新学期を迎えた4月。高校では2022年度から必修科目となった『歴史総合』に注目が集まっている。
歴史総合は、従来の『日本史A』と『世界史A』を合わせた科目で、主に日本と世界の近現代史を総合的に学ぶが、導入から1年が経った今、「教科書の内容が終わらない」「履修範囲に差が出るのは不公平」といった声もあがる。
2025年度から大学入学共通テストにも加わる歴史総合。さまざまな指摘があるなか、どこまで教えるべきなのか。現役教師、そして塾講師とともに考える。
■「歴史総合」導入1年で見えた現場の実態は?
歴史総合は、日本史と世界史を合わせた総合的な内容で、範囲は18世紀後半から現代までという科目。多くの学校で、高校1年生の授業で扱われている。
関西の進学校に勤務し、1年生担当の高校教師・タロウさんは「ベテランの先生とタッグを組んで1年間、歴史総合を担当したが、結局3分の1程度しか終わらなかったのが昨年の状況だ。3分の1程度で終わっている学校はけっこう多い」というように、歴史総合を教える難しさに直面しているという。
「しっかり教えると、自然と3分の1のところでタイムオーバーになる。教科書を一言一句やっていくと終わらない」のが現状だと説明する。
■なぜ3分の1しか終わらない? そもそもカリキュラムは適切か
もし、3分の1で終わってしまう学校が続出しているのならば、そもそもの設定が間違っているのではないか?
タロウさんは「近代化に関する全ての出来事を扱わなくてもいいはずだ。近代化はどういう事象なのか、産業革命を軸にして考える、国民・国家形成に着目してやっていくなど、取捨選択は可能。年間を通したカリキュラム構成を、1つの変化に対して3分の1ずつ教員側がデザインできれば、バランスよく1年間でできると思う」との考えを示した。
一方、現役の塾講師は違う意見だ。
世界史を専門に教えて14年、「ゆげ塾」の塾長を務める、ゆげひろのぶ氏は「歴史総合というカリキュラム自体、すごく頭のいい人たちが教える前提で作っている。今までの教科書に比べて抽象化を求めている。だから例えばうちの塾なら、教科書を頭からやるのではなく、インフレというくくりで、西南戦争でインフレがあった、日本の戦後でインフレがあったと、全部やる。ゆげ塾でも歴史総合をやっているが、うちの場合は秋で終わる」と述べた。
ゆげ氏は、受験対策で学校の“残り”を学ぶ需要も踏まえて「今から5年ほど歴史総合のバブルが起きると思う。うちの塾にも来ている。ただ、6〜8年経つと、YouTubeなどで良い講義などが揃ってくる。そうなると無料もしくは安い値段で受講できるようになると思う」と今後を予測する。
そのうえで、「日本史や世界史という区分は教える側の都合で、そもそもおかしかった。その点では本来あるべき形になったと思う」との見方を示した。
ただし、「1つの大きな問題は、大学入試センターが出している歴史総合のサンプル問題にすら間違いがあること。なぜ間違いが生じているか? あまりにも抽象的な問題だからだ。作問が難しいし、教えるのも、採点も難しい」と課題も合わせて指摘した。
■暗記は悪? 「歴史」を学ぶ授業の意義
こうした現状に、慶應義塾大学卒業で『歴史のじかん』の著者でもあるタレントの山崎怜奈は、「近現代史は自分たちも端折って教えられた。授業の時間のコマ数が足りないから、駆け足でとても急いでやった。授業だけでは理解できないから自分でも勉強して身になった部分もある。ただ、時系列をそのままなぞるような歴史教育はあまり意味がないとも感じた。受験は暗記で勝つようなものになってしまっているから、それが問題なのではないか」と述べた。
それでも歴史総合は教師にとってやりがいのある授業だという。
タロウさんは「新しい学習指導要領では、評価に3つの観点がある。1つが知識・技能、2つ目が思考力・判断力・表現力、3つ目が学びに向かう人間性だ。暗記は大事だが、たとえばウクライナ戦争など、現代社会に起こるさまざまな問題を、歴史の視点から捉え直してほしいというのが設計者側のメッセージだ」と述べた。
「教科書にあることはチャットGPTなどで最終的に出てくるはずだ。その歴史を人間がどう評価・解釈するかこそが面白い。それを今の社会に活かして、新たな関係の構築に繋げることができるかを求めている。歴史は暗記ではない」というのがタロウさんの持論だ。
ジャーナリストの堀潤氏は「やはり、産業が新しくなってどう生きるか、といった学びには歴史という教科が合っていると思う。でも、それは従来の歴史の勉強とは全然違う。ひょっとすると歴史というくくり方が、エラーを引き起こしている原因ではないか。現場の先生に、“この時間はこのテーマ性を持って教えたい”という裁量が与えられ、その結果が3分の1なら、僕は正解だと思う。そうではないなら設計が間違っている」と、歴史授業のあり方に新たな論点を提起した。(『ABEMA Prime』より)
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