先月発売され、注目を集めている本がある。タイトルは『ネット右翼になった父』(著者・鈴木大介/講談社現代新書)。本では作者の父が晩年、保守的な思想、右寄りの情報をサイトで見漁り、特定の国に向けたヘイトスラングを口にするなど、ネトウヨ化する姿が描かれている。
【映像】ハングルや中国語を見て「粗悪品」 親のネトウヨ発言例(画像あり)
ネット右翼(通称・ネトウヨ)とは「特定の国や外国人を過剰に意識し、差別主義的な言説をネット上で繰り返す人」とされている。ニュース番組「ABEMA Prime」の取材に答えてくれた伊藤さん(仮名)も同居中の母親(64歳)が、4年ほど前から突如、偏った考えを持ち始めたという。
「だいたい4~5年くらい前にiPadを家に置いた。すると、気づいたら右翼系の掲示板やまとめサイト、YouTubeを見ていて、日常会話でも差別的な発言が増えてきた。数カ月、口をきかない状態になっていました」(伊藤さん)
伊藤さんの母は、スーパーなどで購入した商品にハングルや中国語が書いてあると「そんなものは食べられない」「粗悪品だ」と言って、受け付けない。また、テレビで韓国や中国のニュースが流れると露骨に機嫌を悪くしヘイト的な言葉を発するという。
「母はもともとそういう話をする人ではなかった」と話す伊藤さん。父からは「何を言っても通じないよ」と突き離された。伊藤さん自身は母親をどう思っているのか。
「基本的に特定の国の政治的な活動に対して、すごく批判的だ。そういう国の人に対する差別的な発言が一番の悩みだ。不愉快になって、何か言い返したくなっちゃう。そうすると、口論になって、団らんの時間であっても険悪な空気になってしまう。まだ、度を越しているほどではないとは思うが、今後SNSで自分からガンガン情報を発信し始めたら、ちょっとまずいと思っている」
伊藤さんの母は、なぜ偏った思想にのめり込んでいったのだろうか。
「以前から読書が趣味の人だった。それが老眼が進んでしまって、タブレットに変わった。もともと政治的な考えを自分から言わない人だった。刺激のあった話題が保守的な言説だったのか、それが呼び水になって蓋をしていたものがバーって出てきて、エスカレートしていった気がしないでもない。団体行動で誹謗中傷する行為は何としてでも止めたい。もし母が誹謗中傷まで始めたら、そのときはタブレットを取り上げてしまうと思う」
一方で、母が一番楽しそうにしているのはどのようなときか。
「飼い猫と遊んでいるときだ。右傾化した後に猫を飼い始めた。保守的なものを見ることに時間を使っていると、どんどん顔も険しくなっていくが、猫がいると若干トーンが和らぐ。他のものがあると、それはそれで楽しいのだと思う」
政治学者の秦正樹氏(京都府立大学准教授)はこうした高齢者をどう見ているのか。秦氏は「詳しい状況が分からないので、適当なことは言えない」とした上で「一般的に高齢者になると、ある程度保守化していく」と話す。
「『蓋をしていたものが開く』という説明はすごく分かる。読書の範囲では、ある程度フィルターがかかった情報だが、それが完全にないと『やっぱり自分の考えは間違ってなかったんだ』みたいな形で、より信じやすくなってしまうのだろうと思う」
秦氏自身も右翼に感化された時期があったという。自身の経験から、どのように分析しているか。
「僕が大学3回生ぐらいのときは、民主党に政権交代した時代だった。あのときは“ネトウヨブーム”みたいなのがあって、民主党になったら『鳩山は韓国と繋がっている』などの情報がたくさんあった。逆にそういう情報から『政治は面白い』と関心を持った。僕は政治学者の中でもかなりレアだ。『どうやって俯瞰して見られるようになったか?』と聞かれると、全員政治学をやれとは言わないが、この世界に来るとリベラルな人が多い。『政治を現象として客観的に見ましょう』という人たちに触れていると、自分が偏っていることが相対的に分かった。自分は普通だと思っていたが、普通じゃないんだと。左傾化したわけではないが『違うな』と思うようになった。それでも2、3年ぐらいかかった」
まとめサイトが及ぼしている影響は大きいのだろうか。
「『シニア層でまとめサイトを見ている人』と『陰謀論的な考え方』の親和性を調査したことがある。統計の結果、すごく親和性があった。20代や30代、40代はそういう傾向がなかった」
人を蔑むような発言があったとき、どう向き合ったらいいのだろうか。
「他人であれば、まずは距離を置いたほうがいい。そうしないと、こちらが陰謀論に染まってしまう可能性がある。だが、家族はそうはいかない。どうしたらいいのか僕も答えを持ち合わせているわけではないが、例えばヨーロッパでは陰謀論を信じた人に『カウンセリングを受けましょう』と指導することがある。ここまでやるかと思うかもしれないが、YouTubeやネット右翼系のまとめサイトから入って、放っておくとズブズブのめり込んでしまう可能性がある」
(「ABEMA Prime」より)
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