「ジャーナリストではなくミャンマー国軍や警察を批判すべき」 日本人拘束でまた噴出する“自己責任論”
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 ミャンマーのクーデターから1年半。実権を握る国軍が、1日が期限となっていた非常事態宣言を半年延長することを決定した。自由を求める民主派との衝突はまだ収まる気配がない。

【映像】日本人ジャーナリスト拘束で再び“自己責任論”が噴出

 そんな中、日本にも衝撃が。7月30日、日本人ジャーナリストの久保田徹さんが現地の治安当局に拘束された。最大都市ヤンゴンで国軍への抗議デモを撮影していたところ、現地の警察に拘束され取り調べを受けている。

 これまでもミャンマーに限らず、海外で日本人が拘束されニュースになることは度々あった。そして、その度に浮上するのが「自己責任論」だ。今回もTwitterには、「これは自己責任としか言い様がない」「こういう人達が伝えてくれるから世界を知れる」と様々な声があがる。

■“リスクがある地域の取材”のあり方は

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 久保田さんの拘束について、元ロイター通信記者でNGOヒューマン・ライツ・ウォッチの笠井哲平氏は「久保田さんと直接お会いする機会はなかったが、TwitterやFacebookで何度かやりとりをしていたので、非常にショックを受けた。ミャンマーで報道の自由や表現の自由は著しく弾圧されてきて、2021年2月1日の軍事クーデター以降、その弾圧はいっそう激しくなっている。デモを取材するということで、こういった危険が伴うということも同時に思った」と話す。

 クーデター以前はヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員もミャンマー国内にいたというが、「クーデター以降はさすがに、ヒューマン・ライツ・ウォッチという団体で働いているというだけで標的になる危険性が高いので、ミャンマーの調査員も国外に避難しつつ、ミャンマーとタイとの国境に行って、ミャンマーから逃げてきた難民の方たちの聞き取りなどを行っている」という。

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 では、今回も噴出する「自己責任論」はどう考えるべきか。まず元経産省のキャリア官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「自己責任だと思う」との立場から、「どの国でも邦人が危機に晒されれば日本政府は全力を尽くすが、そもそもとれる手段があまりないから“リスクがある”と渡航勧告をしている。そのリスクを承知で行ったことに対して、責任が他の人にあるというのは理論として無理がある。ただ、彼が自身の決断で行ってリスクを承知で危機に遭っているというのが事実で、他の人がどうこう言うことではないと思う」との見方を示す。

 笠井氏は「いわゆる軍事国家で反軍デモを取材するというのは、それなりの危険が伴う行為だとは思う」とした上で、「ここではっきりさせないといけないのは、久保田さんとデモに参加していた人たちは、報道の自由や表現の自由、結社の自由など、すごく基本的な権利を行使していただけであって、その権利を侵害したのはミャンマーの国軍や警察だ。これは被害者を責めるのではなくて、そういった権利を侵害している側を批判すべきだと思う」とコメント。

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「ヒューマン・ライツ・ウォッチも世界的に見ると大きなNGO団体だが、結局、組織となると、自分のところの社員や職員をこういった危険な所に送り込めない。組織的にはどうしても引いてくれという話になり、その分だけ僕らは今回の久保田さんのような人たちに相乗りして、リスクを彼らに押し付けて情報だけもらう構図になってしまうと思う。そういう意味では僕らも加担している側面があると思うが、笠井さんはこういった危険を伴う現場の取材について、大手のメディアやNGOを含めてどうあるべきだと思っているか?」と問題の背景を尋ねる。

 笠井氏は「そこは非常にグレーゾーン。ヒューマン・ライツ・ウォッチも戦場であるウクライナに調査員を派遣したりするが、ヒューマン・ライツ・ウォッチだから狙われるという地域に送ることと、戦場に送ることというのは微妙に違いが生じる。そういうものを見極めて派遣するかしないかを決めている」とした上で、「私たちを含めて大手メディアは、久保田さんを含むフリーランスのジャーナリストの方たちの勇気や報道に便乗しているのではないか、という見方はできると思う。そういった方たちのおかげで、現地で起きている人権侵害を世の中の人が知れるし、その情報をもとに日本政府に具体的にこういった政策をとってくれとか、ミャンマー国軍にこういった圧力をかけてくれという提言ができるのかなと思う」と答えた。

■プロと素人、組織と個人で“責任”に違い? できるサポートは?

 久保田さんの拘束が「自己責任だとは思わない」というプロデューサーの陳暁夏代氏は、「興味本位や旅行で行く人は自業自得だと思うが、彼はジャーナリストであって、職業として向かっている。プロと素人の違いは、知識があるかどうかや、対策をとっているかどうか。その上で行くのであれば職業だと思うし、対策しても防げない拘束といったことが起こった時に、国がどう対応するのか、組織としてどう動くかも問われてくるとは思う」との意見を述べる。

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 個人と組織の違いについて、テレビ朝日平石直之アナウンサーは組織の立場から、「テレビ朝日もウクライナに人員を派遣しているが、細かく情報を入れて、何かあったら避難しなさいと。バックアップがあるかないかというのは非常に大きい。金銭も情報もそうだ。常に連絡がとれる状態で、携帯を何個も持っている状態にする」と説明。

 安部氏は個人へのサポートとして、「例えば、事前にヒューマン・ライツ・ウォッチさんと私が関わるとなって、それぞれ100万円ずつ出し合って200万円で準備をしておくことで防げること、できることはあるのではないか」と疑問を呈する。

 これに笠井氏は「例えば、各社ウクライナで取材している人たちは、元軍人のセキュリティ会社などが同行して、“そこに地雷がありそうだから行ってはダメだ”とか“あっちはロシア兵がいっぱいいるから行ってはダメだ”というアドバイスを受けて現地取材をしていると思う。そういった防衛線を物理的に張るということはもちろん可能だが、フリーの方や小さい組織の記者の方たちは、資金的にリソースが限られていると思う。そういう方たちのリスクが高まるという現実は否めない」との見解を示した。

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 そうした中、歌手・モデルの當間ローズは「解放してくれというデモを日本でやっているが、日本も含めた国際社会の声はミャンマーの人たちに正しく届いているのか」と素朴な疑問を口にする。

 笠井氏は「日本国内で起きているミャンマー軍を批判するニュースや声明、そういった声というのは確実に届いていると思う。外務省の前で在日ミャンマー人の方や日本人の方たちが集まってデモをするということは非常に重要だ。デモ自体をニュースで取り上げると、一般の方たちにも認知されるし、外務省にとっても、これだけの人が久保田さんや現地で拘束されているミャンマーの人たちのことを思っているんだというふうに改めて知ってくれる。色んな意味で重要かなと思う」と答えた。(『ABEMA Prime』より)

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