将棋界の“貴族”と呼ばれる男は、もしかすると“魔族”でもあるのだろうか。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Dリーグ第2試合、チーム天彦とチーム稲葉の対戦が6月25日に放送された。チーム天彦がスコア5-2で勝利したが第1局、第2局と連勝し、試合の流れを呼び込んだのが佐藤天彦九段(34)。積極的な攻めに、持ち味である受けのバランスが絶妙で2局とも快勝となったが、特に第2局に見せた終盤の一手には、周囲の棋士から「何かマジックを食らった」「魔術を使われた」と評されるほど、絶妙なものだった。
第2局は佐藤九段と、チーム稲葉の出口若武六段(27)の対戦。名人3期の実績を持つ実力者と、関西の若手ホープという注目の一局だった。戦型は相掛かりで始まった。じっくりとした出だしと思われたところ、出口六段からの仕掛けから激化。これを後手の佐藤九段がどう受け止めるかという展開になったが、受けるにしても手の選択が悩ましい中、どんどんと残り時間が減っていた。
解説を務めていた井出隼平五段(31)も「もう時間がない!手が見えない!」と降参寸前だったところ、佐藤九段の指が駒台に伸びた。つかんだのは銀。△4七銀として、出口六段の攻め駒である飛車にプレッシャーをかけた。この手を見た瞬間、井出五段は「これは先手よしになった気がする」と評したが、この時はまだその後の展開を、誰も予想できていなかった。
瞬間的には出口六段の攻めの威力を弱めるために打たれたと思われた銀だったが、その後に不成のままどんどんと出口玉に近づき、短い時間で最前線へ。攻防の中で佐藤玉も堅さを増すと、一気に形勢は佐藤九段に傾いた。一連の指し手に井出五段は「あれー。先手は何も悪い手を指していない気がします。何かマジックを食らった気がします」と脱帽すると、稲葉陽八段(33)も「なんか魔術を使われたね」とポツリ。ファンからも「ピコマジック」「これは名人の器」「天彦様さすが~」と驚きと戸惑いの声が集まった。
なお、この対局は魔術によってペースを掴んだ佐藤九段が116手で勝利。予選では無傷の5連勝を飾る会心譜となった。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)