“ハードルが高い”と敬遠されがちな新書が手軽にイッキ読みできるというコンセプトで誕生した「100ページ新書」。講談社・現代新書の編集長が「リスク覚悟」と語りながらも“若い人へ間口を広げたい”理由を明かした。
【映像】「リスク覚悟でやる」100ページ新書を出版する講談社・現代新書編集長の思い
ビジネススキルやダイエット方法など、実用的な内容から歴史や時事問題まで幅広いジャンルを扱う「新書」。実はそのうち教養新書の売上金額は2021年には141億円と2011年の230億円から下降の一途をたどっている。もはや新書は”絶滅危惧種”なのだろうか。そんな中誕生したのが「100ページ新書」だ。
講談社・現代新書青木編集長「簡単に言うと『イッキ読みできる教養書』というコンセプトです。従来の新書は、平均でいうと薄いものでも200ページ、ちょっと厚いものになると300ページを超えて場合によっては400ページ以上の“レンガ本”と言われるほどでした」
講談社現代新書の青木編集長によると、100ページ新書とは、約250ページとされる新書のページ数を最大で128ページぐらいに減らすことで、読者が“イッキ読みできるようにした新書”のことだという。
Web動画やSNSなどのコンテンツ消費が増え、本を読む時間が少なくなっている現代社会で“若者への新書の入り口”として企画した「100ページ新書」。しかし、実際に出版するうえでは、100ページゆえの「文字制限」が課題となった。
青木編集長「(筆者が)『それ何も書けないじゃない』みたいな。従来の新書だとちょっと薄めのもので10万字ぐらいの文字数なのですが、100ページになると半分の5万字になります。5万字というと結構あっという間で、一生懸命書きたい著者にとっては『え!?もう?』という感覚になったと思います」
「『ハンナ・アレント』を書いていただいた先生とは4~5回ほど原稿のやりとりをしてしまい、最後には怒られるんじゃないかなと思うほどでした」
著者の協力もあり、ようやく完成した100ページ新書。一般的な新書よりページ数が少ないはずだが、見てみると薄さはあまり変わっていないようにも見える。
青木編集長「100ページ新書については、少し高いと感じられる方もいらっしゃると思うので、通常の新書よりちょっとだけ“ゴージャス”にしています。紙も通常より厚い紙を使っていて、僕らの世界では『束幅』とか『背幅』と呼ぶのですが、その束が倍ぐらいある本と比べても大きく差異がないようにしています」
ページ数を少なくした分、通常より厚い紙を使用し、値段の割高感をフォローしたという。9月13日の発売に向け、万全の準備を整えたもののSNS上では「100ページでは内容が乏しいのでは?」といった声も上がっている。こうした意見について、青木編集長は「内容は薄くない」と断言する。
青木編集長「厳しいご意見も大事だと思っているのですが、書いていただいた著者の名誉のためにもこれだけは申し上げたいのですが、内容は保証します。ページ数は薄いものを目指しましたが、内容も薄くしたわけではありません」
「新書は現在、50代60代の読み物になりつつあります。(狭い層)だけではなく、より若い人にも間口を広げたいと思っています。新書に馴染みがない方々にも『こんな世界があるんだよー!』ということをリスク覚悟でやっています」
ニュース番組『ABEMAヒルズ』に出演したコメンテーターのBuzzFeed Japan編集長・神庭亮介氏は、100ページ新書について「サッと情報を仕入れて役立てたい人が“本当の教養”に触れられるアイデアだと思う」と語る。
神庭氏「いまの時代、情報を仕入れるツールとしてYouTubeなどを見ている人は結構多い。ライターのレジーさんは、短時間で“ビジネスに役立つ教養”を吸収しようとするような風潮を『ファスト教養』と呼んでいます」
「たとえばネット掲示板でも、 “今北産業”といって『3行でざっくり要点を教えてくれ』という意味のスラングが昔から使われている。100ページ新書は、そういったファスト教養、今北産業的なものと“本当の教養”の間をブリッジするためのアイデアなのかなと思いました」
普段、ファスト教養的な情報を仕入れている人が“本当の教養”に触れられる橋渡しになるのでは。そう語る神庭氏は“100ページ新書のニーズ”について自身の考えを明かす。
神庭氏「ベストセラー本の多くは、普段本を手に取らないような人まで購入することで生まれる。ファスト教養を求める人のなかには、本で読むのは少しハードルが高いけど、YouTubeなら……という人も少なくないでしょう」
「限られた時間で血肉となる情報を仕入れたいという欲求は、もともと新書のニーズとして存在していたが、いまはそれがネットに食われている。『100ページなら読んでみようかな』と思ってもらえるのであれば、新書を普及させるひとつの機会になるかもしれない」
「本当の教養はいますぐ役立つというより、後からじわじわ効いてくるもの。そういう意味では本棚に積みっぱなしの『積ん読』も教養のうちだと思うが、出版社としてはそんな悠長なことは言っていられないのでしょう。新書のサバイブのため、あの手この手を考えているな、という印象を受けました」
(『ABEMAヒルズ』より)
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