千葉県・八街市。東京から車で1時間ほどの場所にある馬事学院(通称・バジガク)は、騎手や牧場スタッフ、厩舎の厩務員といった、馬産業に関わる人材の育成を行う学校だ。
馬が生活する馬房の清掃や、馬のメンテナンス。蹄鉄と呼ばれる器具の装着など、学生たちは馬に関わるありとあらゆることを学ぶ。馬事学院代表の野口佳槻さんは、自身も講師として馬場に立ち、指導を行っている。
「若い子たちが一番成長していく中で『やったらできた』という喜びを、こういうレッスンの中で伴ってくれればいいかなと」
そしてこの学校には、もうひとつの顔がある。それは、馬たちの“セカンドキャリア”の支援だ。この学校で飼育されているサラブレッドの多くは、かつて「競走馬」としてターフを駆け抜けていた。
「(練習している馬は)競走馬として役目を終えて、引退馬としてここに入ってきて、乗馬のイロハを勉強していく。やがて馬術大会にも出場することができます」
現在は140頭のサラブレッドがこの学校で生活し、“生きた教材”として学生たちに馬のイロハを教える。この地にやってくる馬たちもさまざまで、中には有名馬の産駒もいるという。
「こういう有名な馬たちを扱うことができるというのは、学生たちもモチベーション上がってくることだと思いますし、のんびりできるような環境に心がけています」
馬事学院では、彼らが「乗馬用の馬」として活躍できるよう育成。その後、乗馬クラブなどに譲渡・売却することもあるという。これまで数多くのドラマを生んできた日本競馬。華々しい名馬たちの活躍の一方、引退馬のその後が課題に――。
去年、競走馬の登録を抹消された馬は約5000頭(中央競馬)。そのうち、種牡馬や繁殖馬になれるのは、ほんの一握り。「経済動物」として“走ること”を宿命付けられた多くの馬は平均25年の寿命を全うすることなく、その生涯に幕を下ろす……。
「3歳の秋までに勝てないとなると、引退に追い込まれてしまう馬たちはたくさんいると思います。乗馬クラブに馬を預けたりとか、また牧場に馬を預けたりとなると、最低でも(月に)10万~15万。中には20万近くかかるという現状があるんですね」
この学校にも、「死」の一歩手前でやってきた馬がいた。
「肥育場というか、馬がお肉になってしまう、待機する場所で過ごしていた馬。そういう馬たちを一頭でもなんとか乗馬の世界につなげてあげようという取り組みで、支援者の人に救われた馬なんです」
サラブレッドたちに一頭でも多く「幸せな余生を送らせてあげたい」。そんな思いから野口さんは、2021年の12月に引退馬の支援団体「Retouch(リタッチ)」と共に、馬の養老施設「引退馬の森」を立ち上げた。
「競馬の役目を終えた馬たちが、預託され気軽に東京から会える場所だったり、身近に出会いに行こうかと見られる環境の中で、こうした引退馬の森という役目が果たせるのかなと思っております」
2万坪という広大な敷地と大自然が特徴の引退馬の森。オーナーは、約8万円から馬を預託することでき、現在は8頭がこの地で余生を過ごしている。
「引退馬の森の中で、学生たちも馬の取り扱い、年齢がいった養老馬の取り扱いであったり、学生もすごく勉強させて頂いてる一方で、学校からの負担というのもありますので、オーナーさんが預けている預託費用というのは軽減して管理させていただいております」
去年も競走馬は約7000頭が生産されている。JRA(=日本中央競馬会)も、引退馬支援のための取り組みを進める中、野口さんはこの場所がひとつのモデルケースになればと期待を寄せている。
「いろいろな組織の方も動いてくれているのは重々分かるんですけど、本当に馬を継続して維持していくためにはまだまだ足りないと私は思います。とにかく全国にこういう受け入れ施設を増やしてあげることが、馬たちの過ごす活躍できる場でもあると思うので、日本の中でそういう施設が広がっていってほしいと思います」
(『ABEMAヒルズ』より)
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