薬剤師から「自分がやれるのに」の声も 医療タスクシェアに現場は…推進会議の有識者委員に聞く
【映像】有識者委員に聞く“医療・介護の改革案”
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 未来の社会をより良くするために、何を変えなければいけないのか――。5月27日、政府の規制改革推進会議は「人への投資」と「経済成長」を実現する規制改革に向け、331項目にも及ぶ提言をまとめた。

【映像】有識者委員に聞く“医療・介護の改革案”

 中でも注目されたのが、新型コロナウイルスの対応で課題が再認識された医療や介護の分野だ。戦後のベビーブーム世代が75歳以上となる「2025年問題」が迫る日本。地方では過疎化に歯止めがかからない中、全国どこでも医療や介護に不安がない社会を構築するため、デジタル技術を最大限活用した改革案が盛り込まれている。

「前例のない取り組み、タスクシフト、タスクシェアの推進についても盛り込んでいただいたところ」(規制改革担当・牧島かれん大臣)

 聞きなれない言葉が数々飛び出す改革はどのようなものなのか。そもそも日本の医療や介護はいま、どのような問題に直面しているのか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、規制改革推進会議に有識者委員として加わった慶應義塾大学・中室牧子教授と中継をつなぎ、話を聞いた。

薬剤師から「自分がやれるのに」の声も 医療タスクシェアに現場は…推進会議の有識者委員に聞く
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――規制改革推進会議にはどのような人が集まり、何について議論しているのですか。

「規制改革推進会議とは、政府の規制の見直し、あるいは強化について提言を行う有識者会議のこと。夏野剛氏が議長を務め、学識経験者や企業の経営者など、さまざまな立場の人が構成員になっている。最近答申のとりまとめを行ったばかり」


――今回、中室教授は有識者委員として医療・介護のワーキンググループに出席していましたが、激しく議論されていたのでしょうか。

「はい。規制改革推進会議というのは開催の回数も多く、1回の審議で2〜3時間にのぼることがある。それがさらに延長されることもある。担当官庁と規制改革推進会議の委員、規制改革を求める業界・個人との間でディスカッションを行うので、すごく激しい議論になることがある」


――その“激しさ”はどこから生まれてくるのでしょうか。

「時代に合わせて規制を変えていかなければならないという現実はある。例えば、昭和30年以降変わっていない法律もあり、時代に合わなくなってきている。コロナ禍で、人々が必要とすることを法律が阻害しているということもある。しかし、業界間の意見の対立や、需要者と供給者の目線が合わないなどのさまざまな問題があり、議論が非常に紛糾する」


――医療・介護の規制改革案のポイントの中で各社が報じていた、医療の「タスクシェア/タスクシフト」について教えてください。

「看護師や薬剤師などの専門家が協働して医療現場を支えているが、その中で“一部のタスクをシェアすることができないか”ということ。人手不足の在宅医療で顕著になっている。例えば、在宅医療中の患者が痛みを訴え『薬が欲しい』と言った場合、現行の規制のもとでは医師が判断して処方箋を出す。次に、看護師が訪問して点滴の交換などをする。しかし、その前に薬剤師が患者の家を訪れ、薬を渡さなければならない。このときに薬剤師が点滴をすることができれば患者の痛みを早く和らげることができるし、看護師もわざわざ家に行かなくていい。『薬剤師が代わりに点滴の交換や充填をすることができないか』というのが議論された。ただ、各々の専門職の領域を侵犯しようということではない。過疎地域でサスティナブルに在宅医療を進めていくなら、タスクシェアをしていくしかないという事情もあると思う。患者からのニーズは非常に強いし、薬剤師たちからも『自分がやれるのに』という声をたくさんいただいている」


――医療や介護の現場で働く人を増やすのではなく、AIやロボット化などに力を入れた方が良いのではないか。

「それは非常に良いご指摘。実は、医療・介護ワーキングの大きなテーマの1つが『DX』だったので、そういった方向での議論はしている。医療・介護業界は、DXが全く進んでいない業界の1つだと言われている。今回、規制改革推進会議のローカル・ルールについて議論されたが、各自治体の中で“異なる申請様式の紙を出す”という習慣が大量にあった。例えば、介護施設で管理者が変わったら、複数の自治体にまたがって展開している介護事業者は100以上もの申請書類を出さなければならなかったという話もある。なので、まずはDXでデータやAIをフル活用して、生産性を上げていく方向に舵を切らなければならない。そのための規制緩和も議論している」


――まとめられた答申は、今後どのようになりますか。

「今回の答申の中で提案された規制改革案は大体300くらいあるが、その中にはすでに規制が緩和されて実現しているものもかなりある。それ以外のものはすべて『令和4年度中に結論を得る』などと時限を切っている。これが閣議決定されて実際の法律の改正につながっていくので、『規制改革会議の答申はかなり強いパワーを持っている』と考えていただいてもいい」


――時代に合わせて岩盤規制を打ち崩すことはできますか。

「私は規制改革委員として、岩盤規制を打ち崩すことができると信じている。厚生労働省もそうだが、医療者をリスペクトすることが大事。一方で、供給者側の事情や論理のみに合う規制や法律を作ることになると、患者や事業者側の利便性がおざなりになってしまう問題もある。だから、規制改革の枠組みの中で、ユーザーの声を制度の中に反映させていくことが大事」


――規制改革を推進する中で悩まされていることはありますか。

「専門職の方々が持っている独特の縄張り意識。『ここまでは我々の仕事であり、ここから先は違う』という考え方や習慣が問題だと思う。人口減少の時代に、その独特の縄張り意識を持っていることが生産性を下げる大きな理由になっていると思う。生産性を上げていくような体制を作ることが大事」

(『ABEMAヒルズ』より)

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