午後7時過ぎの新宿・歌舞伎町に行くと、ある通りに多くの人だかりができていた。若い女性たちに入れ替わり立ち替わり声をかける男性たち。聞こえてきたのは「いくら?」という会話だ。
実はこの場所は路上売春をする女性、通称“立ちんぼ”が集まるスポットとして、以前から知られている。2018年に取材した際は、人通りもまばらで、路上に立つ女性の多くは外国人だった。しかし、最近は日本人の若い女性が急増。路上売春は法律で禁止されているが、なぜ増えているのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、1人の女性に話を聞くことができた。
エリさん(仮名・20代前半)が売春を始めたきっかけは「初めて行ったホストクラブにハマったから」だった。現在、売掛金が合計60万円ほどあるという。
返済するため風俗店で働き始めたエリさん。しかし、コロナ禍で客足が遠のき、稼ぎが減少。去年秋から路上に立つようになった。場合によってはTwitterでフォロワーと直接やり取りし、ホテルへ行くこともある。とはいえ、路上に立ち、売春することは違法行為だ。だが、今のエリさんに売春をやめる考えはない。
「罪悪感はない。怖いという思いだけはあるが、稼ぐしかないから」(エリさん)
そんな女性たちに支援の手を差し伸べるのが、NPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新氏だ。夜回り活動に同行すると、坂本氏は「こんばんは。何かあったら後ろに書いてある連絡先へ相談してください。気を付けてね」と女性に声をかけていく。
坂本氏は「コロナ禍以降、路上に立つ女性が増えている」と話す。
「職を失ったり、派遣社員で勤務時間が減らされたりして、家賃や食費もままならない人がいる。やむを得ずここに来ている人も一定数いる。長い目で見た支援が必要だ」
女性たちの中には経済的に困窮していたり、未婚で妊娠・出産したシングルマザーなど、人には相談しづらい事情を抱えている人も少なくない。
坂本氏は声かけの際にカイロやハンドクリーム、マスクなどの生活用品を連絡先が書かれたカードとともに配布。何度も足を運び、関係性を築けたら、本人の了解のもと、民間の支援団体や自治体の福祉窓口などへ繋げている。
「本人が『支援を受けたくない』『今はこのままでいい』と思うのであれば、それ以上は押さない。本人の意に反して支援に繋いでも、結局戻ってきてしまう。本人が『今の環境を変えたい』『体を売らなくても生活していけるようになりたい』という気持ちになったときに支援を受けられるようにしたい」
支援後もまた売春に戻ってしまうもどかしさについて、どう感じているのか。
「今の時点では、本当にいろいろな状況があって、すべてのケースに共通するような支援の公式はない。当事者たちをこちらが否定するのではなく、それを受け止めながら、長く関わっていくことが、私が今できることだと思う。当事者が『ここを抜け出したい』と思ったとき、私ではなくても信頼して相談できる人間がいればいい。当事者を置き去りにさせないことが大事だ」
過去に実態を調査するため、立ちんぼに扮し、体当たり取材を行った経験もあるライターの佐々木チワワ氏は、現状をどのように見ているのだろうか。
「あの場所に立って、30秒足らずで男性から声をかけられた。『何してんの?』とか『今日どんな感じ?』『いくら?』と、まず値段交渉からされる。相場が大体1.5万から2万円で1時間。立っている女性イコール、立ちんぼと見られる」
その上で佐々木氏は「単純な貧困問題で片付けるのは違う」と指摘する。
「実際、立ちんぼをしてホストクラブに行っている女性もいる。困窮して、月収が10万円を切る人っておそらくそんなにいない。生活費や家を借りるお金がないから、1日3000円のネットカフェにいって、目先のお金を稼いでいる。手っ取り早く『今から1時間で1万円ほしい』となったとき、早いのは路上に立つこと。お店に売上の半額をバックで持っていかれるより、見ず知らずの人に会うリスクがあっても効率がいい。ある種、風俗のフリーランス化が進んでいる。経済的貧困支援だけでなく、人との繋がりや居場所としての支援も必要だ。複合的な問題があって、“貧困女子”でまとめるのは違うと思う」
買う側も罰則の対象にならないことが助長している部分もあるのか。
「実際に立って感じたことだが、本当に買うことに対して罪悪感はない。海外旅行特有の『繁華街で買春を楽しむ』という文化があるように、そういうスポットとして楽しまれている。交渉ゲームと思っている人もいる。エンタメ化しているのも問題だ。罪の意識もなく、風俗との違いをあまり理解していない。『助けてあげている』という感覚の人すらいる」
(「ABEMA Prime」より)
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