「何回言われたらわかるの?」「やる気がないんだったら、もうやらなくていいから」。学校現場で教員から発せられる、子どもの心を傷つけかねない言動。
【映像】学校での不適切な指導「教室マルトリートメント」とは?
違法行為である体罰ほどは注目されていないものの、これを「教室マルトリートメント」と呼んで警鐘を鳴らすのが、公認心理師で東京都立矢口特別支援学校の主任教諭の川上康則氏だ。
「もともと“マルトリートメント”(maltreatment)というのは家庭における不適切な養育を指す言葉だ。大人と子どもという意味では学校も決して例外ではないということで、教室における不適切な指導を“教室マルトリートメント”と呼ぶことにした」。
後藤さん(仮名)は小学生時代、担任との1対1での居残り授業を受けた際、威圧的な言葉によって「自分はダメな存在なんだ、というトラウマが残った」と話す。「真面目に聞いてはいたが、何度説明されても分からなかった。すると黒板を叩きながら“こんなに言ってるのに、なんでわからないんだ”と言われ、夜6時ぐらいまで残された」。
川上氏はこうした言葉遣いを“毒語”という表現を用いて説明、教員への信頼を失わせる原因になっていると訴える。
「本来、学校は温かい場所であり、子どもたちが心地よい風で包まれるべき場所のはずだ。しかし子どもたちを早く動かしたい、といった焦りから言葉にトゲが出てしまう場合がある。そういう中で“何回やったら分かるの?”というような質問形式、“何やってんのと?”という問い詰めや脅しのような発言が出てくる。
さらには“やる気がないんだったらもうやらなくていい”と、裏を読ませるような言い方をすることもあるし、“さよなら、バイバイ”みたいな否定的なものもあるあるだろう。こういった言い方は昔からあったと思うし、私も指導を受ける中で聞いてきた。それが“モデル”になってしまっている部分もあると思う」。
一方、背景には過酷な環境で追い詰められていることがあるようだ。
中学校の教員歴15年の田中さん(仮名)は「指導困難校の場合、本気を見せるような姿勢が大事になるので、どうしても強い叱責が出てしまうことがある。特に他の子どもたちの学習機会を奪ってしまうような授業中の行動については“許せん”という気持ちから声を荒げてしまうこともある。強い言葉遣いじゃないと言うことを聞いてくれないこともあり、良くないなと思いながらも、仕方なく威圧してしまう」と明かす。
小学校教員の三上さん(仮名)も、時間に追われたり、同僚に迷惑をかけてはいけないプレッシャーから余裕を失ったりしたときに、教室マルトリートメントをしてしまうという。「例えば水泳の場合、安全面の問題もあるし、他の先生方の協力があって成り立つこともあって、つい出てしまう。もちろん、これではいけない、という思いもあるが、40人の学習権を守ろうとした時に、楽な方法を取ってしまう」。
NPO「あなたのいばしょ」の大空幸星理事長は「高校生の頃に自殺しようとしたことがあって、担任の先生が家に駆けつけてくれたおかげで思いとどまった。日頃からやさしい先生だった。ただ、そういうやさしさを求められている職業なのかと言えば、それは少し違うと思う」と話す。
「というのも、あれもダメ、これもダメと言われたり、お前らのせいだと言われたりする一方、死にたいという子どもからの相談を受けるなど、社会福祉の専門家みたいな仕事まで求められているのが今の先生たちだからだ。相談窓口をしている僕としては、自分の心を守りながら、できる範囲でやっていくということを是としてほしいと思う。誰かに頼るのは恥ずかしいことだとか、頼ったら負けだ、みたいなものが作り上げられていると思うが、まずは自分を大切にし、余裕の中でどれだけできるか、という職場環境を作っていくべきだ」。
川上氏も「教員には道徳やキャリア教育、プログラミングなども含め、本当にたくさんの仕事がある。もちろん、それらにプライドを持って取り組んでいる先生たちも多いが、あくまでも学校の中で、という思いが強く、外部に助けてもらうことが下手な部分がある。また、4月に全国的な担任不在が報じられたが、教員不足の問題も大きく、教師たちの“安全基地”の役割を果たせる人がいないという問題は大きい」とした上で、次のように訴えた。
「体罰やわいせつは違法行為であり、一発アウトだ。しかし心理的虐待やネグレクトに近い関わり方は、ずっとグレーのままだった。それだけに、“これはまずいな、この言葉で苦しめてしまうかもしれないな”と気付くことができるためには、何か用語を作ることが必要ではないかと考えた。
ただ、それによって線引きをすることが目的というわけではないし、“NGワード”を取り締まる“教室マルトリートメントポリス”を増やしたいわけでもない。教員同士で刺し合うような使い方もしてほしくない。あくまでも、背景に焦りや不安があること、常に隣り合わせにあることだと考えてほしいという思いだ」。
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