「お金がないから、男性が許されないからという理由でブロックされてはいけないはずだ」経口中絶薬の承認めぐり女性たちに残る不安
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 人工妊娠中絶における母体への負担軽減の効果が期待される「経口中絶薬」。その承認審査を行う厚生労働省の答弁が「リプロダクティブヘルス・アンド・ライツ」、つまりに子どもを産むか否かを決定する自由に反するのではないかと批判されている。

【映像】経口中絶薬"配偶者同意"なぜ必要?背景に「子どもは家のもの」固定観念が?

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 問題となっているのは17日の参議院厚生労働委員会での橋本泰宏・子ども家庭局長の「法律上仮に経口中絶薬が承認されて経口中絶薬を用いた人に人工妊娠中絶を行う場合においても、原則として配偶者の同意が必要になる」との答弁だ。

 これは配偶者の同意なしの人工中絶は暴行や脅迫など、拒絶できない状態で妊娠した場合、配偶者が意思表示できない場合などに限られるという現行の母体保護法の趣旨に沿ったものだが、同様の要件を定める国や地域は日本を含めわずか11しかなく、世界の潮流からも取り残されているというのだ。

■「女性の権利が守られていない」

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 25日の『ABEMA Prime』に出演したASAJ(国際セーフアボーションデーJapanプロジェクト)メンバーで、“配偶者同意”の廃止や適正価格での中絶薬入手に向け署名運動をしている梶谷風音氏は「経口中絶薬という選択肢が増えるということに対しては歓迎する女性の声は多い。ただ、私が国内外の支援団体に繋ぐ時によく聞くのが、“高すぎて払えない”ということ、“配偶者の同意が必要なので、内緒のまま中絶するのは難しい”ということの2点だ。これを解消しなければ、本当の意味で選択肢が増えたことにはならないのではないか」と話す。

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 「価格については10万円にしようということを産婦人科の医師が言い始めているが、ミソプロストールならネットで1錠100円くらいだったから、と買った女性もいる。海外の薬を使って欲しくなければ適正な値段で女性が服用できるよう支援していかなければいけない。

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 また、配偶者の同意の問題については、日本でもこの20〜30年、女性たちは声をあげ続けていて、ある調査では産婦人科医の7割が廃止するべきだと考えているという結果が出ている。1995年の『北京宣言』では、女性に出産をコントロールさせることが人権だと謳われ、日本も批准している。日本も批准している。しかし翌1996年、女性議員が配偶者の同意の廃止を求めたのに対し、自民党は二度も却下した。

 さらに1999年には堂本暁子議員が“人権侵害だ”と主張、2000年には産婦人科医会が妊娠12週までの初期中絶に関しては女性の意思だけで行えるようにすべきだと提言したが、いずれも国は却下している。その後も2011年、2016年と国際社会からの要求を受けているし、国連の“安全で合法な中絶の障壁はすべて撤廃するべきだ”ということを通知受けているが、なかなか女性の権利が守られていない」。

■「先延ばししたいという意図を感じる」

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 一方で、厚労省は配偶者の同意が不要とするケースを増やしてもいる。

 梶谷氏は「実際には女性だけの意思で中絶させてもらえるかというと、そうともいえない現状がある。例えば“東京 中絶 産婦人科”などで検索すると、夫やパートナーの同意を求めると明記している産婦人科が大半だ。あるいは、“中絶、配偶者、同意なし”と検索すると、“私文書偽造罪にあたる可能性”とか、“男性の同意を偽装して手術をしたら犯罪者になる”など、女性の不安を煽るものも多い」と話す。

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 「実際、“中絶費用を払いたくなくて逃げようとしている元彼の同意を取ってこないとできません”と医師に言われたというコメントをもらったこともある。あるいは“知り合いなら同意が取れるだろう”と、医師がレイプ加害者のところに戻そうとしたケースや、諦めて出産、新生児を捨ててしまうというケースも起きている。

 やはり日本の政治は高齢男性が中心で、古い法律がまだまだ残っている。中絶の権利に関して政府は1952年以降、胎児の権利・胎児の人権だということばかりを言っているが、国連では“人権は生まれたあとに付与されるものだ”という結論が出ている。女性を管理下における時間を少しでも先延ばしにしたい、ほとぼりが冷めれば静かになるだろうと考えているのだろうが、まだ日本にはこういう制度があるんだと、継続して声を上げていかないといけないと思う」。

■「政治が一足飛びに決められない」

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 慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「ネットを見ていると厚生労働省を批判している人もいるが、むしろ行政としては良識ある人たちが頑張って法律を拡大解釈し、例外を作ってきたんだと思う。問題は、法律が根本的に認めない、としている部分だ。それを変えようという意見を自民党が却下しているということは、それを支持している人たちがいる、ということを考えなければならない」と指摘する。

 「田舎に帰ると、“覚悟して嫁に行ったのに、苗字がどうたらこうたらなんよ”といったことを平気で言う女性たちが想像以上にたくさんいる。僕が友達の選挙を手伝っていると、そういうお母さんたちが家庭内の票を握っているなと感じることも多い。若い人たちの間では“おかしいよね”という感覚があるし、その通りだと思う。

 それでもなお、日本の隅々に根強く残っているものがある限り、政治は一足飛びには決められない。それが正しいことではないとしても、泣いてしまう人が出てくる構図になってしまう。その意味では、今の有権者が何を望んでいるかだけでなく、何を作っていくべきかに政治が勇気を持って舵を切れるかどうかだ」。

■「日本は家父長制が強いと感じる」

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 また、近畿大学情報学研究所の夏野剛所長は「アメリカでは共和党が主流の州で中絶の違法化が進んでいる。つつまり“日本が遅れていて、欧米は進んでる”という話でもない。また、法律がそうなっている以上、官僚としてはそれに沿って答えるしかないので、やはり法律をいじる政治家の責任になる。

 しかし夫婦別姓の問題とも似ていることだが、実は自民党の高齢の女性議員の中に反対者がいて、夫婦別姓も中絶もしないのに“私の時代はこうでなかった”と声高に言われると、男性議員はわざわざ絡んで押し戻そうとはしなくなる。それは企業でも同じで、例えば子どもが小学6年になるまで育休を認めよう提案すると、“甘やかし過ぎだ”みたいに反対するのは女性の役員だ」。

 こうした意見を受け、梶谷氏は改めて「配偶者の同意を求めている国々はアラブ首長国連邦、イエメン、シリアなど、宗教色が濃い国が多い。そうでない日本は、やはり家父長制が強いと感じる」とコメント。改めて「WHOの勧告では、本人や薬剤師、看護師、助産師も処方できることになっているので、母体保護法の指定医である必要はない。そこも世界基準に合わせて、全ての人に行き渡らなければいけない。お金がないから、男性が許されないからという理由でブロックされてはいけないはずだ」と訴えていた。(『ABEMA Prime』より)

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