ニュース番組『ABEMAヒルズ』でMCを務める徳永有美アナウンサーと、米・イェール大学助教授で経済学者の成田悠輔氏がスタジオを飛び出し、3回目のロケを敢行。今回は、成田氏の知り合いだという“ある人物”のもとを訪ねた。
成田「東大のコンピューターサイエンスと情報科学の先生をしながら同時に起業もして、自動運転車を作る業界で今乗りに乗っている『ティアフォー』というスタートアップの創業者」
2015年に設立し、自動運転のソフトウェア開発を手掛ける「ティアフォー」。創業者の加藤真平CTOへの取材で、日本の自動運転の現在地を探っていく。
加藤「色々な種類のレーザースキャナーがある。例えば、上にあるものは数百メートル届くのでかなり先まで見えるが、下にあるものは逆に近い距離を見る用。価格や画角、光の強さが違うので、用途に応じて取り付ける」
スキャナーで取得した、他の車や人などの周囲の情報をコンピューターで処理。その情報をもとに、進むか止まるか、曲がるかどうかの判断をAIが行っていく。
果たしてその実力はいかに――。成田氏がカメラを手に、今回特別に乗車の体験をした。
東京テレポート駅を出発地とする今回のルート。成田氏は初めての自動運転車体験に緊張しているのかと思いきや、特にリアクションもなく淡々と疑問をぶつける。
成田「この状態だと、人は一切何もしていない?」
加藤「何もやっていない。前の画面ではどうなるかがわかっていて、緑が『進む』という意味。どこかで止まるときは、赤や黄色になる。赤は『止まる』で、黄色は『だんだん減速する』といった感じ」
検証中のため、万が一に備えて補助的にハンドルに手を添えているが、アクセルやブレーキも含めて人間の介入は一切ない。
成田「乗り心地は、普通に人が運転しているタクシーに乗るのとあまり変わらない。道はどうやって認識している?」
加藤「人間と結構似ていて、すでに頭の中に地図がある。自分がいま地球上でどこを走っているのかはセンチメートルの精度でわかっているので、白線の中を走ろうとはしていない。“地球上でここを走ろうと思っている”という感じ」
徳永「本当に人が運転していない、ハンドルを握っていない、そしてアクセルとブレーキをコントロールしていないというのが信じられない。感動すら覚える」
そして約20分、複数車線で一般車両も走る中、無事に自動運転による1周のルートが終わった。
――自動運転に乗車してみて、いかがでしたか?
成田「思った以上にスムーズでびっくりした。僕は怖さも楽しむタイプなので全然怖くないけれど、ほとんどの人は自動運転というと『何か怖そう』『すぐに事故りそう』みたいなイメージを持ってる人がまだ多いかもしれない。こういう車にちょっと乗ってみて、目をつぶってブラインドテイスティングみたいに人間が運転している車と自動運転車で試したら、区別できない人がほとんどだと思う。もっとみんながそういう経験をするようになったら、自動運転に対する“よくわからない恐れ”も消えるのではないか」
そんな“よく分からない恐れ”を持っていた徳永アナは乗車中、次のように話していた。
徳永「最初にニュースを見たとき、(自動運転車に乗るのが)『怖いんじゃないか』と思い、乗ってみたかった。しかし、実際に乗ってみると、怖いという気持ちはほとんどない。寧ろ、ちゃんと守られている感じがして、不思議な信頼感がある。何なんでしょうね」
多くの人が気になる「安全性」、そして「日本の自動運転技術の将来」について、加藤氏に聞いた。
――成田:現状で、人間より自動運転車の方が安全ですか?比べることは難しいですか?
加藤「難しいが、まず絶対に完全上位互換ではない。人間の方が優れていることは多いが、ほぼ確実に自動運転車の方が優れているのは認識の正確さ。人間はこの(目の前の人との)距離ですら、『何メートル何センチ』ぐらいまでは言えない。自動運転車はそれが事細かにわかっていたり、人が何キロで歩いているかや対向車が何キロで迫ってきているかというのがわかっていたりするので、そこは確実に人間を超えている。ただ、(車を)止めていいのか行った方がいいのかみたいなアバウトな判断は自動運転車の方がまだ人間より劣っている」
より自動運転の精度を高めるために重要になるのが、AIの学習。テストと検証を繰り返し、データを蓄積することでイレギュラーなケースにも対応していくことができるようになるという。そのデータ収集で世界をリードしているのが、巨大IT企業が開発を進めるアメリカや、国を挙げてIoTの活用を推進している中国だ。圧倒的な人材や資金力を持つ大国に対し、ベンチャー企業であるティアフォーは別の作戦をとっていた。
――徳永:ティアフォーの強みは何ですか?
加藤「僕らはオープンソースといって、自分たちが開発した技術を基本的には一般公開している。誰でも使ってよくて、誰でも改造してよくて、誰でも新しい機能を入れていい。なので、自分たちで開発しなくてもいいという世界に持っていけているので、恐らくそこが一番強い」
――徳永:そういうことを隠したり、盗作されないようにしたりするという世界じゃないんですか?
加藤「本当に“よーい、ドン”で米・中・日本でソフトウェアの開発を始めたら、人材の数などで多分日本は負けてしまうと思う。なので、オープンにした方がそもそもそこで戦わなくて済む。競争じゃなくなるので、そうすると日本はもっと違うところに人材を使える」
――成田:今後の自動運転産業や企業はどこで一番お金を生むのでしょうか?
加藤「僕は検証だと思っている。例えば自動運転ができたとして、それが世の中に受け入れられるまでに3年かかるとすると、それまでにすごくお金がかかるし、テストもいっぱいしないといけない。テストをするときには事故のリスクも高まる。これが『1カ月でできる』となったら、そこにお金がかからなくなってきて、お客さんからしても『1カ月で納品できるのか』という形になる。一番お金に換えられるのは、いかに検証期間を短くするかというところ」
加藤氏は自動運転システムの完成品だけではなく、そこを目指す過程で生まれた技術やサービスでも「ビジネスとして勝負していける」と話す。そんな自動運転の話から、世の中の自動化全般へと話題は広がった。
――成田:カオスな街中で人間がやっていたものがどれぐらい自動化されてきたのかを考えると、意外にその速度が遅い感じがする。SFだとほとんどが無人化されていて、街中に人がいないみたいなイメージが描かれるが、この20年で無人化されたものは数えるほどしかないのではないかと思っている。駅員さんやレジの無人化くらいしかない気もする。ここから先は、どういうものであれば経済性を担保したまま無人化できる余地があると思う?
加藤「人手不足のところだと思う。東京では便利という意味では自動化がいくつか進むと思うが、成田さんのおっしゃるように『便利』というだけではそういうところにとどまってしまう。インフラを変えていくには、人手不足などそもそもの社会課題がないと需要がない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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