今、アメリカで問題になっている、女性の人工妊娠中絶の法律をめぐる裁判。
過去の判決を連邦裁判所が覆し、「中絶を禁止する法律を合憲と認めるのではないか」と各地で抗議活動が広がっている。バイデン大統領も「この判決が成り立てば、実に過激な判決であることは間違いないでしょう」と危惧を表明した。
きっかけは、政治専門サイト『ポリティコ』のスクープ記事だった。ポリティコが、最高裁判事の多数派が1973年に中絶の権利を認めた判決を覆す意見書をまとめたと報じた。最高裁の検討内容の草稿が流出し、報じられるのは極めて異例のこと。最終判断ではないとされているものの、このような事態がおきている背景には、判事の割合の変化が――。
トランプ政権下で、中絶反対の保守派判事が増加し、現在では6人が保守派、3人がリベラル派の割合となった。一方で、コーヒーチェーン大手のスターバックスは、従業員が人工妊娠中絶などを希望した際に、旅費を負担する支援を発表。AmazonやMicrosoft、Appleなども同様の支援策を打ち出している。
アメリカの世論を二分する問題になっている中絶の権利をめぐる裁判。今アメリカで何が起きているのだろうか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』は上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘氏に話を聞いた。
――人工妊娠中絶をめぐって今、アメリカで何が起きているのか教えてください。
ひとことで言うと保守派の大きな波が出ている。保守というのは宗教保守(福音派など)のことで聖書を信じる人たち。その人口はアメリカの20%ほどいると言われている。この人たちは妊娠中絶にすごく反発している。アメリカでは、1973年に最高裁判決で妊娠中絶が認められたが、これに対してずっと反発してきた人たちが今、勢いづいている。今、アメリカの8つの州のほとんどは妊娠中絶ができなくなっていて、州法で規制していっている状態。
――1973年の「ロー対ウェイド判決」で連邦最高裁が妊娠24週ごろまでの中絶を合憲とした判決となり、その流れでアメリカは今こうした状態になっています。そのポイントはどこにあるのでしょうか。
ロー対ウェイド判決の前までは州が妊娠中絶の有無を決めてよかったが、今はこの段階に戻ってしまっている。最高裁の判決が出て、それから福音派の人たちが連動して、「最高裁の判事を変えていくんだ」「一人ひとりを変えていくんだ」という動きを50年続けて行っている。また、トランプ政権の時に最高裁の保守派が6対3と過去にないレベルの超保守主義になった。6対3までいけば妊娠中絶を各州で決めることができるので、福音派の多い南部中西部は勢いづいて、今の動きになっている。
――今回の件は、アメリカ国内では大きな争点になっているのでしょうか。
これは日本でいうと憲法9条に値するもの。日本からみると、妊娠中絶への反対賛成になぜ政治的な争点なのかとピンとこないかもしれないが、アメリカの南部や中西部で妊娠中絶することは「子どもを殺めることは神の意図を無視している」「どんな形であっても神が命を宿すと決めたことに背くことになる」という考え方である。一方で、「それは女性の権利だ」と思っているのが半分ほどいて、アメリカという国を割っている。
――判決が出たら、どうなることが予測されるとお考えですか。
妊娠中絶がほぼ禁止されている州が8つある。その他に12〜13の州がトリガー法といって、ロー対ウェイド判決が覆された場合、すぐに妊娠中絶を禁止することができる。12〜13州と8州、そしてあといくつかの州がおそらく3〜6カ月以内に妊娠中絶が禁止になると思われる。過去に妊娠中絶ができず、ハンガーを使って自ら子どもを殺めた事例もある。危険な中絶は悪影響も多く、実際に多くの女性が亡くなった。抗議する人たちの中には「またハンガーを使わせるのか」と訴えている人もいる。
(『ABEMAヒルズ』より)
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