教員の“定額働かせ放題” 長時間労働や人員不足を解決するには?休職者を支援する臨床心理士「教員資格や待遇、裁量を見直し、中途採用を増やして」
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 教員の長時間労働が問題となる中、26日、現役の教員らが4万以上の署名を集め、文部科学省で会見した。そこで訴えられていたのは1971年に制定された「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正についてだった。

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 給特法とは、公立学校の教員に月給の4%を上乗せして支払う代わりに時間外勤務手当、休日勤務手当つまり“残業代”を支払わないという規定。

 月給の4%とする根拠は1966年の残業時間が月に8時間程度だったことからついたもの。しかし、その基準となった時代から半世紀以上経ち、教員の労働時間は大きく変わっている。給特法は、残業代という金銭だけの問題ではなく、法律の存在そのものが長時間労働につながっている可能性も指摘されている。

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 2016年、文科省は教員の勤務実態調査を行い、小学校で約3割、中学校では約6割の教員が過労死ラインを超える月80時間以上の時間外労働をしていると発表した。

 一方、名古屋大学の内田良教授らは、教員らが自宅へ持ち帰った仕事時間などを含めた「総時間外勤務」を調査。すると、過労死ラインを超えている教員は小学校で59.8%、中学校で74.4%に上ったという。

 会見では、給特法によって残業が管理職の責任にならないことも問題視され、内田教授は「時間管理をする必要性がなくなったということで教育現場において時間管理の意識、時間意識を失っていった」と訴えた。

 こうした教員の働き方を放置することは、教員の成り手不足にも影響しているかもしれない。実際に、志望者数や採用倍率も低下傾向がみられる。

 今回の会見で発表された、教員志望の大学生への調査によると、「給料が正当でない、長時間労働を要求される好ましくない環境」「一言でいえばやりがい搾取」「労働環境、待遇の改善が見通せず、自分自身を殺すことに繋がりかねない」といった声が上がっていた。

 現役の教師だけでなく、教員志望の大学生も今尚改善しきれていない現状に不安が募るばかりだ。こうした教育現場を救うにはどうすればいいのか、会見に参加した内田良教授と臨床心理士・公認心理師で明星大学心理学部の藤井靖准教授に話を聞いた。

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Q.教員の方々はいまの労働環境についてどう感じているのでしょうか。

内田:部活動などで土日や夏休みも稼働したり、あるいはさまざまな事務作業で時間が潰れたりで(自分の)子どもと向き合う時間が減り、「自分はなんのために教師になったのか」といった葛藤に苦しむ先生がいる状況。

Q.普段から教職員の苦悩に触れる機会の多い藤井先生のところには、どのような声が上がっているのでしょうか。

藤井:長時間拘束されて、自分の時間を持てないのは非常に問題。ただ、一方で教育現場の改革に「給特法」が入りでいいのかという疑問もある。給特法については当事者の先生自身が知らないことがあったが、内田先生らの尽力によって現場でも知られるようになった。しかし、先生たちに話を聞くと「知ってるけど署名はしない」という声もそれなりに聞く。教員が私立公立合わせて約100万人いる中で、(署名した人数は)4万程度というのは全体からみると数が少なく、業界が一丸となれていないと思うが、その現状を内田先生はどう考えているのか伺いたい。

内田:あくまでもネット署名なので、それを知った人が投票しているだけだと思う。ただ、藤井先生がおっしゃっていることはその通りで、法律の問題は「お金や時間に関係なく働くのが教員だ」という教員文化と整合性がある。だから、「気にしない」という方がいて、ここが話をすごく難しくしているところ。

Q.もしかすると今の環境に満足している教員の方も中にはいるのかもしれない。その辺りの温度感の違いはどうなんでしょうか。

藤井:もちろん法律を変えた方がいいのは間違いないので、署名もした方がいいと思う。しかし、話を聞くと法律を変えるだけで自分たちの働く環境が変わる感じがしないという先生方もいて、僕も第三者的に複雑な教育現場の現状をみてそれはあるだろうなと思うところがあった。給特法が変わった時に、本当に長時間労働が改善するのか、それ以外の書類の仕事や調査・統計といった、本来教育の本質とは関係が薄い仕事が減るのか、といったらなかなか簡単ではないと思う。入り口の部分で現場の先生が賛同するような、例えば自分なりの裁量が備わった『やりたい教育』ができると思わせられるようなメッセージや発信、これからのムーブメントが必要な気がする。

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Q.教職員になりたいと思う人は少なくなってきているようですが、その理由はなぜだとお考えですか?

藤井:休職者が増えている、教員不足の問題など、給特法が関係しているかもしれないが、それが大きな要因かといったらそうじゃない部分もある。教員における休職者のメンタルヘルスの心理支援をこれまで行ってきているが、その中で休みやすい人や辞めてしまう人は入職3年目くらいまでの若手。それから中高年のベテランで介護やプライベートの問題が増えてキャパオーバーしてしまった、あるいはこれまでのやり方が通用しなくて不適応になってしまう先生。若い先生はリアリティショックというか、やりたい事がやれない現場だと認識して辞めてしまったとか、それが次の世代にも伝わってしまって教員不足になってしまう負のループが起きているように思う。なのでもう少し一定の裁量を与えて、自分のやりたいことができると思ってもらえるようにしないと難しい。

 一方で、今の環境でうまくやれている人もいる。でも、社会からの先生や教育に向けられる目も厳しかったり、保護者からの要求もあったりと求められるハードルもレベルが上がってきていると思う。なので、教員の資質とか『どういう人が教員になるべきか』をもう少し考えた方がいいと思う。

Q.教員に求められるレベルも高くなっている中で、人材確保に問題はあるのでしょうか。

内田:人は全く足りていない状況。一つの要因としては、法制度があって、時間管理あるいはコスト意識というのがなくなってしまった。どれだけ働かされても給料は変わらないといった中で、業務が次々と増えてきてしまった。なので、どれくらいのリソースが必要なのか、お金が必要なのかと土台から考えないといけない。そのためにも法律というのは大きく改変していく必要があると思う。

 また、調査してわかったことだが、教職の魅力は現役の方含めて多く人が感じていて、そしてやりがいもあるが長時間労働がしんどいと。なので負の部分を削っていくと(教員に)なりたいと思う人は増えていくと思う。

Q.では変えることは可能なのでしょうか。

内田:正直、簡単ではない。相当に蓄積したものを1、2年で変えられるものではない。タダ働きで回してきたものを予算があれば外部化することもできるが、予算もなく人もいないのでどう変えていくのかで教育界では答えがみつからないといったところ。財務省や政府にも向き合ってもらいたい。

Q.改革は厳しいということですが藤井先生はどうお考えですか?

藤井:お金のことで言うと、残業代は大事だけど現状よりは基本給を上げないと社会的には魅力的に映ってこないと思う。労働環境としてはそれなりに過酷で、求められているハードルも高いので、なかなか大卒・新卒ですぐに現場に適応して自己発揮できる人はそう多くはない。なので、もっと待遇を上げて、その分もう少し教員資格を見直したり、かつ中途採用などを増やすのも一案ではないか。社会人としての経験を活かしたり、権利を主張しながら仕事をしていける人が増えると、さまざまな独自で複雑なルールや文化・風土が創り上げられてきた現状においても、少しずつボトムアップで現場を変えていけるのではないかと思う。将来を見据え、時間をかけて法律を変えたり新たな制度設計をしていくことも大事だが、今いる子供たちを踏み台にするわけにはいかないので、より良い教育環境をどう整えていくかという喫緊の課題の解決策も同時に考えていく必要がある。

(『ABEMAヒルズ』より)

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