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■経験と実績を積み上げてようやく掴んだA代表

 フレッシュなメンバー構成になったEAFF E-1サッカー選手権のメンバーで、32歳にして代表初招集となった選手がいる。横浜F・マリノスの水沼宏太だ。

 現在、J1リーグの首位を走るチームで右サイドの主翼を担う水沼は4得点6アシストを記録。高精度の右足クロスは欧州組を中心とした、A代表のフルメンバーにも見当たらない武器だ。そして正確なキックはCKや間接的なFKでも威力を発揮する。狙った場所に寸分違わず送り届けるボールは、高さ自慢のターゲットマンはもちろん、スピードを生かしてゴール前のスペースに飛び込むタイプの選手にも得点チャンスを供給する。

 そうした水沼のもう1つの特長が、常に前向きで明るいキャラクターだ。元日本代表FWで、現在はサッカー解説者の貴史氏を父に持つ水沼はアンダーカテゴリーから代表ユニフォームを身にまとい、2007年のU−17W杯ではキャプテンとしてチームを引っ張った。しかし、2012年に惜しくもロンドン五輪の本大会メンバーを逃すと、そこから今回の選出まで日の丸に縁はなかった。

 ただ、クラブレベルで言えばアカデミーから昇格した横浜FMでプロをスタートさせ、そこから期限付き移籍で加入した栃木SC、サガン鳥栖FC東京セレッソ大阪、そして横浜FMと、すでに公式戦の出場記録は450試合を超える。パフォーマンス的にも大きな波もなく着実に、経験と実績を積み上げて、ようやく掴んだA代表とも言える。

「サッカー選手である以上、目指してきた場所なので初めて選出されてすごく嬉しく思います。でも、自分が目指してきたところはこれで終わりでなく、これがスタートラインだと思ってやっていきたい。ここに来たからどうとかじゃなくて、とにかく上を目指して、高みを目指して常にやっています」

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■関わった仲間やファンサポーターの思いを胸に

 年齢に言い訳することなく、まだまだ高みを目指していくことを主張する水沼だが、チームの中では「初めてこのチームに入ったので、自分がまとめる立場ではないかもしれない」と前置きしながら「自分のいいところは、いろいろな選手とコミュニケーションをたくさん取れるところ。年長者らしく、みんなとたくさんコミュニケーションを取っていきたい」と語る。

「プロ生活でキャリアを積み重ねるにあたって、たくさんの人に出会うことができて、恵まれたサッカー人生だなと思っています。プレースタイル、武器はもちろんありますが、それ以上にチームのために戦うことが、自分が生きていくポイント」

 そんな水沼を象徴するシーンがE-1選出後に行われた週末のJリーグ、古巣・鳥栖との試合であった。白熱の試合は2−2の引き分けに終わったが、水沼が鳥栖のスタンドに挨拶に行くと、盛大な拍手で迎えられたのだ。

「本当にたくさんの人たちに喜んでもらって、頑張れよ!と後押ししてもらえた」

 そう振り返る水沼は移籍を重ねて横浜FMに戻り、ここまで来たキャリアを「本当に仲間に恵まれたサッカー人生」と思いながら、感謝の気持ちを持って取り組んでいるという。つまり彼がキャリアを重ねていくことは、関わった仲間やファンサポーターの思いを自分自身に取り込んでいくプロセスでもある。

「この代表に合流する前に、育ててもらった鳥栖のホームスタジアムで、横浜FMの選手として戦って、ここに来られたというのは間違いなくパワーになっています。いろいろ感慨深いところはありましたけど、気を引き締めて、また今日からやっていきたい」

 水沼宏太の代表招集というのは、これまで彼をいろいろな立場で見守ってきた多くの人にとって感慨深いものであるはずだ。しかし「これがスタートラインだと思ってやっていきたい」と語るように、ここからさらに成長曲線を描いていけるか。このE-1で日本を優勝に導くことができれば、カタールW杯に向けたフルメンバーに食い込んでいくチャンスも十分にある。

 しかし、何よりもひたむきに、前向きにフィールドを走る32歳の情熱が観る者に勇気や元気、希望を与えてくれるだろう。

文/河治良幸
写真/浦正弘 

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