5月30日、自民党の経済成長戦略本部による提言にも盛り込まれたICT教育・人材育成の推進。コロナ禍もあり、2019年度からの「GIGAスクール構想」で推進されていた小中学校の“1人1台タブレット端末”も、98%以上の学校で整備されている。
一方、4月24日付の読売新聞の社説『デジタル教科書 紙を補助する活用法が有効だ』を受け、朝日新聞が今月29日「社説余滴」に論説委員名で掲載したコラム「本件、私は読売に同感です』が話題を呼んでいる。
30日の『ABEMA Prime』に出演した、元小学校教員で、現在は私塾「HILLOCK」の校長・蓑手章吾氏は「子どもにとってデジタルで学ぶのは紙との地続きだ。紙の方がいいという子もいれば、デジタルの方がいいという子もいる。それぞれが選べるようにしてしまえばいい。補助がどうかというのは大人の考えでしかない」と指摘する。
「今までの学校教育は、みんなで同じ課題を同じ評価、同じ時間でやるのが前提だった。だけど、今なら同じ教室の中で、ある生徒はデジタルでドリルをやったり、ある生徒は紙と鉛筆でやっているという、同時並行も可能だ。あとは先生や保護者たちの“授業はこういうものだ”というマインドを変えることだ」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「読売と朝日のコメントは終わってんな、だから紙の新聞が沈み、ウェブの購読者数も伸びないんだと感じた」と痛烈に批判する。
「GIGAスクールに関しては初期の議論から参加していた立場からすると、目的は端末を一人一台パソコンを配ることでも、教科書を紙からデジタルに置き換えることでもない。蓑手さんがおっしゃっていたように、“個別最適化”をするということだ。それによって、学習にかかっていた時間が2分の1、3分の1になり、時間を有意義に使えるようになる。また、皆が何をやっていたかの履歴がデータに残るようになる。今はまだ過渡期だが、記事を書かれた方々はデジタルと紙が共存できている現場を見に行ったらいい」。
他方、慶応義塾大学の若新雄純・特任准教授は「教科書を読むだけでなく、問題を解くことによって学習内容は身につく。それはビジネス書や自己啓発本を読むだけで実践しない人が仕事ができるようにならず、年収も上がらないのと同じだ。逆に“手引き”は紙の方が参照しやすかったりするわけで、その意味ではデジタル化されるべきは教科書よりも、プリントなどのワークシートではないか」と指摘。
「そして安部さんが言う個別最適化というのは、究極的には学年を無くすことだと思う。先生たちは“同級生と同じペースで学習が進んで行く方がいい”と思っているのだろうし、親も“うちの子は2年生になったのに1年生の範囲をやらされた”と言うだろう。しかしデジタルになれば、“去年のところをもう一度やっておいて”という指導が可能になる。
最近、聞いてショックを受けた話がある。どことは言わないが、教材を作っている大手企業の経営者の家族は海外で子どもに教育を受けさせているという。なぜかと言えば、その国では1年生が終わる段階で“2年生になるのが不安だ”となれば、もう一度やり直しができる制度になっているからだと言う。それが“落ちこぼれ”ではなく、“ひとりひとりのペースでの学び”だ」。
蓑手氏は「これまでは掛け算ができないまま中学校に上がってしまう子は、"しょうがない"ということで辛い思いをしてきた。だけど、僕が教えていた小学6年生のクラスには、掛け算につまずいている2年生レベルの子の隣に、高校3年生レベルの数学をやっているがいた。僕たち大人もそうだが、何歳になっても学び直そうと思えば学び直せる環境が整った。これからの教師や学校の役割は、“メンター”として子どもに付き添い、“こっちを選んだら良いいんじゃない?”と教えてあげるものになっていくのではないか」と応じた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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