「企業の多様性を高めることは単に公平性の問題にとどまらない。それは成長と革新を推し進めることでもある」
今月7日、EU(=欧州連合)は上場企業に対して、女性を一定以上の割合で取締役に登用するよう事実上義務付けることで大筋合意した。2012年の提案から10年を経ての導入となる。
具体的には、2026年6月末までに社外取締役の40%以上、またはすべての取締役の33%以上が少数派の性別で占められるようにするとしている。また基準を達成できなかった企業には理由や対策の報告が求められ、十分な説明ができない場合、罰則の対象になりうるという。
法案導入の背景にはEU内で取り組みが進む「ジェンダー平等」の動きがあった。「ジェンダー平等指数」によると、2019年の時点で取締役会の性別比率について規則を導入している加盟国はフランス、イタリアなど6カ国にとどまっていた。これらの国では2010年に10%程度だった取締役会の女性比率が、約8年で40%近くまで上昇している。
その一方、規則を導入していない加盟国では約10年で、比率が1.5ポイントしか上がっておらず、加盟国の間で比率に大きな開きがあった。法案の導入はこうした差を縮めることにも期待が持たれている。
こうした中、ロイター通信は今回の法案について「野心的な内容ではない」と報道。その理由に「取締役会とは別に執行機関がある国々では、男女格差が放置されかねない」「『すべての取締役で33%』という数字は、フランスなどが既に導入している40%よりも低い」といった点を挙げ、「慢性的な女性比率の低さに対処できるかと言うと、踏み込み不足の感が否めない」としている。
格差是正のために少数派にポストを割り当てるクオーター制に、ネットでは「政治・行政分野と違い企業に義務付ける意味はなんだろう」「これって別の意味での性差別では?能力の評価は?」と疑問視する声も上がっていた。
これまでも「女性の雇用率上昇」「男女間の賃金格差解消」など創設時から「ジェンダー平等」を目標に掲げ、その実現に取り組んできたEU。今回の法案導入はその新たな転換点といえるかもしれない。法案は理事会などの正式な承認を経て今年9月にも成立する見通しだという。
どんどん進んでいる印象のEU。こうした動きをどうみているのか、『ABEMAヒルズ』はニュース解説YouTuberで「The HEADLINE」編集長の石田健氏に話を聞いた。
「やっぱり気になるのが、なぜこれをやるのかということ。当然、いろんな議論がされている。大きく2つあって1つが、企業の成長に役立つ、経済的に意味があるからだという考え方。あとは、成長しようがしまいが理念的に重要だからやるといった2つ。確かに両方とも事実として一定である。まず、成長するかしないかでいうとある程度、女性登用の割合が高い企業のパフォーマンスが高いとデータとして出ている。ただ、これにはツッコミどころもあって、『すでに成長しているから女性登用ができるのではないか』という話もあったりするので、因果関係か相関関係かはわからないけど、少なくとも前向きな取り組みであるのは事実。
もう一つ、理念的なところで言うと、ここにも論点があるが、例えば女性の割合を増やすことによって、女性のニーズとか選好(Preference)を吸い上げられる会社になる。そして、女性がトップにいることによって、キャリアとしてもそこを目指す実感を持てる。最後に、トップというのはそのグループを代表しているので、ジェンダーとか人種といったものをある程度反映させていないと、適切に代表しているという理念に反していることになる。こういうような理念をもとで今回のルールが決められている」
では、日本はどう進めていけば変わるのか。石田氏は次のように見解を述べた。
「わかりやすいのは政治だと思う。我々の社会を代表しているグループ(場所)である。この領域において、アグレッシブなクオーター制だったりをやっていくのはメッセージとして強いので、こういうところを試していくのが一つ。反論も含めてやることが必要だと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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