プロ麻雀リーグ「Mリーグ」の2年目にあたる2019-20シーズンに初優勝を果たしたU-NEXT Pirates。まさかその2年後にチームの半数、2人が入れ替えになると予想した人は、チーム関係者にもファンにもいなかったことだろう。2021-22シーズン、セミファイナルシリーズ6位に終わり、2年連続でファイナルシリーズを逃し、規定によりチームの構成変更を余儀なくされると、チーム創設メンバーだった朝倉康心、石橋伸洋（いずれも最高位戦）との契約を満了すると決めた。木下尚監督にしても断腸の思いだったろうが、取り乱さずに新たな航海に向かえるのは、絶対的リーダー小林剛（麻将連合）の存在があるからこそ。「キャプテンは小林さんだし、パイレーツは小林さんのチーム。感謝しかない」と、絶大なる信頼感とともに新シーズンを迎える。
【動画】キャプテン小林剛について語るU-NEXT Pirates・木下尚監督
2018年に行われたMリーグ初のドラフト会議。動画配信サービスを手掛けるU-NEXTということもあり、麻雀における「オカルト」「デジタル」という2つのワードがある中でデジタルに注目、プロ麻雀界における屈指のデジタル雀士を揃えることにした。その筆頭が「麻雀ロボ」とも呼ばれる小林だ。「（小林が）取れていなかったら、方向性が変わっていたと思います」というほど、チームにとっては象徴的な存在だ。2位指名はネット麻雀の雄・朝倉、3位指名は「黒いデジタル」の異名を持つ石橋。デジタル雀士3人によるチームは、初年度から優勝候補の筆頭とも言われた。結果、チームは5位に終わったが、2年目の2019-20シーズンに新戦力の瑞原明奈（最高位戦）が加わると、ぎりぎりで進出したファイナルで大逆転し、歓喜の初優勝を果たした。この時、最終戦の卓にいたのも小林だった。
優勝したシーズン以上に、小林の存在感が際立ったのは苦戦した直近の2年間だ。連覇を目指して戦った2020-21シーズン。小林を除く3選手の調子がどん底だった。結果、ファンからも「一日一剛」と呼ばれるように、試合がある日は毎回小林が出ざるを得ないような状況にもなり、木下監督も頭を悩ませた。「苦肉の策でした。選手個々に責任を感じている印象は、控室にいてもありましたね。僕の采配で勝ちに導ければよかったんですが」と、今でも結論は出ていない。
そして4年目。2年連続でファイナル進出を逃せば、チームの構成を変えなくてはいけないというルールがある中、レギュラーシーズンでは瑞原が大爆発。ついには個人MVPを勝ち取り、チームも1位でセミファイナルに進んだ。「これまで以上に選手とコミュニケーションを取ったシーズンです。いろいろな勉強をして、形になりました」と手応えは十分だった。ところがセミファイナルに進んだ後、これまでの好調がうそのように、結果がついてこない。瑞原が大ブレーキに陥ると、半分持ち越したプラスポイントはあっという間に消え、ついにはセミファイナル6位で敗退が決定。小林は最後まで気丈に戦い続けたが、他の選手たちには大粒の涙を流す姿も見られた。
ルールとしてチーム構成を変更しなければいけない以上、木下監督も決断をしなければいけない。チームカラー同様、成績をデジタルに見た。最低1人は変更しないといけない中、通算成績で大きくマイナスしていた石橋、さらに朝倉についてもマイナスポイントの大きさから契約満了を決めた。「今後、常勝チームを目指すなら安定した成績を残せる選手が必要」と、2022-23シーズンを前に行われたドラフト会議では、攻撃的な鈴木優（最高位戦）、オーソドックスな麻雀を打つ仲林圭（協会）の2人をチームに入れた。
これまでのデジタル路線から、大きく舵を切ることになったシン・パイレーツ。これまで応援してくれたファンの理解を得るため、またチームを離れた朝倉、石橋にも「強いパイレーツを見せたい」という思いは、木下監督の中でとても大きい。それだけに創設年から長い時間を共有しているキャプテン小林には、信頼という言葉では追いつかない思いがある。「キャプテンは小林さんだし、パイレーツは小林さんのチーム。引き続き小林さんとパイレーツをやっていきたい」とまで語った。麻雀自体は実にクールだが、卓を離れた場所で仲間を語る時には、とても温かい言葉を残すことでも知られるようになった小林。きっと木下監督の思いを汲み取り、新たな航海でもしっかりと行き先を示すことだろう。
（ABEMA／麻雀チャンネルより）
