7月の参院選に向けて永田町の動きが活発化、テレビ報道も各党の政策や選挙協力、立候補予定者について取り上げる機会が増えている。しかし公示日や投票日が近付くほどに顔や氏名を映さなくなり、主張や党の政策も短い時間を平等に割くため、視聴者は物足りなさも感じてしまう。
それだけではない。地上波放送の選挙報道の“量”を見てみると、放送時間そのものが減少傾向にある(過去3回の参院選)。このままの状況で、果たして有権者が投票の参考になる情報を提供、投票率を上げることに寄与できるのだろうか。
【映像】籾井元NHK会長「受信料はいいアイデア」 制度見直しや新財源を議論
■EXIT兼近大樹「有利な党がより有利になるような気がする」
EXITのりんたろー。は「“みんな選挙に行こう”と言いつつ、知らない人に見つからないように、こっそり選挙をやっているような印象を受けてしまっている」、兼近大樹も「言ってしまえば有利な党がより有利になるような気がするし、逆にテレビに出ない方が粗も目立たなくなるのでいい、ということにもなってしまうのではないか」とコメント。
また、実業家のハヤカワ五味氏は「政治家の方々がテレビで話しているのを聞いていると、“コピペ”してきたような内容が多いなと感じる。これなら失言にならないだろうし、広報からも怒られないだろうという感じが伝わって来ちゃって面白くないなと思う」と指摘した。
テレビ朝日政治部の前与党キャップの河田実央デスクは「大きな争点もあったといえ、良い意味でも悪い意味でも安倍政権が安定していたし、上手い選挙の仕方をされていた時期だ。そこに対してどう盛り上げていくのか、少しテレビに工夫が足りなかったのかもしれない」と話す。
「また、公職選挙法には“編集する自由を妨げない”という前提がある一方、放送法では“テレビは政治的に公正であってくださいね”ということを定めている。選挙は民主主義の根幹なので、我々としては選挙期間ではなかったとしても公平性を担保していなくてはならないし、特定の政党が有利になるように伝えてしまうと、民意の反映の仕方が歪んでしまう。そこで選挙期間になると、選挙区に出ている全候補者を伝えましょう、時間も揃えて伝えましょうという報道の仕方になる」。
■『SAKISIRU』新田氏「ファクトに基づいている以上、もっと攻めていい」
他方、放送局などでつくるBPO(放送倫理・番組向上機構)は2017年、「各政党・立候補者の主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念」「事実に基づくものである限り、番組編集の自由があることが公職選挙法で明確に確認されているが、量的公平性は求められていない。テーマや切り口、出演者は放送局自身が自由に決めること。選挙報道と評論に求められるのは質的公平性、実質公平性だということだ」と指摘している。
元読売新聞記者で『SAKISIRU』の新田哲史編集長は「ネットでの選挙活動が解禁された2013年の参院選以降、マスコミが報道しない、でも重要だという問題がネットに出てくるようになり、有権者もそこに気づくようになってきた。そして“もっと政策論争や本音の部分が見たい”と、良くも悪くも有権者がマスコミの出す情報に求めるハードルが上がってきているのだと思う」とした上で、次のように話す。
「僕は選挙スタッフにいたこともあるのでわかるが、特にテレビの影響力は大きいので神経を使う。特定の候補者に著しく有利もしくは不利になるような報道があると、選挙結果が終わったあとでクレームが寄せられたり、場合によってはBPOへの申立、あるいは裁判に訴えられたりといった可能性が出てくる。テレビ局としても“危機管理”ということで、なんとなく萎縮して自主規制してしまっている部分がある。
一方、新聞はテレビに比べて自由で、特にスポーツ新聞は自分たちが面白いと思った候補者だけを取り上げる。そして、それがYahoo!ニュースなどを通じて広がっていく構造がある。僕もマスコミの記者として取材をしていた経験があるので、中立的になるようにしなければならないという実情はよく分かる。ただ、BPOとしては選挙報道があまりにも見られないということで、警鐘を鳴らしたのではないか。
ポイントとしては“質的公平性”で、ギリギリのところを追求することだと思う。僕たちは2020年10月の富山県知事選で、前知事が選挙戦の準備に職員を関与させたのではないかと報じた。結果、記者会見が開かれ、テレビ・新聞も追いかけてきた。ある地元テレビ局の人には“新田さんのところが取り上げたから、選挙直前だったけど報じることができた”と言われた。
さらに今年3月の石川県知事選でもポスターの違反を報じたが、これは選挙期間中だったので、マスコミが報じることはなかった。しかし、法的な問題があるという明確なエビデンスがあれば、恐れて量的公平性に持ち込まず、ガンガン報じていいのではないか。もちろんネットメディアや週刊誌のようにいかないだろうが、いざとなったら抜ける刀を持っているんだという自負を持つことが、政党や立候補者といい意味での緊張関係を生むだろうし、視聴者も“本物だ“と思ってくれる」。
ただ、言論の自由の観点や、放送局が増加していた事情から「公平原則」(フェアネス・ドクトリン)が撤廃されたアメリカでは近年、報道内容の偏向も問題視されるようになっている。
新田氏は「僕も自由競争論者ではあるものの、行き過ぎると社会的分断が深刻になるという懸念を持っている。トランプ大統領が選挙に勝つために支持層を煽った結果、議事堂を襲撃するという事件まで起こってしまう。やはり一定程度の規制、ルールは決めなければならないだろう。
ただし、日本のルールは東京タワーが建てられた昭和30年代ごろに整備されていった“昭和のルール”だ。ネットによって多様化し、情報が爆発している今こそアメリカの良くないところを研究した上で、自由度が高く活性化するような、でもバランスは取れたようなものになるよう、メディアも政治の側も見直していかなければならない」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側