日本を7大会連続のワールドカップに導いたMF三笘薫が、キリンチャレンジカップでも大きな輝きを放っている。10日のガーナ戦、日本と同じくカタールW杯に出場をするアフリカの強国を相手に、左ウィングに入った三笘は得意の緩急をつけた切れ味鋭いドリブルを何度も仕掛けてチャンスを量産した。

 1-1で迎えた前半アディショナルタイムには、左サイドでDF伊藤洋輝の折り返しを受けて前を向く。相手がドリブルを警戒して間合いが広がっているのを見逃さず、シンプルに右足インフロントでゴールに向かうクロスを供給した。このボールに飛び込んだMF堂安律とFW上田綺世は合わせられなかったが、コントロールされたボールはワンバウンドで右のサイドネットに吸い込まれ、チームに決勝弾をもたらした。

 さらに75分には左サイドでボールを受けると、対峙したDFを急加速で抜き去る。ゴール前のスペースに入り込んだ久保建英の動きを見ながら、カバーに入ったもう1人のDFよりも一瞬早く右足アウトフロントでマイナスの折り返しを入れて、久保の代表初ゴールをお膳立てした。

 何度も2万5千人の観客を沸かせ、1ゴール1アシストと結果も出して試合の主役となった三笘。そんな彼のドリブルの本質を知る出来事がガーナ戦の前にあった。

■寡黙な超負けず嫌いが自主トレで磨いた究極の1対1

 ブラジル戦翌日の全体練習が終わると三笘は、川崎フロンターレでチームメイトだった山根視来と1対1でさらに汗を流した。その様子を見た記者から「どういう思いでやっていたのか」と問われると、「日頃のルーティーンとしてやっていました。山根選手とはフロンターレの時もよくやっていたので、久しぶりにやろうという話になっただけですね」と答えた。

 この言葉を聞いて、ふと脳裏に浮かんだシーンがあった。それは筑波大時代に全体練習後に黙々と行っていた1対1の自主トレーニングだ。全体練習では局面を意識してスピードを発揮するタイミング、シンプルにボールを繋ぐタイミングを意識。本番の試合を想定した、チーム全体の動きをイメージするトレーニングが多い。

 そして1日の締めくくりとして、三笘の最大の武器である1対1の自主トレーニングが始まる。『寡黙な超負けず嫌い』である三笘は、自主トレーニングでも手を抜かない。うちに秘めた熱をたぎらせ、何度も1対1を挑む。

 筑波大時代は同い年のCB山川哲史と1対1をずっとやっていた。やり方は至ってシンプルで、お互いのパス交換から、三笘がドリブルを仕掛けて、山川が止める。自主トレーニングながらも、彼らの間で醸し出される空気はいつも張り詰めたものだった。

 相手の間合いにならないように気を配りながら、三笘は急加速するタイミングを探り、山川は三笘の特徴を出させまいと構える。一瞬の睨み合いのなかで無数の駆け引きが行われ、そこから激しいアクションで2人が交錯。ハイレベルなバトルが繰り広げられていた。

 思考、癖、長所、短所などお互いの手の内を知り尽くしている上で戦わなければいけない。だからこそどう抜くか。そのための『思考』こそが一番重要だと筆者は考える。三笘の1対1の自主トレは、まさに思考を徹底して磨き、その思考を身体操作に反映させる作業だった。

「ただドリブルがうまいだけではダメ。ドリブルに破壊力が伴っていないとフロンターレでは活躍できませんし、その先の世界にも行けません。とにかく個のレベルを上げないといけないし、自分で勝負を決めてしまうことができる選手にならないと、トップにはなれない。最終的には個の打開力が『戦術』になると思っています」

 当時の三笘はドリブルを磨く意義についてこう語っていた。しっかりと自分の将来像を見つめ、そのために必要な努力を積み重ねていった。

■「課題」を見つけたブラジル戦。「進化」したガーナ戦

 1対1への強いこだわりと自信をもつ三笘だが、6日のブラジル戦では、世界の壁を痛感した。約20分間プレーし、世界屈指のDFミリタンとマッチアップした。2回、1対1を挑む場面があったが、いずれも巧みなディフェンスで完璧に抑え込まれた。

「ミリタンは僕の最初の仕掛けを見て、2本目以降の立ち位置や体の向きを変えました。素早い対応力を痛感しました。僕もさらに上に行くための駆け引き、対応力をもっと磨かないといけないなと。世界レベルを肌で感じることができたのは大きいですが、差が大きいことも同時に感じたので、そこを詰めていかないと本大会は厳しいと感じました」

 ブラジルとの対戦はかなりの衝撃だったに違いない。だからこそ『鉄は熱いうちに打て』と言わんばかりに、山根との1対1に臨んでいたように映った。

 さらにガーナ戦では、新たな思考をプレーに表現していた。ドリブルにいくと見せかけて早い段階でクロスやパスを選択。ワンタッチプレーを織り交ぜながらペナルティーボックス内に果敢にアタックしていくことで、ドリブルを出すタイミングを相手に掴ませないようにしていた。そしてここぞという場面で急加速のドリブルを仕掛け、冒頭に触れた通り大車輪の活躍を見せた。経験が人を大きくする。今の三笘を見ているとまさにこの言葉が当てはまる。その裏には黙々と積み重ねてきた1対1がベースの1つとして大きな価値を生み出している。

「僕が目指している世界は、その選手の存在自体がチームの1つの戦術になること。それこそが、今後プロとして上に行くために絶対に必要なものです。試合で『こいつにボールを持たせたくないな』という雰囲気を出していきたいと思っています」

 大学時代に誓ったこの言葉に着実に近づいている。当然今の状況にも満足することはない『寡黙な超負けず嫌い』は、ひたすら自らの思い描く道をまっすぐに駆け抜けていく。

文/安藤隆人
写真/浦正弘