「今はちょっと落ち着いているんですが、分け目のところが少し薄いのと、両方の耳の上のところに手のひらくらいの大きさの“ハゲ”が…」。
うたうひよこさん(31)は、頭髪や体毛を繰り返し抜いてしまう「抜毛症」を患っている。きっかけは中学1年生のときのこと。「テスト中、“分かんないなあ…”と眉毛をコリコリすることに始まって、だんだん髪の毛のほうに移行していった」。
翌日に大切な予定があるとき。あるいは“あの時、ああすればよかった”といった後悔の念に駆られたとき。1本ずつ、それでも1時間、2時間と抜き続け、気付くと自分の周りが落ちた髪の毛だらけになっていたこともあるという。
「型にはめられた生活をしなければならない学生時代や、社会人になってからも転職などの大きなイベントがあると抜毛の量が増えた。抜いていると他に何も考えなくて済むような、無心になれる感覚がある。でも、気付くとまるでホラー映画のようになってる。こんなに?と、唖然とするし、片付けているときに虚しさも感じた」。
年間500人以上の患者を診察しているパークサイド日比谷クリニック院長の立川秀樹医師(精神科)は、原因の多くがストレスによるものだと説明する。「ただし慢性に入るとストレスとは関係なく髪を抜きたくなってしまう。これを強迫性障害とよぶが、自分でも不合理でバカバカしい行為だと分かっているのにやめられない」。
うたうひよこさんもまた、“自覚型”だという。それゆえ、自分自身にもどかしさも感じるようだ。「朝起きた時に“今日こそは絶対に抜かない”と心に決めていても、寝る前になると、“あれっ?やっぱり抜いてしまった…”と。変わりたい、治したいという気持ち、心配してくれている周りの人たちの優しい気持ちを裏切ってしまっているなと思う」。
一時は頭頂部の頭髪が失われてしまい、ウィッグを付けて生活をしていたときもあるというが、月に一度、認知行動療法の専門家のカウンセリングを受け、症状の改善の兆しも見えてきたという。
「手に握れる物を持つようにするとか、帽子を被るようにするとか、対症療法は無数にあって、抜毛症の方はみんなそういうものを試している。私もこの半年ぐらいは落ち着いているが、それでも必ず抜いている。私はこの先も、髪を抜きたいという衝動を抱えながら生きていくんだろうなと思っている。それでも心の平静を保ったり、不安な時にどう対処するのか。そのことを考えて生活できていることは大きいと思う」。
■中学受験のストレスで発症してしまう小学生も
国内に350万人いるとされ、およそ7割が10〜20代で、そのほとんどが女性だといわれている抜毛症。
うたうひよこさんの話を聞いたタレントの池澤あやかは「私も受験勉強をしながら眉毛を抜いていた記憶がある」、田村淳は「テレビを見ながらほっぺたの毛(髭)を無意識に抜いているときがある」とコメント。慶応義塾大学の若新雄純・特任准教授は「髭を抜いている時間は本当に無心になれた。むしろ生えてくるのが楽しみになっていて、抜けた時にはスッキリ感、多幸感があった」と明かす。
前出の立川医師は「“癖”であればすぐにやめられるが、本人がバカバカしいとか、やめたほうがいいと分かっていてもやめられず、日常生活に支障が出始めると“疾患”として治療の対象になってくる。また、抜毛症の中には髭を抜く人もいるが、やはり圧倒的に頭髪が多い。それは髭に比べて簡単に抜けてしまうからだと思われる。また、痛みが生じるとドーパミンが出てくるので、この痛みも“達成感”として重要だ」と話す。
「なぜ抜毛が起こるか?ということにも関連するが、小学校中学年から中学生に発症するケースが多いのは、成績が上がらないとか、学校の友人関係が変えられないなど、自分でコントロールできないストレスに曝露される時期だからだ。それに対し、抜毛行為は努力に対して報酬が確約されているということが考えられる。高校受験の頃になれば自分の中でストレスへの対処法もわかってくるが、小学生はそうではない。臨床をやっていると小学校4年、5年が多いと感じるが、それも中学受験が増えてきたからではないか。
また、抜毛症が出やすいパターンとして“葛藤しやすい人”が挙げられる。社会に出ると、努力に対して報酬が見合わないと感じる機会が多いと思う。そこで“正義”を求めすぎてしまうことで病んでしまう。逆に考えると、“上司の都合だから”“人生こんなもん”などと思える人は抜毛症になりづらいとも言える。こうした点で、抜毛症は“現代病”とも言えるだろう」。(『ABEMA Prime』より)
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