“自分はADHDだから”と語って心を守ろうとする若者たちも…木下優樹菜さんの“公表動画”が投げかけるもの
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 元タレントでYouTuberの木下優樹菜さんが今週、自身のYouTubeチャンネルで、ADHD(注意欠陥多動性障害)であることを告白。忘れ物をすることが多かったこと、他人をイライラさせてしまったことなどの原因が分かったことで、同じ障害を持った人たちへの配慮を呼びかけた。

【映像】ADHDの特徴や傾向は?求められる周りのサポート

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 ところが専門家からは木下さんが根拠として示した診断の方法に問題があるとの指摘も出ている。27日の『ABEMA Prime』に出演した「はたらく人・学生のメンタルクリニック」院長の西井重超医師(精神科)は次のように説明する。

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 「脳の前頭葉の問題、ノルアドレナリンやドーパミンといった神経伝達物質のバランスの問題など、様々な因子があるといわれていて、不注意、多動、衝動が出る。発達障害に分類される、生まれつきの疾患と言っていい。診断基準にはアメリカ精神医学会による『DSM-5』が用いられ、そこで示されている項目に当てはまるかどうかを確認してくことになるので、木下さんが紹介していたような、脳波の検査で分かるようなものではない。

 治療については脳のアドレナリンやドーパミンなどに作用する薬があるが、それによって100ある困りごとが0になるということは無い。極端なことを言えば、80、70ぐらいまでは減らせるかな、ということだ。まだ治らないからと次々に薬を出されるケースもあるが、そこから先は生活の工夫をしていくことで困りごとを減らしていく方が良い。その意味でも確定診断は受けられたほうがいいし、薬や行動療法、生活のヒントも医療機関でお伝えできる。

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 そうしたことも含めて、生活の中で困っている人が“私はADHDだったんだ”と分かるのは良いことだと思うし、啓発は大切だ。木下さんのように、忘れ物のような不注意、あるいはイライラしてケンカしてしまう衝動性というのは、一般的によく見られる症状だと言える。ただし検査のこともそうだし、TMSという間違った治療法を紹介したことについては精神科医として困ったことだ」。

 また、Twitter上には「ADHDを免罪符のように使わないでほしい」「もう少し理解を深めてから語ってほしい」といった批判の声もある。

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 西井医師は「社会が成熟して理解が進んでいけば、“そういう方もおられるよ”ということで寄り添い、対処ができるようになる。例えば10時に遊ぶ約束をするとき、9時半に待ち合わせをすることにして、9時55分に来られたら“良かったね”と。あるいは最近では板書をノートに取れない学生のためにレジュメを配るといった配慮をする大学も増えている。このように、ADHDの特徴を知ることで、一緒に生活がしやすくなる。

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 一方で、僕は患者さんに“ADHDそのものを免罪符にするのはあまり良くないよ”と伝えている。会社で“私はADHDだから仕事ができません、許してください”と言ってしまうと、やはり会社は困るわけだ。“こう対応しようではないか”と、お互いに歩み寄ろうとすることが大切だ。その意味で、“ADHDであることはギリギリまで伝えなくてもいいよ”とも言っている。忘れ物をするようであれば、前もって靴の上に置いておけば、出かける時に絶対に気がつく。そういう工夫を本人もしていくべきだと考えている」。

■“自分はADHDだから、自分はアスペだから”と語って心を守ろうとする若者も

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 実業家のハヤカワ五味氏は「私は医師に“ADHDだろう”と言われたが、診断は受けてはいない。投薬することはないということだったし、診断されたからといって何かが変わるわけでもないと考えたからだ。そういう経験から考えると、免罪符になってしまいがちなのは、病名を伝えていることにも原因があると思う。ADHDの知識がまだまだ浸透していないということもあって、お互いに“あれもこれもADHDだから…”というふうに範囲を広げてしまう。

 一方で、ADHDは個性と言われることも多いが、人によっては障害者手帳の交付を受けることもできる障害であるということを忘れない方がいいと思う。友人にもADHDの診断を受けて薬を飲んでいるが、そのことを言っていない人もいる。軽く捉えられがちだったり、ファッショナブルになりすぎている状況は違うと思う」とコメント。

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 パックンは「僕は本当に忘れっぽいし、おっちょこちょいだ。トイレのサンダルで仕事の現場に行ってしまったこともあるし、財布もよく落とす。この間も、羽田空港に迎えに来てと言われたのに、成田に行ってしまった。病院ではADHDではないと言われたが、こういう個性に合わせて自分の工夫と周りの支えが合わされば、社会は生きやすくなると思う」。

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 ライターの速水健朗氏も「僕の場合、あまりに切符を無くすので、初乗り運賃の分だけ買って、降りるときに精算するようにして生きてきた。若い人たちは薬などでの治療の必要を考えがちだが、そんな風に“自分はこういうタイプだから”と、時間をかけて生活を変えていくことも方法の一つだと思う」と明かした。

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 若者のメンタル支援を行うNPO「あなたのいばしょ」の大空幸星理事長は「ADHDもそうだし、アスペルガー症候群もそうだが、今の若者たちは完璧さを求められる社会を生き延びる、心を守るために自己診断を下し、“自分はADHDだから、自分はアスペだから”と語る傾向がある。

 やはり人間は集団生活によって生き残ってきた生物なので、そこから外れる可能性のある個体を本能的に遠ざけてしまう部分があると思う。しかしそれを乗り越えて社会を作ってきた歴史もあるわけで、個性として認めていく多様性こそが種の繁栄にもつながるんだよ、ということは子どもたちには言っていかないといけないと思っている。

 一方で、心がしんどいと思っても、確定診断書を出さないと休職させてくれない企業もある。ただ、LGBTQフレンドリーやSDGsのように、商売やマーケティングに使われることにも明確にノーと言っていかないと、本当にADHDで苦しんでいる人が声を上げにくくなってしまう。また、精神疾患を抱えている人は490万人と言われていて、予約が取れないクリニックもあるくらい逼迫している状況もある。とはいえ、流れ作業的に“ADHDだから。薬出しとくね”ということでは良くないと思う」と問題提起していた。(『ABEMA Prime』より)

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