6月、鹿児島県のローカル紙「南日本新聞」が報じた『100万円のクロマグロを海に捨てるなんて…嘆く漁師』。
乱獲によって資源量が激減していることから国際自然保護連合が2014年に「絶滅危惧種」に指定、翌年には国際会議で国や地域ごとの漁獲枠も設けられたクロマグロ。市場では“本マグロ”と呼ばれる高級魚だが、日本においても都道府県が年度ごとに漁獲可能な量を定めており、鹿児島県でも上限に達してしまったことから、漁獲の停止を命じたのだ。
【映像】“死んだまま放流” 漁師の苦悩&資源保護にはまだ我慢?
23日の『ABEMA Prime』に出演、「島津斉彬公から漁場をもらって、私で6代目になる。この先、どうなるんだ」と話すのは、定置網漁を営む宮内一朗さん(南さつま市)だ。
「(クロマグロが)8本。しかも1本100kg弱。こういう大きなクロマグロが1匹でも入ることは珍しい」。百数十万円の収入が見込めたが、すでに許される上限に達してしまっていたため、海に戻さざるを得なかった。それは意図せず網にかかってしまった場合も同様だ。死んでしまう可能性が高いが、それでも戻さなければならないのだ。
「普通だったら、夜は祝宴だ。でも明くる日も、その次の日も、“クロマグロ、いてくれるな”と。そんなことを考えなければならない漁民はいないと思う。むなしいを通り越して、漁民を辞めようかと思った」。
宮内さんによると、地元の漁業協同組合の存続も危ぶまれているのだという。「長崎の五島列島の方にマグロを釣りに行って、生かして鹿児島や全国の水族館に餌付けをして運ぶようなことをしていた人も、TAC(漁獲可能量)制度が始まって漁民を辞めた。私なんかも、“お前たちが獲ったから鹿児島の枠がなくなった”と恨まれたりもするけど、漁民にも現実的なものがあるから」。
一方、現状について東京海洋大学の勝川俊雄准教授は「今まで獲り過ぎだった、それに尽きる」と話す。
「かつてクロマグロは日本の沿岸に豊富にいた。しかし卵を産めるサイズになる前のものも含めどんどん獲るうちに漁場が遠くに移っていき、最後は産卵場に集まってきたものを獲るしかない、というところまで来てしまった。結果、もともと卵を産む親の量が1%程にまで減ってしまっていた。それが絶滅危惧種に指定され、漁獲規制が開始された背景にある。
ただ、漁獲規制を導入したことで10%くらいまでは回復してきた。これを20%くらいまでは回復させようということになっている。クロマグロというのはたくさんの卵を産むので、資源回復のポテンシャルは高い。一時は産卵場や群れが見つからなかったが、それも見られるようになってきた。宮内さんの定置網に大きなものが入るようになったのも、漁獲規制の結果だと思う。ここで「増えた」「獲れた」と言って食べてしまうと逆戻りなので、しばらくは我慢して、ある程度の資源量が維持される状態に変えていかないといけない。
ただ、漁獲量をどういうふうに枠の中に抑えていくかという問題はこれからが本番だ。今の倍くらいまで増やすということは、網に勝手に入ってきてしまう魚の量も倍くらいになるということだ。青森の方では定置網に入ったものを生かしたまま逃がすための実証研究も行われているが、クロマグロは泳ぎ続けなければいけない魚で、体に傷が付いてしまうと弱ってしまう。定置網に入った時点でアウト、という個体もかなりの割合出てくるだろう」。
その上で勝川准教授は、宮内さんら日本の漁師の今後について、次のような見方を示した。
「日本は自国の漁獲を規制することに消極的で、本当の意味で規制をするのはクロマグロが初めてのケースだ。だから水産庁の方もすごく試行錯誤をしているし、思うようにならないこともいっぱいある。現場の方々も、せっかく獲れたのになんで逃がさないといけないのかと混乱するだろう。しかし漁業というのは魚がたくさんいなければ成り立たないし、獲れなくなるまで獲っていればやがては衰退することになる。
たとえば漁業管理の先進国であるノルウェーの場合、あるものを獲るのではなく、増えた分だけ獲るということをやっている。つまり銀行口座の利子を取っていくような感じで、魚の生産力が高くなる水準を超えた分を獲ることで持続可能にしている。だからノルウェーのサバは脂の乗ったものが安定供給できるし、漁師たちも豊かだ」。(『ABEMA Prime』より)
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