリ。ロシア国防省は“市街地全域からウクライナ軍を完全に排除した”と主張、さらに市内の製鉄所に立て籠もる兵士に対し投降を呼びかけたが、ウクライナ側はこれを拒否した。

 こうした“徹底抗戦の構え”について、日本国内では“降伏すべきだ”との意見も出ている。18日の『ABEMA Prime』では、自身のYouTubeチャンネルで「ウクライナの人々の抵抗が、実は国際的な秩序を守ることに貢献している」と主張している政治学者の岩田温氏に話を聞いた。

【映像】「降伏」=「幸福」なのか?命を賭けて抵抗する意味について激論

■「“降伏した方が犠牲者は少なくて済む”とは言い切れない」

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 この問題について意見を求められたラッパーの呂布カルマが「僕は早い段階から“とっとと降伏しろ”派だ」と話すと、岩田氏は「日本にいる関係のない人たちが“降伏しろ”、あるいは“降伏すべきでない、最後まで戦うべきだ”などと言うこと自体が問題だ。あくまでウクライナの人々が決めることだ」としつつ、次のように警鐘を鳴らした。

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 「降伏した後で虐殺や性的暴行が起こった歴史もある。ウクライナにおいてはソ連の指導者スターリンが近代化のために食糧を強奪した「ホロドモール」(1932〜33)によって、少なく見積もっても300万人、多く見積もると1000万人もの人々が殺されている。そういう相手に対して簡単に降伏できるかといえば、それは難しいのではないか。

 また、日本国民はそういう経験をしたことがないが、第2次世界大戦の際のポーランドの例などを見れば、ウクライナという国家が無くなってしまう可能性もある。やはり“降伏してしまえばウクライナの人たちは幸せになれるんだ”というのは、あまりに歴史を軽視した議論だろうし、ナチスドイツがジェノサイドを行ったユダヤ人が戦争の相手ではなかったことを踏まえれば、“降伏した方が犠牲者は少なくて済む”と言い切ることもできない」(岩田氏)。

■「やめるべきなのは侵略であって、抵抗ではない」

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 さらに呂布は「当人同士が熱くなっているという意味ではケンカと一緒だ。先に攻めたロシアが悪いのは明白だし、やり返したいという気持ちは分かるが、抵抗するから侵攻が止まらないのではないか。応戦したって勝てっこないんだし」と話し、第三者による介入と停戦、そしてジャーナリズムによる監視を訴えた。

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 しかし岩田氏は「国際秩序を暴力によって乱し変更しようとしているロシアをウクライナと同列に論じるのは間違いだし、やめるべきなのはロシアによる侵略であって、ウクライナによる抵抗ではない。国際秩序によって守られているのは、自分の武力では強国に勝てない小さな国々だ。それを“熱くなっているからお互い様でしょ”と言ってしまっては、ルールを暴力によって破壊することを是認することになってしまう」と反論。

 「もちろん、戦いつつ、どの段階であれば最も有利な条件を求めることができるかを考える“戦略的な降伏論”はありえると思う。しかし何もせずにいきなり降伏をすればウクライナの人々が死なずに済んだと考えるのは、ソ連による満州侵攻(1945年)の事例を見ても誤りだと思う。そして侵略によって国を失った新疆ウイグル自治区やチベットで起きてることについて、中国は“そんなことは一切ない”と主張し続けているではないか」。

■「“憲法9条があるから日本は平和だ”というのは幻想だ」

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 慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「僕たちは小学生のうちから“国連があるから”と教わってきたが、核を持っているロシアに対しては強く出られない無力さ、安保理という仕組みの綻びを目の当たりにしている」と嘆息、今後の国際秩序、そして日本の対応について疑問を投げかけた。

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 岩田氏は「国際秩序を守るための集団安全保障という考え方、そして国連には侵略を行った国に対して世界中で制裁を加えようという考え方がある。イラクのサダム・フセインも、これにより裁かれた。ところが残念ながら国連の常任理事国には拒否権が与えられていて、それらの国と事を構えた場合、集団安全保障は機能しない。ウクライナの事例は、そのことを我々に教えてくれていると思う。そもそも世界の統治機構が全て完璧に動いたという例はないわけで、いざという時に何ができるのか、日本も問われていると思う」とコメント。

 「ウクライナに憲法9条があればロシアに侵攻されなかったのかどうかを考えれば、“憲法9条があるから日本は平和だ”というのも全くの幻想だったことも明らかだと思う。日本が他国に攻められれば、もちろん自衛隊は戦う。そして、その姿勢を示しておくことが平和に貢献する、つまり抑止になるという当たり前の考え方を持っておくべきだ。しかし、例えば中国が日本、あるいは台湾に攻撃を仕掛けた際に、本当に世界の国々が救ってくれるのだろうか。やはり自分の国を自分で守るということも真面目に考えなくてはいけない」。

■「だからこそ普段から投票に行っておくべきだ」

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 ゼレンスキー大統領は18日に公開した動画で、ロシア軍がウクライナ東部の完全制圧に向けドンバス地方で大規模な攻撃を開始したと発表。「ロシア軍がどれだけ動員されようと我々は戦う」「我々は国を守る。決して何も渡さない」と国内外に向けて訴えた。

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 オンラインサロン『田端大学』の田端信太郎塾長は「太平洋戦争における硫黄島の戦いや沖縄戦の犠牲者は無駄死だった、という見方もあるだろう。しかし、“日本人がこんなに粘るんだったら、本土上陸なんてしたら、こちらにも相当な犠牲者が出る”と思わせたことも事実だと思う。それが原爆投下に繋がったということはあるだろうが、それでも日本が国の形を保つことができたという意味では、僕は硫黄島や沖縄の犠牲は無駄ではなかったと思う」と話す。

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 「そして、たとえそれが“無駄な抵抗”で、他人から見れば自殺と変わらないと思われようが、戦う自由を制限することはできない。言論や表現の自由が一番大事だと思っている僕の立場からすれば、日本が中国やロシアのような国になるのは嫌だ。今年で47歳になるが、子どもも3人いるし、やりたいこともやった。80歳、90歳まで無駄に生きるより、名誉ある戦死を遂げられるなら、という気持ちもある。

 一方で、“国のために戦おう”というムードが国全体にあっていたとしても、“本当はイヤだ、死にたくない”という人だっているはずだ。そこはかつての日本のように、“戦わないお前は非国民だ”というムードにはならないようにしなければならないし、逃げる自由、戦わない自由を保障した上で、ウクライナ人、あるいは日本人ひとりひとりが決めればいい。

 その意味では、ゼレンスキー大統領が民主的に選ばれている、という点が重要だと思う。日本では緊急事態宣言やまん防について文句を言いながらも“従わないといけないよね”という雰囲気になっていたと思うが、だからこそ普段から投票に行っておくべきだという問題が一周回って突きつけられているのだと思う」(田端氏)。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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