3Dの“デジタル生物標本”を無償で公開 生粋の現場主義者が「オープンサイエンス」を推進する目的
オンライン上に無償公開されている「3Dデジタル生物標本」
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 自身を「生粋のフィールドワーカー」と語る大学の特任准教授が推進する「3Dデジタル生物標本」。その作り方と”最終目標“を詳しく教えてもらった。

【映像】くるくると回転するハリセンボンを撮影する様子

 家の中に響くシャッター音。レンズの先には丸々とした体形で、体の表面に無数のトゲがあるフグの仲間「ハリセンボン」が吊るされている。これは一体何をしているのだろうか。撮影していた九州大学の鹿野雄一特任准教授に話を聞いた。

「対象物をナイロン糸で吊るして、それをゆっくり回転させます。自分自身も動きながらいろんな角度から500枚程度写真を撮影して、それをソフトウェアに流し込むと出来上がります」

 こうして完成したのが、ハリセンボンの「3Dデジタル生物標本」。「フォトグラメトリ」という手法を使って3Dモデル化されたハリセンボンを様々な角度から観察することができる。

「フォトグラメトリ自体は有名な手法で、いろんな分野、特にドローンを使った地形学とか景観学とかでよく使われています。ですが、意外と生物に関するフォトグラメトリは少ないのです。魚なんかは、どうしても撮影中に乾燥してしまい、ヒレが曲がったりしてしまいます。どうしても固定した形でいろんな角度から撮ることが必要なので、生物のフォトグラメトリはこれまであまりされていなかったんです」

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 可動部が多く、柔らかくて固定することが難しい魚類などは「フォトグラメトリ」による3Dモデルの作製は難しいとされていた。そこで、鹿野特任准教授は、対象物を空中に吊るして固定し、素早く短時間で撮影することで問題を解消した。

 鹿野特任准教授は、この手法を「バイオフォトグラメトリ」と銘打ち、約2年かけて水の中の生物を中心に、1400点700種以上を撮影。それらを「3Dデジタル生物標本」としてオンラインで公開した。一定の条件のもと、誰でも自由にダウンロードして利用できるという。

「私自身、オープンサイエンスに非常に興味を持っていまして、それがひとつのライフワークでもあります。あと、大学という、基本的には公益的な立場でこういったことを行った以上、やっぱり社会に還元することが重要かなと思いまして無料にしました」

 通常、貴重な生物標本は研究室や博物館に厳重に保管されていて、外部の人が気軽に閲覧することはできません。しかし、デジタル標本であればそれが可能になる。また「標本の劣化を防ぐ」という面からもデジタル化は重要だとしている。

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 デジタル化した標本の活用法としては、すでに「映画で使いたい」という問い合わせが来ているほか「教育現場での利用も考えられる」。と、鹿野特任准教授は期待を示した。

「環境教育と関連付けた『メタバース』とか『バーチャルリアリティ』に応用できるということを期待しています。ただ、これは自己矛盾になってしまうのですが、私自身は『メタバース』とか『バーチャルリアリティ』という言葉、ものすごく嫌いなんですよ。そのくせ何をやってるんだという感じですが笑」

 生粋のフィールドワーカーで、徹底した現場主義だという鹿野特任准教授。垂直断崖の動植物を調査中に落石にあったりスズメバチに襲われたり、毒蛇だらけの場所で蛇にかまれたりと何度も命を落としかけたそうだ。そんな危険な目に遭いながらも、フィールドの中にはそれらを超える魅力が存在すると強調します。

「現場の情報量って、メタバースとかバーチャルリアリティではとても表現できないんですよね。五感で感じるものがあって、それが自然であり生物の多様性だと思っております。子どもたちがこれをきっかけに現場とか自然に触れあってほしいというのが最終目的で、生物の3Dモデルを見て『こんな生き物がいるんだ。実物をみてみたい!』と思ってもらうのが私の最終目標です」

(『ABEMAヒルズ』より)

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