摂食障害を患った自らの経験を発信し続ける女性がいる。彼女はなぜ発信を行うのか、その胸の内に番組は迫った。
痩せ細り、骨の形がすけて見える女性。彼女を蝕んだのは、拒食や過食を繰り返す”摂食障害”だった。
「『あと何キロ痩せたら即入院のすごいギリギリのラインなんですよ』と言われて、そこで初めて自分の深刻さを知ったという感じだった」
そう話すのは、国際基督教大学に通う現役の大学生・河野瑞夏さん(22)。河野さんは2022年1月、“日本らしい美しさ”を追求した「2022ミス日本」でグランプリを受賞した。自身が経験した「摂食障害」についての講演などこの1年間「ミス日本グランプリ」として活動を行ってきた。
「摂食障害を経験し、そこから“ミス日本”の美しさというものに挑戦した経緯があるので、自分の等身大の気づきみたいなことについて発信している」
10代の頃、自分に自信が持てず、“細い体”を維持することで自らのアイデンティティーを保っていたという河野さん。高校3年生の時に太ったことがきっかけでダイエットを開始した。初めは夕食を抜く程度だったが2019年の大学進学後、それがエスカレートしていった。
「環境も変わって、友達作りも不安定な中でも、“体形はちゃんと管理しないと”という思いがどんどん強くなって……。今まで朝と昼はちゃんと食べていたのにそこも全部抜いたり」
そして河野さんを更に追い込むことになったのが2020年、新型コロナの感染拡大による外出自粛だった。
「すべての食事が親に監視されている恐怖と、運動ができないイライラが止まらなくなって、そこから過食に。今までの拒食の反動も過食に転じて、それから少しずつ過食と拒食を繰り返す日々」
拒食と過食――。両極端の日々を過ごす中、今後は食べ過ぎては戻してしまう“過食嘔吐“が癖に。身長171センチに対し、体重が40キロを下回る時も……。
「(自分の体を鏡で見た時は)美しいと思わなかった。『こんな姿になりたかったんだっけ?』と思っていた気がする。しかし同時にそれは体重を管理できているという証拠でもあるので安心感はあった」
病院の精神科で告げられたのは摂食障害だった。厚生労働省によると、摂食障害で医療機関を受診している患者は国内で年間約21万人。10〜20代の若者がかかることが多く、女性の割合が高いが“誰でもかかる病気”だという。
医師の指導もあり、少しずつ体重を戻していった河野さん。そんな中、転機となったのが大学の先輩を通じて知った「ミス日本」というコンテストの存在。それは、これまでの“美”の価値観を変えるものだった。
「よく見ると内面とか、行動とかの美しさを探求しているところなんだなというのを知って、改めてちゃんと美しさというものが何かを知りたいと」
また、摂食障害を患った自分が参加することで、同じ境遇に立つ人の希望になればと河野さんは応募を決意。予選を勝ち抜き、見事ファイナリストに選ばれた。グランプリ受賞後は、摂食障害のシンポジウムで講演するなど、理解促進と啓発に奮闘。そして今年1月、ミス日本グランプリとしての任期を終えた。
今も摂食障害と戦いながら発信を続ける河野さん。誰もがなる可能性があるとした上で現在悩む人たちにこう訴える。
「私の課題でもあるが、転んだのはあなたのせいじゃないけれど、そこから治すのは医者でも親でも先生でも誰でもなくて、あなた自身にしかできないから、そこへの覚悟はあなたが決める必要があるよというのは伝えたい」
河野さんの話を受けて、精神科医の木村好珠氏に話を聞いた。
「(河野さんは)細い身体が自分のアイデンティティーだと言っていたように、見た目は一番わかりやすく褒められるところで、自分で頑張れることなので、結果が出た時に『細くなったね』『すごいね』と褒められると承認欲求を得られる。それによって『細くなると私って褒められるんだ』『これが自分のアイデンティティーなんだ』ということが繰り返される。そして、食事をとっていないので、脳に栄養が入っていない状態になってしまい、認知の歪みがくる。他の人から見ると細いと思う体形でも、本人からすると『全然細くない』『全然お肉がある』っていう状態になってしまって、だんだん自分で現実を見ることができなくなってしまう。それでどんどん拒食になってしまったら、それに伴いストレスもどんどんかかる。そうすると、誰かと食べることも苦痛になるので、外界との接触も少なくなってしまい、自分の孤独を作りやすくなってしまう。そして、孤独の中で必死にストレスとも戦いながら過食、過食ということを繰り返して、食事が酷くなってしまう状態に陥る」
――「認知の歪み」があると話していたが、この認知が歪むとなかなか治療しようと思えないものなのか。
「摂食障害の一番の問題は、“自分が治りたい”という意思を持っている人が少ないということ。大体の病気は自分が治りたいから病院に行くものだが、摂食障害というのは自分は治りたいと思ってなくて、周りに心配されて行くので、患者さんは大体抵抗する。なので“自分は今まずい状態なんだ”ということを自己認識して治療に向かうことが第一歩だ」
――酷くストレスがかかった時にいっぱい食べて解消する方や、吐くまで飲むといった方もいるので、ミス日本など人前に出るとか関係なく誰でもかかりやすいものなのか。
「誰でもかかる可能性のある病気。その時に孤独になってしまって誰かが気づいてくれない、または気づかれたくないのもあるので、みんなになかなか言えなくて自分自身でどうにかしようとする、また出来るって思ってしまう。なので、自分の孤独の中ではどうしても治せないし、どんどんストレスもかかる。食べることは、目や手、口などといろんなところを使うので一瞬、不安をなくせる行為になる。それをどんどん繰り返してしまって、なかなか治療に足が運べないという状態に陥ってしまうことが多い」
――また、摂食障害についてはコロナ禍前の2019年に比べ、“神経性やせ症”の子どもの初診外来患者が1.6倍に増え、その後も高止まりとなっている。コロナ禍でのストレスは子どもにとっても大きなものなのか。
「コロナ禍になって外で友達と喋れない、運動ができない、ずっと家にいないといけないという状態は大人以上に子どももストレスを抱える。大人になると周りに不安などを発信することができるが、子どもはその発信方法がなかなかわからない子が多いので、その結果、こういう神経性のやせ症が出てしまう。これは病気という概念もあるが、私としては不安やストレスのSOSを出しているのだと考えてほしい」
――では周りのサポートは子どもに限らず大事だと思うが、SOSに気づいた時、周りの大人はどのような対応をしたらいいのか。
「よく、こういう病気を見つけた時に体のことを心配して『食べなさい』と言うが、でもそういうことではない。食べないというのはストレスの結果なので、その行為に至る前の不安だったり、ストレスに一緒に対応してあげる。食べないことに食べなさいではなく、不安があったら聞いてあげて、一緒に楽しいことしてみるとか、強制的なことではなくて一緒に見守っていこう、治していこうという温かい支援が必要。そして、食べなさいというのは一番言って欲しくない言葉なので、そのことよりは心のケアに目を向けてほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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