「強制的な徴収が相応しいのかどうか真剣に議論する時期が来た」。イギリスの公共放送BBCの受信料についてそうツイートしたのは、同国のドリーズ文化相。イギリス政府の発表によれば、一世帯あたり約2万6000円/年の徴収を2027年度にも終了する方向で検討するという。
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背景にあるのは、視聴していないにも関わらず支払いを求められる“不公平感”と、動画配信サービスの普及だ。4日の『ABEMA Prime』では、元NHK会長の籾井勝人氏を交え、BBCの問題からNHKの今後を考えた。
■在英ジャーナリスト小林氏「放送と配信が分けられているのは残念」
まず、BBCを取り巻く環境の変化について見ていく。イギリス在住のジャーナリスト・小林恭子氏は「BBCが一律徴収をやめたいと思っているというよりも、政府が先月28日に発表した白書によって、考えざるを得なくなったということだ」と説明する。
「まず、与党である保守党は昔から“小さな政府”を支持する政党なので、民業を圧迫するということ、また、イギリスのEU離脱に関しても、“残留した方が良い”という、いわば“左寄り”、“リベラル”な報道をしていたこともあって、BBCを敵視してきた。だからことあるごとに受信料制度を廃止しようということを言ってきて、今年の1月ぐらいからバルーンをあげていた。
そして、より公正なシステムに見直すということで白書を出した。そこには、今後イギリスの放送局がどうなっていくのか、動画コンテンツ市場がいかに変わっていくのか、ということが非常に詳しく書かれている。今はインターネットに繋がれば、タブレットやスマホで何でも見られるし、実際にNetflixやAmazon Primeの人気が非常に高く、テレビ番組のいわゆる“ライブ視聴”も半分を切っている状況だ。お金を払って公共サービス放送を支えていくんだという意識は人々にあるものの、みんなが様々なものをバラバラに見ているとなると、一律徴収が正当化できなくなってきているということだ」。
BBC側もエンタテインメントやドラマ、ニュースなどを充実させたサービスを運営するなど、時代に合わせた変化を模索してきたが、受信料に代わる財源としては広告の導入、課金、税金の導入などの案が浮上しているという。
小林氏は「イギリスでは、民放も含めて全て“公共サービス放送”という名前になっているので、あくまでも放送は公的サービスとして受け止められている。だからこそ、誰でもサービスを受けられるべきだということで、2005年頃から配信も始まっていた。広告についても海外でBBCのニュース番組を見る時には出しているし、受信料に代わる収益源については向こう数カ月の間に代替案を出していくと報じられている。“放送税”のようなものを作るとか、あるいは公共料金の一部にしてしまうとか、いろいろな案が出ているが、当面は番組本数を減らすことで対応することになるだろう」との見方を示し、同じ“公共放送”たるNHKについては「海外に住んでいると、日本では放送と配信が分けられているのを非常に残念に思う」と指摘した。
■元NHK会長・籾井氏「現時点ではそんなに悪い仕組みではないと思う」
元NHK会長で、在任中には受信料引き下げを幹部に指示したこともある籾井勝人氏は「BBCを見ながら育ってきたことは事実だろうが、今ではNHKはNHKだし、BBCはBBCだ。もちろん、世界のテレビ局の中でも最も良い番組を作っているのがBBCとNHKだし、一緒にやっていることもいっぱいある。そのためには、やはりお金がかかる。今の徴収方法がベストだとか、未来永劫変えてはいけないだとか、そんなことは思わないが、現時点では(受信料制度は)そんなに悪い仕組みではないと思う」と話す。
「NHKというのは予算と決算で運営されているので、余ったらお返しする、足りなかったら頂く、という原則でやってきた。一方で、新放送センターを作るための積み立てや、使っていない制作費をお返しできるじゃないかとなった時に、誰に却下されたかというのはお分かりだと思うが、却下された。
今回、受信料が高いということで引き下げられるが、そのために闇雲にコストカットをして内容をダメにしたらNHKじゃなくなってしまう。また、NHKはあまねく世帯が見られるようにしないといけないので、ほんのちょっとしか住民がいないところにもアンテナを立てて見られるようにしているし、そのための会社もある。“そんなものはやめてしまえ”と言ってしまうと、あらゆるものがいらなくなってしまう。
NHKの受信料の徴収率は8割ぐらいだと思うが、残り2割の人が払うようになれば、計算上は2割安くできるわけだ。私が着任したときにはできなかった『NHKプラス』も、やっとできるようになった。世の中がものすごく変わってきている中、本当に今まで通りでいいのかという議論はきっちりしなければいけない。縛りはいっぱいあるが、NHKにどうなってほしいとか、、そのためには何を変えないといけないか。放送法の問題もある。本当にNHKを変えるなら、そういうところから抜本的に議論していかなければならない」。
■佐々木俊尚氏「NHKの“枷”を外してから議論を」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ユニバーサル、つまり誰でも受けられるサービスとして放送がある。だから難視聴対策として、あらゆるところにアンテナを立てきた。限界集落の高齢者には必要かもしれないが、一方で都会に住む若者はテレビを持っておらず、見たい時にスマホで見たいというニーズが一般的になってきている。その意味では電波中心のテレビ局はユニバーサルなサービスでは無くなってきているとも言えるだろう。また、テレビの映らないテレビや、コネクテッドTVのようなものも出てきている。NHKがNetflixを見るのと同じくらいの気楽さで、いつでもどの番組でも見られるようにしてから、国民の意思を考えるというところまでいかないといけないのではないか」と問題提起。
「BBCがインターネット上で様々なことをやっている一方、NHKが全く出来てこなかったのは、民間の放送局でつくる民放連(日本民間放送連盟)が悪い。NHKが何か新しいことをやろうとするたびに“民業圧迫だ”と主張し、総務省がNHKに“抑えてください”と言うことが続いてきた。
実際、民放はNHKプラスで放送との同時配信をすることに対してでさえ反対していたが、さすがにおかしいじゃないかと批判された。民放は同時配信をしていないのに、なぜ圧迫になるのか、ということだ。こういう話はテレビのニュースでまったく扱われないので、どうしてNHKがインターネットに出て来ないのか、世の中の人はほとんど知らないと思う。
また、広告に関しても、購読料に加えて広告収入が多い新聞社では広告部門と編集部門を分離し、広告部門が何か言ってきても編集は跳ね除けるということでやってきたが、次第に売れなくなってきて壊れてきている部分がある。NHKも広告モデルによって収益が維持できるのであれば、むしろ広告と報道を分離させることも可能だと思う。
そういう“枷”を外してあげないまま受信料をやめろといい、一方でインターネットに進出させない状況では、NHKには道はない。僕はスマホやパソコン中心で見る人のための新しいNHKを作ってもらってOKだし、その上で質の高い番組を作ってもビジネスモデルが維持できるね、ということが確認できて初めて受信料の議論をすべきではないか」と課題を提起した。(『ABEMA Prime』より)
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