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 10・30プロレスリング・ノアの有明アリーナ大会で、王者・船木誠勝に桜庭和志が挑戦するGHCナショナル選手権が行われる。パンクラス創始者である船木誠勝と、UWFインターナショナル出身でPRIDEの英雄、UFC殿堂入りファイターでもある桜庭和志。ともに総合格闘技でも活躍し、同じUWF系団体にルーツを持つ両者によるノアでの初の一騎打ちということで、この試合は3カウントフォールなし。KO、ギブアップ、TKOのみで決着がつくGHCマーシャルアーツルールで行われることとなった。

【視聴詳細】10・30「NOAH ABEMA presents 有明凱旋ーTHE RETURNー」

 この実験的な一戦を前にUWF系の総帥である前田日明リングスCEOにインタビュー。10・16福岡大会で行われた前哨戦、船木誠勝&拳王vs桜庭和志&鈴木秀樹の試合映像を観てもらったあと話を聞くと、前田の口から激しい檄が飛び出した。

(聞き手・文/堀江ガンツ)

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―― 今、船木選手と桜庭選手によるGHCナショナル選手権の前哨戦となるタッグマッチを観ていただきましたが、まず感想を聞かせてください。

前田 試合内容云々以前に緊張感がないよ。仲良しこよしになっちゃってさ。プロレスっていうのは観客に「ひょっとしたら、こいつらマジで潰し合いするんじゃないか」って思わせるから、みんなが興奮するんだよ。そんな雰囲気どこにあるんだよ? なにもないだろう!  これ、(アントニオ)猪木さんが観ていたら4人ともシバかれてるよ。ホントに。俺でも4人ともシバいてるよ。

―― 桜庭選手はプロレスの試合だと、敢えてコミカルな部分を見せている部分もあると思うんですが……。

前田  (質問を遮って)プロレスっていうのは、リングの中でやるだけの話じゃないんだよ。試合前から「こいつらが闘ったら、ヤバいことになるんじゃないか」っていう緊張感を作らなきゃいけない。それがないから、今のプロレスは“プロレスごっこ”なんだよ! そういうプロレスごっこだらけの中で、彼らがやろうとしていることはいいよ。でも、仲良しこよしでやってるから、観てる人も手拍子しかしないだよ。

―― かつてのUWFのような格闘技術、闘いに回帰するような方向性はいいけれど、緊張感がないと。

前田 全然ないやろ。あんな客の手拍子に合わせた蹴り合いは必要なんか?

―― たしかに、闘いからは遠ざかってしまうかもしれないですね。

前田 観ててそう思うだろ?  PRIDEで頑張った桜庭と、パンクラスで頑張った船木が今度試合するんだろ。経験してきた者同士で、「本チャンの現役は引退したけど、このふたりがムキになったらすごいんだろうな」と思ってみんなが観に来るんだろ? これのどこがムキになってるんだよ! 仲良しこよしじゃん。アホみたいに年がら年中ケンカしろとは言わないよ。ケンカしてなくても、そう思わせるのがプロじゃないか。

―― そう思わせることが、真剣にプロレスに取り組むってことですよね。

前田 当たり前じゃん。べつに揉めなくても、ケンカしなくてもいいよ。でも「いや、俺はお前には負けないよ」「お前を認めるけど俺のほうが上だよ」というプライドをぶつけるからおもしろくなるんじゃん。UWFを観てみろよ。俺は何回もホントにノックアウトしてるからね。藤波さんにだって、後楽園ホールでタッグをやった時に一回ノックアウトしてるよ。

―― 仲間であっても試合ではプライドをぶつけ合っていた、と。たしかにUWFの試合は同門対決なのに緊張感がありました。

前田 だから恐る恐る三分くらいの力で蹴りをやっても意味がないんだよ。せっかくラバーシューズ(レガース)を着けてるんだったらさ、思いっきり蹴っていいんだよ。相手が思いきり蹴ってくるからこそ、受けることに気を抜いたらダメなんだよ。そこに緊張感が生まれるんじゃないか。相手が気を抜いてようとなにしてようと大丈夫な蹴り、そんなのを観て誰が楽しいんだよ。誰が「すごいね」って思うんだよ。

―― たしかにそうですね。

前田 わかるだろ? ラバーシューズを履いていれば、全力で蹴らなくてもすごい音がするんだよ。だからそこまでの危険性はない。でも、天龍源一郎を観てみろよ。あれを硬いリングシューズでやったんだよ。だから俺は天龍源一郎はすごいなと思うんだよ。それを許した(ジャイアント)馬場さんもすごいなと思うんだよ。あれは昔の新日本でもできないことだよ。新日本でやったら1発でクビだよ。俺はラバーシューズ履いて蹴ってもクビだからな。

―― 後楽園で長州さんの顔面を蹴った時ですね。

前田 べつにそこまでやれとは言わないよ。でも、お互いに防御する技術があるんだから、それを活かしてどこまで蹴れるのか。工夫してやれって言ったらアイツらできるんだよ。そういう技術を持ってるんだよ。なんでそれをやらないのっていう話。でも、プロレス同好会あがりがやってるプロレスよりは遥かにマシだよ。ただ、アイツらもホントにプロレスラーをやるんだったらちゃんとプロになりきらなきゃダメ。でないと切符なんか売れません。誰も観に来ません。お前たちのギャラがなくなるよって。

 これでギャラをもらって生活しようと思ってるんだろ。プロフェッショナルなんだろ。そこまで考えてやれよって。「本当にすごいんだ」っていうところを見せてないから、客から「オー!」とか「ワー!」とか興奮するような歓声が聞こえないじゃん。みんな拍手だけ。

―― 本当に興奮したら、声出し禁止でも思わず出てしまいますもんね。

前田 予定調和だよ。こんなのプロレスじゃないよ。これだったら“総合ごっこ”だよ。でも、コイツらには一番可能性があるよ。だから真剣にカネを得るためにプロレスに取り組んでほしいね。やろうとしていることはいいけど、まだまだなんですよ。でも、スタートラインとしてはすごくいいよ。客に媚びる必要はないよ。

 あのタッグマッチに出た4人、船木、桜庭はもちろん、拳王は日拳(日本拳法)で世界チャンピオンになった、鈴木はビル・ロビンソンの最後の弟子だ、みんなできる奴らばかりだよ。なのになんで、今のバカプロレスみたいな手拍子に合わせた蹴り合いをやる必要があるんだよ。あんなの昭和の時代だったら、プッシュアップ棒を持ってリングに乗り込んで、みんな半殺しだよ。(山本)小鉄さんとか猪木さんが一番元気だった頃は、実際に俺らも試合中にそういうことをされて、リング上でシバかれたあと興行が終わるまでずっとスクワットだよ。

―― 実際そうだったんですよね。

前田 スクワットをメインが終わるまでやると5千回やることになるんだよ。それをやったんだよ。少なくともUWFっていうのは猪木さんがホントにやりたかったことで、それを俺らがバカ正直にやっただけの話なんだよ。その系統の選手があれだけ集まってやるプロレスがこれだったら、すごく悲しい。

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―― 前田さんも、できる選手たちだからこそ叱咤するわけですよね。

前田 今は意見する奴や教える奴がいないんだよ。だから今回の俺の文句をよく考えてやってほしいね。だったらプロレスはまた盛り上がってくるよ。コイツらが頑張って客も惹きつけて、コイツらを手本にして育っていく選手が次のプロレス界をまた作っていってくれるよ。でも、いまのままだったら10年後にプロレスはなくなってるよ。リングの上はコミックレスラーだらけじゃん。素人とケンカをしても負けちゃいそうな奴がレスラーってなんやねん。

 だから、もっと頑張ってほしいね。今はインディーのほうが多いやんけ。「誰でもプロレスラーになれます」みたいなのばかりで、なんていうか最悪だよね。「お前らと一緒にされたくないよ」っていうのばっかりじゃん。なにがプロレスラーだよ、ホントに。カッコ悪いったらありゃしないよ。もうそいつらはどうだっていいんだよ。俺らと同じことをして頑張ってきた後輩がああいうのをやってると、「おいおい、頼むぜ、桜庭、船木、違うだろ!」って。だからアイツらには厳しいことを言うよ。アイツらはできるんだもん。

―― 前田さんは先日、藤波辰爾さんのドラディションのリング上での挨拶で「猪木さんが残したかったスタイルを残していきたい」という発言をされてましたよね。

前田 だから今日も言ってるんだよ。猪木さんが死んでなかったらこういうことも言わないよ。あら探しじゃないんだよ。なんで猪木さんの時代には緊張感があったのか、なんでいまはないのか。そういうのを書かないとダメだよ。

―― はい。そこの大事な部分が抜け落ちてしまっている気がします。

前田 わかるだろ? 桜庭も船木もプライドを持って真剣にプロレスをやってきたからこそ、PRIDEに出たり、パンクラスをやったりしたわけでしょ。鈴木だって、ロビンソンに師事したわけでしょ。その3人には、お客が「これはすごいな」と思うような試合を見せてほしいよ。

 あと拳王もちょっと見どころありそうだから、うまくいけば大きく化けるよ。俺はこないだ拳王とYouTubeを撮ったときにいろいろ聞かれたから言ったんだよね。アイツはいま、「どうしたらいいですか?」って暗中模索してますよ。あれは真面目ないい奴ですよ。まだまだ伸びるよ、アイツは。

―― 拳王選手は危機感を持ってやっていますよね。

前田 だから船木たちだってそこまでしっかり考えてやらないと、この“プロレスごっこ”だらけのプロレス界に埋もれちゃうよ。客に媚びを売るんじゃなくて、客に「どうなるんだ?」ってハラハラさせて引っ張らないと。船木や桜庭はそれができるんだから、今こそそういうプロレスを見せてほしい。俺が言いたいのは、そういうことですよ。

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