築100年にも上る長屋や古民家が軒を連ねる墨田区・向島地域。住民の高齢化など徐々に活気が失われる中、アートを通じて街の新たな魅力を生み出そうと奮闘する男性を取材した。
東京スカイツリーのお膝元にあり、昔ながらの暖かさを残す、情緒あふれる下町「墨田区・向島地域」。商店街を行き交う人々に、路地に響く子どもたちの笑い声、職人が腕を振るう町工場。どこか懐かしさを感じさせるこの街の風景に豊かさを加えてきたのは、街の至る所に立ち並んだ築100年にも及ぶ長屋や古民家だ。
そんな昔ながらの建物の中にあったのは、外観からは想像もつかないアートの世界。古民家とアート……古さと新しさが調和する独特な空間が、訪れた人の好奇心を刺激する。
今年で3回目の開催となった体験型美術祭「すみだ向島EXPO」。国内外からさまざまなアーティストやクリエイターが参加し、古民家や長屋など、街の至る所に作品を展示している。アートを通じ、向島地域の新たな「まちのあり方」「みらいの選択肢」を増やそうという1カ月だ。
このエキスポの仕掛け人で、街の新たな魅力を生み出そうと奮闘する男性の活動にカメラが迫った。
東京墨田区の古民家の一室で作業を行う男性・後藤大輝さん。向島地域で空き家の再生・運営など、まちづくりに携わる事業を手がけている。
後藤さんがこの地へやってきたのは、15年前のこと。自主映画を撮影するロケ地を探していたところ、この街の魅力に惹かれて移住を決意した。
「東京23区なのに古くていい路地があって、そこにはモノづくりの人がたくさんいる。本当に“特別なバランスで残っている街”」
知り合いの職人に勧められて友人と共に長屋の修理を始めたところ、建物や街自体が持つ魅力により一層気づかされたという。
「建物や路地などには、100年前にこの街で暮らしていた人たちの営みのようなものがある。住めば住むだけこの街の魅力が深くわかってくる」
関東大震災、そして第二次世界大戦。2度の災禍を奇跡的に乗り越え、現代へと受け継がれてきた街の形。しかし、地域住民の高齢化や建物の老朽化、さらには道路の拡充といった都市開発も影響し、ここ10年で街には空き家や空き地が目立つようになった。
「象徴的だった長屋群30軒くらいが老朽化し、取り壊しが決まった。住んでいる人も『この街はどうなったらいいんだろう』とすごく揺れていた」
徐々に失われていく街の風景と人々の活気を目の当たりにしていた後藤さん。大好きな街を何とか盛り上げたいと方法を模索する中、活性化へのヒントとなったのは、意外にも“街の中”にあった。
「アーティスト自らがギャラリーを開いて、色々な企画を続ける」
実は、向島地域は数多くのアーティストが生活する街としても知られている。もともと町工場が多く、ものづくりの街である向島地域。街全体の雰囲気に加え、どのような人でも受け入れる住民の暖かさも後押しし、20年ほど前から夢を持ったアーティストたちが多く移住してくるようになっていた。
自身も、そんなアーティストの1人だという後藤さん。向島地域を盛り上げていくうえで、“アート”という既存の文化に新たな価値を加えることで街の活性化につながると考え、“古民家や長屋”と“アート”を組み合わせたイベントの開催を決意する。
「新しいものを作るが、古いものも一緒に文化を継承する。継承した文化が新しい文化になる」
街に移り住んできたアーティストたち。そして、この街を愛し、生活する住民たち。向島地域に関わる様々な人の協力もあり、2020年に「すみだ向島EXPO」はスタートした。
イベントにかける思いも人それぞれ。今回のエキスポに参加する1人で、東京藝術大学に通う赤星りきさんは、この街に惚れて上京すると同時に長屋での一人暮らしを始めた。
「東京へのイメージは“コンクリートジャングル”だったけれど、商店街を歩いてみたら人の感じや雰囲気がものすごく好きになった」
また日本人のみならず、海外のアーティストたちも「伝統的な日本家屋の建築物はとても興味深く、美しいと感じる」と称賛している。
「まちづくりにアートが必要だったという背景はあるが、今はアーティストがこの街を必要だと思っている。今年のエキスポに来場してくれる方には、故郷や自分のいたい場所にこの街を思ってもらえるようにと考えている」
10月1日、迎えた「すみだ向島EXPO」開幕の日。街には、アートを見ようと多くの人が訪れた。古民家とアートの融合――訪れた人はどう感じたのだろうか。
「今年初めて知って、ここに来るもの今日で3回目。段々見慣れてきて、街に親しみが湧いてきた」(女性)
「いつか僕もこんなのを描いてみたい。はぁ~、落ち着くなぁ。こういうのを見てると」(男の子)
大盛況に終わった開催初日。アートを通じた街の活性化に、地元の人も期待を寄せている。
「このままの姿では残せないが、どういう新しい下町にしていくのかをみんなで考えて、未来に向かって進んでいる感じがとても楽しい」(地元住人の男性)
アーティスト、そして地域住民たちと作る、まちの新たな選択肢。後藤さんの挑戦は、まだまだ道半ばだ。(『ABEMAヒルズ』より)
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