日本語に加え、英語、中国語を交えて話をしているのは、帰国子女の石田翔太さん(大学2年生)。親の仕事の関係で幼少期から韓国、中国、台湾と日本を行き来し、合計12年にわたる海外生活が落ち着いたのは高校1年のときだった。
「事前に情報が伝わっていたようで、“海外に12年行っていたやつがくるぞ”と。でも教室に入って来たら僕がイメージと違ったらしく…」。
そんな石田さんを待ち受けていたのが“言葉の壁”。英語だけは学年トップの成績を収めたが、日本語の読解力が必要となる科目はほぼ赤点だったと振り返る。
それだけではない。得意科目の英語の授業中に積極性を発揮すると、クラスメイトから「イキんなよ」との言葉を掛けられてしまう。さらに入部したサッカー部でも、価値観の違いから他の生徒と衝突、退部を余儀なくされた。
会話の端々に出る英語に対する“英語イキり”という揶揄。頼れるのは教師しかおらず、「それからの高校時代はずっと部屋に籠りがちで。海外に住んでいたこと、帰国子女であることを自分の仲で全否定していた」。
2年生からは別の学校に転入、帰国子女と留学生が中心のクラスだったため、ようやく安心できたという石田さん。大学入学後は、帰国子女に加えて、国際交流に関心を持つ学生が集まるサークルを作り、“居場所づくり”を続けている。
「やっぱり日本は“区別社会”だし、それこそトイレに行くのも一緒、みたいに、集団で生きて行かないとダメ。海外で教育を受けてきた僕からすると、もっと主体性、個人、individualityが大切だと思う」。
■「みんなのイメージに合う自分ではなかった」
「8年間の海外経験というみんなのイメージに合う自分ではなかったので、あえて言わなくてもいいかなという感じだった。逆に言うと、言い訳をはじめなきゃいけなくなりそうだから」。
8歳までアメリカで暮らしていたAさん(30代)は、日本人の中にある“帰国子女”のイメージに悩みながら生きてきた。Aさんの場合、クラスメイトも教師も日本人の学校に通っていたため、英語が堪能というわけではなかったからだ。
「友人のお母さんが、私が英語が喋れないと分かると“じゃあハズレの帰国子女なのね”と」。周囲の期待に応えられない悔しさをバネに猛勉強し、大学は国際系の学部に進学。ところが、周囲からは浮いた存在になってしまったという。「“純ジャパ”といわれる人たちからは“まあ違うでしょ”みたいに見られて距離を置かれてしまった」。
■「嫌味っぽく受け取られてしまうのではないかと…」
小学1年~4年までドイツで暮らしていた瀬戸麻希さん(32)もまた、日本社会の生きづらさを感じて来た。
「“ドイツから帰国”と聞くと、お金持ちっぽいイメージを持たれがちで、説明するだけで嫌味っぽく受け取られてしまうのではないかと気にして、自分からは絶対に言えなかった」。
言葉の壁に苦労しただけでなく、クラス全員から無視されたり、靴の中に画鋲を入れられたり、男子児童からは暴力を振るわれるなどのいじめを受け、中学入学までは友達ができなかったと明かす。
「ドイツでは個人の主体性や発言を大事にする教育をするので、集団を重んじる教育の中では“村八分”のような感じになってしまう。それは職場でも同じで、“思ったことを言ってしまう”というのは、場の空気を読み、和を重んずる雰囲気の中では協調性が無いと思われてしまう」。
職場にも馴染めなかったという瀬戸さんだが、弁理士資格を取得、今は特許事務所を経営している。「起業してみたら、これがすごく合っていたようで、今はとても順調だ。ドイツでの教育も活きていると感じている。周りに馴染めなくても無理に合わせる必要はないし、生きやすい居場所は必ずどこかにあると思う」。
■「特徴があればあるほどいじめられる日本社会」
3人の話を聞いたウツワ代表のハヤカワ五味氏が「日本には“英語コンプレックス”がある人も多いし、“勉強が出来るヤツ、キモい”みたいなカルチャーもある」と指摘すると、フリーアナウンサーの宇垣美里氏は「“あるある”だなと思う。私も中学生の頃は“ガリ勉”と呼ばれていたが、みんな勉強ができる高校に行ったら、休み時間に教科書を開いても誰も笑わない。やっと息ができる、という感じがした」と明かした。
するとアメリカ出身のパックンは「日本の学校には良いところもいっぱいあるが、陰湿なところが嫌いだ。帰国子女というだけではなくて、背が高いとか、綺麗だとか、親が金持ちだとか、何か特徴があればあるほどいじめられる対象になるのが日本社会だと思う」と応じた。
通信制高校の「N高」「S高」の運営にも携わる近畿大学情報学研究所の夏野剛所長は「大学入試で言えば、帰国子女として対象になるのは帰国して2年以内だ。つまり2年経てしまえば過去は関係ない。統計上も帰国子女は増えてきていると思うし、別に特別な存在だと思う必要はない。それでも日本の学校は本当に同調圧力が強いし、授業も暗記と機械的な計算のようなフォーマットが中心、ディスカッションのようなものはほとんどない。この画一的な教育をどうするのかというが、これからの問題になってくると思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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