「かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-」（以下、「かぐや様」）は、赤坂アカ先生が「週刊ヤングジャンプ」に連載中の同名漫画のTVアニメ第３期。原作コミックスはシリーズ累計部数は1750万部を突破している人気作で、同様にTVアニメの人気も高く、キレのいいギャグやキャラクターの声を担当する声優の演技、アニメ制作スタッフ渾身のオリジナル演出などが好評を博している。
【動画】「かぐや様は告らせたい」3期ED映像（23分30秒ごろ～）
そんなTVアニメ第３期の人気を支えている柱の１本がEDアニメーション。そこでこの記事では、第３期ED映像を手掛けた制作デスクの杉本俊輔さんと、EDアニメーション絵コンテ・演出・原画担当の大野仁愛さんをお招きして対談を実施。第１期ED映像との繋がりや、盛り込まれた小ネタなどの注目ポイントについて話を伺った。
――第３期EDのストーリーが、第１期EDと繋がっていることがファンの間で話題になっていましたが、物語をリンクさせようと考えた理由と経緯は？ また、第１期ED制作時から続編映像を作ろうと考えていたのでしょうか？
大野仁愛さん（以下、大野）：第１期EDが放送された当時、EDの物語の続編を望む感想を多く見かけたことから、第２期でも第１期と同様のコンセプトでEDをやらせて欲しいという具申はしていました。ただこのときはまだ続編という考えはなく、単に同一の世界観を有するEDを構想していました。しかし第２期のEDは別の方が担当することに決まり、これは実現しなかったのですが、温めていたアイデアは第３期EDで活かされています。
杉本俊輔さん（以下、杉本）：大野さんから１期目のEDと繋げると聞いたときには、企画として面白そうだなと思ってイイネと言ったような記憶があります。僕が知る限りEDやOPを劇中劇にして続編を作ってしまった作品は見た記憶がなかったので、新しい試みで見たことのないものが作れるなと思いました。
それと、２期目の制作をしているときには、別作品を制作していて本編含めてあまりお手伝いできなかったんです。改めて第３期の制作デスク及びEDの担当を拝命したときには、また携われると嬉しかったですね。
大野：その後、第３期の制作決定とほぼ同時にED再登板のオファーをいただくことになるのですが、第２期のEDを無視することはできませんから、単純に第１期EDと同様のコンセプトの映像を作ることはできませんでした。統一性を欠いてしまうと感じたからです。
そこで第２期のEDを挟み込むような形で、第１期のEDと対になるものにしようというアイデアが浮かび、白銀の夢ないし妄想というコンセプトと、始めにお話ししたSFものというテーマが固まりました。またちょうどこのころ、第３期EDと同一のメンバーで制作した作品の打ち上げでカニを食べに行ったのですが、そこで次の「かぐや様」のEDはカニ型エイリアンと戦うSFものにしてはどうか、という意見が出て、実質この案を採用する形となりました。
しかし、単純にSFをやるだけでは「今度はSF風か」と思われてしまうだけなので、いかに視聴者の意表を突くかを考え、三段階での波状攻撃を仕掛ける計画としました。最初は単純に「第１期EDの世界観での続編」を想像させ、突然「100年後の壮大なSF風の世界観」に、そして訳が分からないまま最後は「ファンが一度は想像する、原作では描かれない場面」で幕を閉じる。こういった経緯で第３期EDは第１期EDの続編として制作されることが決まりました。
ただこのころは原作も現在ほど進んでおらず、今後の展開も分からなかったため、EDのプロットは個人的に印象に残っていた原作コミックス第６巻第56話「白銀御行は見上げたい」での白銀のセリフをベースにしたストーリーとして書き上げました。
杉本：完全に冗談だったのですが、まさか本当にカニと戦うEDになるとは……（笑）。
――原作コミックスにもあった藤原のハゲヅラなど、細かいネタも盛り込まれていますが、ほかにどのようなネタを仕込んだのでしょうか？
大野：自分としては「かぐや様」という作品を大野的な解釈でオマージュした映像という感覚で作っていました。その過程で「竹取物語」はもちろん、原作と通ずる物語展開や設定を持つさまざまな作品を元ネタとして取り入れています。あとは個人的に好きなモチーフである、古い時代の航空機ネタを第１期のころからかなり取り入れていますね。
物語の内容に関するネタについては、視聴者の皆さんが感じ取ってくださった思いや解釈を大事にしていただきたいので、真意に関する明言は避けたいと思うのですが、絵コンテ上ではさまざまな解釈ができるようにお芝居や描写に含みを持たせる努力をしていました。
物語とは関係のない小ネタですと、ラストシーンではお互いに相手のイメージカラーの衣装を着用していたりします。かぐやは白銀のイメージカラーである青を、白銀はかぐやのイメージカラーである赤を、といった具合です。あと、飛行船はよく見ると、第１期EDでかぐやが破った穴を塞いだ修理の跡が描いてあります。
杉本：知らなかった。ちゃんと原画見なきゃ（笑）。じゃあ彼らは、今回も第１期の時と同じ模型を使って撮影していたわけなんですね。
大野：そういうことになりますね（笑）。私たちの中での下らない遊びなんですけど「白銀やかぐやは実在していて、彼らを実写で撮影してアニメを作っている」というつもりになって制作をしているんです。なので飛行船や宇宙船はミニチュアか実物大セットで撮影しているという設定になっていたりします……（苦笑）。
この関連のネタとしてはほかにも、石上だけ衣装を着け間違ってヘルメットの顎ひもが裏返っているカットがあったり、ライフルがアップで映るものは実際に空砲を撃てるモデルになっているけれど、後ろのほうで映っているものや、後半の走るシーンで白銀が持っているものは安全に配慮して機関部を外したラバー製のプロップになっていたりします。あとは蛾の羽かな。本当は第１期のEDでもかぐやの羽は今回の蛾の羽にしたかったんです。
杉本：１期目のときは僕が反対して天使にしてもらいました。蛾の羽だと気持ち悪がられる可能性を捨てきれなくて……。今回も、ぎりぎりまで反対していたポイントの１つでした。
大野：あれはオオミズアオという私が一番好きな蛾なんですけど、幼稚園児のころに一度会えたきりだったんです。それが第１期のころ、EDの絵コンテを徹夜で仕上げきった日に会社の前でちょうど羽化していて……（笑）。あまりに興奮しちゃってEDのスタッフみんなを呼びつけて見せびらかしたっていうことがあったんです。
学名をアルテミスといって月の女神という意味なんですけど、当時は「きっとかぐや様のEDが成功するという神の思し召しだ！」と喜んでいました。それ以降もEDを制作するたびになぜか遭遇するので、今では私たちがEDを作る際のゲン担ぎみたいな存在になっています。
杉本：１期目のEDの制作中に偶然見かけたのですが、そのあとに結構EDが好評になり嬉しかったんです。珍しいちょうちょですし結構記憶にも残っていて……。３期目のときは見ませんでしたけど（笑）。
大野：ちょうちょじゃなくて蛾ですよ。ただそういうわけで今回は映像の中に出しちゃったんです。それと圭ちゃんが出てきたのにもわけがあって、第１期の通常EDに本当は圭ちゃんも出てくるはずだったのですが叶わずでして、今回のEDには第１期の衣装で登場させています。
杉本：藤原が撃たれて、血が飛んでいるシーンにケチャップが映り込んでいたりもしますね（笑）。
大野：ほかにも、白銀たちが惑星に降り立つ際に乗るドロップシップの名前が、第１期第12話でかぐやが仮装していた赤い飛行機と同じ「Dr.I」という形式名になっていたりします。
あと藤原がハゲている本当の理由なんですけど、あれ実は原作ネタのパロディではないんですよね。本当はただ「チカっとチカ千花っ▽」の人気が悔しくてハゲにしたっていうのが真相で……。だからもし次があったら、そのときは（第３期第５話特殊EDで人気になった）白銀君がハゲになります（笑）。
杉本：ほかにもたくさんあったけど、思い出しきれないしここで伝えきれないですね。
何度も第３期ED映像を視聴していた担当ライターも、話を伺った後に見返して「うわ、本当にケチャップの容器が映ってる。全然気づかなかった」と呟いたほど、TVアニメ「かぐや様」第３期ED映像には小ネタが満載。見落としはないと思っているファンの方がいるなら、ぜひ上の対談を参考にもう一度第３期EDアニメーションを見返してみよう。きっと「こんなネタが！」と驚かされること請け合いだ。
※▽は、正式にはヌキのハート
(C)赤坂アカ／集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会
「かぐや様は告らせたい」原作漫画
