2022年11月にアメリカの労働省が発表した、企業年金についてESGの要因も考慮して投資先を選べる規則。今年これを無効とする決議が連邦議会で可決されると、ESG投資を進めてきたバイデン大統領は3月、初となる拒否権を発動した。
ただ、反対の声はこれだけではない。19州の知事が連名で声明を発表しており、2022年8月にはフロリダ州のデサンティス知事が州年金基金へのESG投資を禁止にしている。
ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(統治)の頭文字を取った言葉で、環境や人権などの社会課題への取り組みのことで、ESGを重視した経済活動を行う企業への投資に関心が高まっていえう。
なぜ反対の声が大きくなっているのか? そもそも“ウォークキャピタリズム=意識高い系資本主義”とも言われるESGの本質的な意義について、専門家とともに掘り下げた。
まず、知事たちが発表した反ESG投資の声明について、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は「19の州は共和党の支持が高くレッド・ステートと言われる。米国は民主党と共和党で真っ二つだが、ESGに関係するエネルギーとCO2の話でも同じ。バイデン政権は2050年にCO2ゼロと言っているが、共和党側は“気候危機なんて存在しない。経済や安全保障のほうが大事だ”という発想だ」と説明。
その上で「アメリカは、石油・ガスの産出が世界一で、石炭の埋蔵量も世界一。共和党の州はそれで潤っている産業が特に多く、ESG投資によって投資が回らないことが反発する理由だ。デサンティス氏は、共和党内では、トランプ氏に次ぐ2番手で人気がある。彼を筆頭に、実力者といえる共和党のほとんどの知事が結集して反ESG運動を旗揚げしたので影響が大きい。フロリダ州で先行してESG禁止を進め、それが通れば19の州全体に広がっていく話だ」と解説する。
一方で、ESG投資の価値観やその基準を一部の人たちだけで決めていないか? そもそも本当に環境や社会にとって意義があるものなのか?という指摘もある。
杉山氏は「共和党が批判しているのはまさにこの点だ。環境・社会・ガバナンスは、価値観によって答えが全く異なる話。例えば太陽光発電はいいが、原子力はダメという価値観もある。基準を決めているのは、国際的な金融機関などだが、そこに運動家も入り込んでいる。ウォーク・キャピタリズムという言葉がある。ウォーク(woke)=目覚めたという意味で、日本風に言うと“意識高い系資本主義”。リベラル的な思想をさまざまな国際機関や年金基金など公的なものを含めて、事実上押しつけているという批判だ」と説明した。
制度アナリストで元経産官僚の宇佐美典也氏も「ESGの基準が納得できるものなら良いけれど、これ本当に意味あるの? と。再エネは“善”で、原発は“悪”。あるいは中途半端に扱われているわけだが、なぜエネルギー効率は米国より日本のほうが高いのか。それは変だと思わないか」と疑問を投げかける。具体的な例が電力不足に関するものだ。
宇佐美氏は「前の小泉環境大臣が、日本は脱炭素だと言って、現実に石炭火力が減ってきた。いざ電力不足になった時に予備電源が足りない状況になっても、ESGに反しているのは石炭だと。ESGの基準をごく一部の金融エリートが作り、それを日本に当てはめて、礼賛した政治家がいて、今電力不足で困っている。何これ?と思う。再エネを仕事にしている僕でもおかしいと思う」と批判した。
一方で「“ESGを考えて”とバイデン大統領が言って、共和党は“考えちゃいけないよ”と言っている。だけど考えること自体は何も悪くない」とコメントしたのは、米ハーバード大出身でお笑い芸人のパックンだ。
「企業は儲けるもの。社会や環境ではなく金を考えてくれという意見は一理あると思うが、グリーンエネルギーや人権を守る企業を優先するという選択肢はあっていい。今通している法案は「その選択肢はなし」と言っているのが、おかしいと思う。自由な経済を理想とする共和党が自由を縛っていることに強い違和感がある」と違った見方を提示した。
金融アナリストで規制改革推進会議で議長を務める大槻奈那氏は「ESGを守っている企業の収益がいいのならWin-Winだ。そこに投資ができるので、ESGを直接考慮しなくても、結果として重視する会社を選んでいける。そこがやっぱりソリューションだと思うが、残念ながらまだ研究もそこまで行き着いてない。投資を縛るよりも、CO2を出す会社には炭素税をかけるなどのあり方が、筋としては正しいのでは」と指摘。
杉山氏も「ESGを売り込む人たちの論理は、ESGを考慮することで長期的にはその企業の利益が上がるというものだった。ただ経済学でいうと、儲けよりも違う価値を優先するのなら経済的には儲からないだろう、というのが伝統的な考え方だ」とコメントし、環境や社会を重視するESGと経済的な儲けは両立しないとした。
その上で「反ESGの動きは、すごく盛り上がっていて、デサンティス知事のような大物がこれだけやっている。大統領選ではトランプ氏でもデサンティス氏でも、党として反ESGなので、選挙の結果次第ではアメリカはガラッとすべて変わってしまう。そうなるとESGは消える可能性もあるのではないか」
ESGに関する動きは、米大統領選の結果いかんで大きく変わる可能性があり、そうした欧米の動向に左右される日本もまた、それと無縁ではないだろう。(『ABEMA Prime』より)
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