「授業中ずっと寝てる」勉強きつくてドロップアウトした子へ…学びの場を提供する無料のICT教材
【映像】eboardを使った授業の様子
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 インターネット上で、誰もが無料で授業を受けられるサービスに注目が集まっている。学びを諦めない社会の実現を目指して活動するNPO法人「eboard」を取材した。 

【映像】eboardを使った授業の様子

「この建物、穴を掘るどころか地面より離れています。これは何のための建物でしょうか?」

 これは、ICT教材「eboard」を使ってオンラインで行われている社会の授業。ホームページでは、小学1年生から中学3年生までの国語や理科といった主要教科の授業を約2000本公開している。映像を見るだけでなく、デジタルドリルを使い問題を解くこともできる。その特徴は、誰もが“無料”で使えるということだ。

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「経済的な理由で塾に行けない、不登校でそもそも授業を受けていないような子どもたちでも0から学べるように」

 こう話すのは、サービスの開発・運営に携わるNPO法人「eboard」の中村孝一代表だ。かつて学習塾で働いていた経験を持つ中村さんは、現場で感じた”教育格差”をなくすため、2011年にインターネット上で自由に学べるこのサービスを立ち上げた。

「(子どもたちが)学校の授業に全然ついていけなくて『授業中ずっと寝てるよ』と言ったり、『もう自分なんて学べない』なんて口にして自分にはもう可能性がないと言ったりしているのがすごくもったいない。そこをどうにかしたいという思いでやってきた。これからの社会を考えたときに継続的にやっていくためには、オンラインで無料で気兼ねなく学べる場所があることが、子どもたちや先生方、多くの現場の方の支援になるんじゃないかということで立ち上げた」

 開始から約10年で550万人が利用してきたeboard。運営にかかる費用は、学習塾などがサービスを使う際の利用料や財団からの助成金、そして寄付で賄っている。

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 教材づくりで心がけたのは、勉強が苦手な子でも「わかりやすい」ということ。授業は平均7~8分と短く、小さい子どもでも集中力が持続できる時間に設定した。また、あえて講師の顔を出さないことによって、より授業の内容に集中できるようにした。

「黒板にカリカリ(書いて)、バーッと話しながら面白い話で進めていく授業が苦手な子が多かった。先生の話は聴覚で情報を受け取るが、それが難しい子もいる。そこで、講師の顔が出ないようにした。また、視覚で情報を受け取る子が多いので、イラストや画像をふんだんに使って、話し方もできるだけ授業というよりは説明を意識。近くのお兄ちゃんが教えてくれているぐらいの感じで伝えたい」

 また最近では、動画に字幕を付けることで聴覚に障害を抱える子どもも学びやすいように対応した。こうした取り組みが評価され、eboardは2021年にジャパンSDGsアワードで内閣官房長官賞を受賞している。そんなeboardが掲げる目標は「学びをあきらめない社会を実現する」。今後も“学びのセーフティーネット”として、サービスを運営していきたいとしている。

「優秀な子にはフィットするけど、別の子はそこに居ることがそもそも耐えられなかったり、うまく学べなかったりすることがたくさんある。ちょっとやり方を変えてあげるだけで、その子たちにヒットしたり学べるようになったりすることは大いにあるので、そこが少しでもICTオンラインで支援できるといいなと思っている」

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 このニュースについて、慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子氏に話を聞いた。

――中室さんはeboardの取り組みをどうご覧になりましたか?

「良いと思ったのは、不登校の子どもを支援できるところ。いま不登校の子どもが増加していて、小中学校ではここ5年で50%くらい増加している。そんな子どもたちのうち、実は80%以上が公的な支援を受けられていない。そうなると家庭任せになってしまう。家で子どもの面倒を見ようと思うと、両親の就労の機会が失われて経済的に困難になる。不登校の問題を家庭任せにしないことが大切」
 

――学校に行けなくて、eboardのような教材にもたどり着けない子もいるかもしれませんが、どういったところに希望を感じますか?

「いま自治体でオンラインで教育支援をやる動きがかなり出てきている。私はこれはすごくいいと思っていて、自治体も福祉や教育に関わる人の人手不足があるからオンラインで広域でサポートできるのはいい。オンラインであることに希望を感じる」

「高等学校には通信制の教育があるが、小中学校にもそれがあってもいいのではないかと思う。今のところ、法律では小中学校の通信制教育ができない仕組みになっているが、近々に検討していくべきだと思う。一方で、対面で学ぶことの価値が最も高くて、オンラインはそれに準ずるものだという考え方があるのでなかなか動かない。1人1人の子どもの認知特性に合わせた学び方がもっと広く受け入れられたらいい」

(『ABEMAヒルズ』より)

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