フルセットの全9局、全て熱戦という濃厚な勝負を制したのは「シンジンオウ」だった。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Aリーグ第3試合、チーム羽生とチーム三浦の対戦が4月30日に放送され、チーム三浦がフルセットの末にスコア5-4で勝利、リーグ成績では1勝1敗で本戦出場を決めた。決着は最終第9局までもつれる激闘となったが、池永天志九段(29)が羽生善治九段(51)に勝利し、ついに決着。チーム羽生は2連敗で予選敗退した。
大会史に残るような激闘ばかりのフルセットだった。両チームともチーム永瀬に敗れ、直接対決を制した方が本戦に進むというわかりやすい対決だった。リーダー三浦弘行九段(48)、池永五段、伊藤匠五段(19)の3人は、チーム永瀬戦では思うように力が出ず、三浦九段も「リーダーとして不甲斐ない。迷惑をかけた」と反省の言葉が続いたが、この敗戦を糧に3人全員にさらなるチームワークと粘り強さが身についた。
チームとして初白星を挙げたのは第2局、伊藤五段だった。第1局で勝ち勢いをつけてきたチーム羽生・佐藤紳哉七段(44)を迎え撃つと先手番から相掛かりを選んだ。早いテンポの指し手を繰り返し持ち時間で大きくリードすると、形勢でも徐々にリード。中盤以降は少し巻き返されたものの、19歳とは思えない落ち着きは崩れず107手で快勝した。なお伊藤五段は第5局、第7局でも登場し、どちらも最終盤に詰むや詰まざるやの好勝負。トータル2勝1敗と勝ち越し、チームの勝利に貢献した。
リーダー三浦九段は、苦しみながらも踏ん張った。第3局では中村太地七段(33)、第6局は羽生九段と戦うも連敗。後輩2人が奮闘する中、結果が出ない状況に悩んでいた。すると迎えた第8局。スコア3-4とカド番に追い詰められた中、これまでリーダーとしては最終局に控えるケースが多かったが、好調な池永五段を温存する作戦を選んだ。佐藤七段と先手番から相掛かりで戦いを挑むと、序盤からリードを奪ったものの終盤に猛追を受けて、この一局も大混戦。対局を見守る両軍のチームメイトが控室で大騒ぎになるほどだったが、なんとか133手で勝利をもぎ取り「ホッとはしましたけど、チームメンバーに借りは返せていない。本戦に行けたらメンバーに返したい」と、最低限の仕事を果たしたと語った。
全ての期待を背負って決着局を託されたのが池永五段だ。この試合では第1局に佐藤七段に敗れたものの、第4局に羽生九段に勝利。痺れる勝負が続いていたが「せっかくここまで来たので、最後なんとかチームのみんなで喜べるような結果を出したい」と気合を入れると、レジェンド羽生九段と再戦。後手番から相矢倉のじっくりした勝負になると、序盤はペースを握られていたものの中盤からじわじわと反撃。チャンスを握ってからはカウンターを決めるような攻撃で突き放した。「苦しくなった後はうまく相手についていけた。貴重な経験をさせていただいて、また3人でパワーアップして本戦に向かいたいです」と、安堵の表情を浮かべていた。
1局単位で見ても逆転また逆転というスリリングな戦いの連続だったが、全9局の試合全体を振り返っても、2差以上開いた局面がないほど勝ち越しては追いつく、追い越すという名勝負だった。放送時間としては6時間を超える長丁場ながら、ファンからは両チームの健闘を称えるコメントが殺到。今後もこの戦いは、大会を振り返る上でずっと語られることになるだろう。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)