長野県の高校で10月、全日制の高校としては珍しい、アイドルを志す生徒を受け入れ育てる「芸能人養成コース」の設置が発表された。なぜ学校でアイドルを育てるのか。校長に話を聞いた。
「国内で通信制ではなく全日制で“芸能コース”について考えられる学校は、今のところほかに無いのではないか」
こう話すのは、長野県にある佐久長聖高校の佐藤康校長。10月20日、佐久長聖高校は2023年度から“ゲームクリエイター”と“芸能人”の養成コースを普通科クラス内にそれぞれ新設することを発表。中でも「芸能人養成コース」は、アイドルを志す女子生徒を募集するという。
「午前中は通常の授業をやって、午後からは歌のレッスンやダンスパフォーマンスといった授業も学校で全部やってしまう。講師は(提携する)プロダクションの方から派遣してもらう」
これまで数々の学校を渡り歩き、全国屈指のアスリートや、役者など芸能活動を行う教え子たちを多く受け持ってきたという佐藤校長。今回の“アイドル養成コース”設立の背景には、そんな生徒たちが口にした“将来への不安”が…。
「芸能活動している子がいて、俳優だったのだが『辞めて次どうやって食べていくかちょっと見えてこない』とか、そういう話が多くあった」
芸能人とセカンドキャリア。この課題を解決するために佐藤校長が注目したのは、世界中で人気を博す韓国のエンタメ業界だった。“大学入試が人生を決める”とも言われる韓国では、芸能人も活動の傍ら大学を卒業するなど学業と芸能を両立しているそうだ。
「日本でもそういう(大学も卒業した)人たちは活躍している。いわゆるセカンドキャリアまで、もし芸能活動がうまくいかなければ大学に進学できるようしっかり勉強もさせる。あるいは『勉強もしたい』という子どもたちを集めて両方の面倒を見ようというのがスタートだ」
欠席の際は、補修や課題の提出で単位を取れる“芸能優先”な従来の芸能コースと異なり、長野県内でも有数の進学校であるこの高校ではあくまで“学業優先”。しっかり授業を受けた上で放課後などにレッスンを受け、アイドルへの階段を上っていく。
東京でのオーディションなど、アイドルになるための挑戦はもちろん、学校の生徒たちでグループを結成し、長野県内のテレビ番組に出演してもらうなど、学校としても手厚い支援を検討しているという。同時に、「生徒たちには学生生活も大事にしてほしい」と佐藤校長は話す。
「できるだけ普通の高校生活をさせてあげたい。みんなから愛されるためには、逆にさりげなく高校生であってほしいなというのがある。あと謙虚であってほしいという思いもある。そこをしっかり伝えて、大スターになっていってもらいたい」
佐久長聖高校の取り組みについて、『ABEMAヒルズ』に出演した振り付け師の竹中夏海氏は「大切な視点だ」と話す。
「アイドルの“その先”までを考えられている人間はほとんどいないなと思うので、この考え方が浸透するといい。アイドル業界に限らず、芸能界って自分の生活を犠牲にすることが美徳とされているムードがある。それはもう廃れてもいいのではないか」
また、番組キャスターで元SKR48の柴田阿弥は「どの会社でも退社後に面倒を見てくれるわけではない」として、自身の経験を明かす。
「今はだいぶ改善されたと聞いているが、私が所属していたグループも、当時は学校に行く子は少なかった。大多数が通信制の高校に行ったり、大学に通っていても同期の中で卒業したのは私だけといった状況だった。周囲には『学校行くんだ?』みたいな雰囲気があり、メンバーから直接『学業を優先するんだ』と言われたことがある。その子が悪いわけではなく、両立できる人がいなかったからだと思う。本当に辛かったが、親に『大学だけは絶対に行け』と言われていて、卒業して今ここに座っていられる。何度もやめたいと考えたが、選択肢を残しておけて良かった。ちゃんと学校に行って、普通の学生生活を送ることも大事だと思う」
さらに竹中氏は「アイドルファンとしての意見」として次のように述べた。
「“推し”が文化祭や成人式を犠牲にしてまで……というのは、『推すの辛いな』という気持ちになる。佐藤校長が仰っていたように、“さりげなく高校生活を楽しんでほしい”というのはすごく思う。柴田さんがメンバーの子に言われたことも、そういう風に思わせてしまう環境が問題だと思う。周りの大人は、『いずれこの子たちは、違う社会に出ていくんだ』ということを考えて、その時間だけを消費するのではなく、立派な社会人に育てる気持ちを持つことが大切だ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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